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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ14位 陰獣 江戸川乱歩

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     「孤島の鬼」とはまた違った意味での、「大人向け乱歩」の到達点。乱歩の代表作といわれるものは片っ端から、あの「化人幻戯」までも「白い羽根の謎」として児童向けにリライトし、少年探偵団シリーズに組み込んだ図々しいにもほどがあるポプラ社でも、さすがにこれと「孤島の鬼」はシリーズに組み込むことはできなかった。まあ当たり前だが。

     そしてこの「陰獣」という作品がもう、発表年代を思えばすさまじいほどの実験作である。ここにあるのは「心理試験」で見せた精密な論理の世界と、「鏡地獄」や「パノラマ島綺譚」で見せた幻視者としての世界の、強引なまでの合体であるのだ。なおかつ、それを自覚した上で、これまでの乱歩自身の作品の総決算と自己批判を行っている。そんなことはエッセイや論文でやれ、というのはたやすいが、乱歩にはこのような形で表現をするしかなかったのだろう。

     自分の小説における「精密な論理」のあまりの脆弱性、そして限界性と、暗い世界に対する自分の幻視力が至らないことの歯がゆさ、そしてそんな自分の作家としての苦悩を自分で抹消したいという奇妙な欲望。それらがこの作品を、乱歩の他の作品と比較して極めてユニークなものにしているのだ。

     この小説で事件にかかわる主要人物四人が皆、SM小説に登場してもおかしくないようなどうしようもない変態なのに対して、かかわる事件は合理的に解釈可能なものである、という取り合わせの面白さだったはずのものが、そうした変態たちの日常も、事件の真相も、タマネギの皮をむくように一枚、二枚とむかれていって、最後には「存在しなくなってしまう」という異常なプロット。当時の批評家からさんざん叩かれた、というのもわからないではない。おそらく、当時の文壇で、この作品のもつ実験性と革新性とを正しく認識していたのは、この小説にがんがん宣伝をかけて、ベストセラーにした「新青年」の編集長、横溝正史だけだったのではないかと思う。

     もし、乱歩が、この「陰獣」のプロットの上に、考えられる限りの自分の妄想と、知る限りの雑学とをぶち込んでいたら、とよく想像する。もしそれが叶っていたなら、われわれは、「ドグラ・マグラ」や「黒死館殺人事件」と並ぶ「奇書」を手に入れていたに違いないのだ。そう考えるとまことに惜しい作品である。

     しかし、角川文庫版の切り絵の表紙、もうちょっとセンスいうもんはなかったんか。小学生の時、縁日の古本市で「あっ乱歩だ!」と手を触れかけたとたん、両親に「そんな本は読んじゃだめ!」と……まあたしかにガキが読む本でもないけどね。
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    ~ Comment ~

    Re: blackoutさん

    ラストの処理は、日本ではまだ類例というものがない「リドル・ストーリー」というやつをやったところに、乱歩の先見性があったと思います。リドル・ストーリーの元祖である「女か虎か」が日本のミステリ文壇でもメジャーになったのが、戦後、EQMM誌が訳載してからですから、当時は甲賀三郎あたりから相当叩かれたみたいですね。

    孤島の鬼はサスペンスというよりも冒険小説の色の方が強いと思うけれど、再読がまだなので、読むのがとても楽しみです。

    乱歩の変態小説の極みといったら「鏡地獄」でしょうね。ほかの作品は「変態になりたくなかったのになってしまった」ものとか「変態が事件に巻き込まれる」というものなのに対し、「鏡地獄」は変態が変態的行為をする「だけ」の話ですから(笑)

    NoTitle

    そういえば二銭銅貨は読んでないですね(汗)

    陰獣は読みました
    確かにいろんな意味で彼らしい作品な気がしますねw

    個人的には、ラストがちょっと肩透かし気味でしたが、まぁ、あれはあれでいいかなって思ったりもします

    とはいえ、自分は意外とサスペンス要素のあるものが好きだったりするので、孤島の鬼とか暗黒星とか蜘蛛男とか大暗室とかの方が好きですね

    あと、変態チックなのもイケるwので、芋虫とか蟲とかも好きです

    Re: 面白半分さん

    わたしも再読して「ああ、こんなに面白かったんだ」と思ったクチですので、ぜひご再読を。

    実によくできてますよ(^^)

    NoTitle

    『淫獣』(すみません面白いのでのっかってみました)はあまり印象がなくよく覚えていないのですが”角川文庫版の切り絵の表紙”でわかりました。

    かなり本格寄りの作品で実験作だったんですね。
    これは乱歩再読の上位にきそうです。


    メッセージをどうぞ

    Re: 椿さん

    みんなわかってるさ。まずおちつこう(笑)

    NoTitle

    工工エエェェ(*゚ェ゚*)ェェエエ工工

    重要な時に誤字ることでは自分の中で定評のある私ですが、これは確実に今年1、2を争う恥ずかしさ…………!!!(p〃д〃q)
    違うんです知ってたんですただ誤字っただけなんですそして誤字った誤字り方が恥すぎるだけなんです_| ̄|○ ああああああ;;

    こうして2017年も自分で恥を上塗りしていく人生なのだった。
    (連投失礼いたしました)

    Re: 椿さん

    『淫獣』じゃないです。もっとも発表当時「新青年」を買った人もそう見間違えたらしいけど(笑)

    「陰獣」です。要するに猫のことです。

    個人的には乱歩の集大成という感じで、「二銭銅貨」よりも上位にきていい作品のような気がしますね。

    NoTitle

    『淫獣』まだ読んでいない、というか実は乱歩に未読の作品が結構多いのですよね。
    多分、十代で『芋虫』を読んでしまった衝撃が強すぎたのだと思います(^-^;
    そろそろ再挑戦してもいい頃合いかな。
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