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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ15位 ゼロの焦点 松本清張

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     過去に一度読む。そのときは、なんだこんなもんか、という思いが強かったが、再読したらどうだろうか。

     というわけで再読。日本海の荒海、能登の風景、といわれてもあまりピンとこないのだが、それでも松本清張のリーダビリティのすさまじさを思い知らされた。あらすじも真相も何もかも知っているのにページが進む進む。これだけ地味な文章で書かれたサスペンスが、食事だのなんだので途中で読むのを中断する時間が惜しいくらいに引きつけて離さない。さすが、結末部分の犯人とヒロインの崖をはさんでの対峙も含めて、二時間サスペンスの原点となった作品のことはある。

     これを読んで思ったが、戦後日本が産んだ悲劇がその動機の奥底にある、というよりは、なによりも男の身勝手さが全部いかんのではないか。失踪した夫を追う若妻、のロマンティックなイメージが強いが、こんなやつ追わんでいい、と平成の今では思えてしまうほど、失踪する夫、鵜原憲一の根性は腐っている。そして、この小説が書かれた昭和三十年代には、男が憲一みたいなことをやっても、まあしかたないか、で済んでしまっただろうことを考えると、殺された人たちが実に哀れに見えてくる。

     とはいえ犯人も犯人である。まあ次から次へとどんどん人をぶっ殺しておいて、『時代の犠牲者』もなにもあったもんではない。読後感としては、こいつも情状酌量の余地がまったくない。だが、この小説が書かれた昭和三十年代には、人殺しは悪いけれど、この人もかわいそうだねえ、というのが一般的な読後感だったろうと考えると、「隔世の感」というものをありありと感じる。

     昭和も半ばまでは人情があって、というのはウソだ。戦後まもなくなんて、人間がみんな肉欲と打算で生きてきた時代じゃないか、それに比べれば、まだ現代のほうがなんぼかマシだ、同じ肉欲と打算でも、もうちょっとやり方というのが洗練されているし、他人に与えるダメージも小さいじゃないか、とまじめに思う。何しろ当時だって進駐軍と労働争議の時代、アメリカでは公民権運動真っただ中の人権の尊重どころではない時代なのだ。

     そういった意味では、現代の日本人が「三丁目の夕日」のような人情溢れる昭和、などという大ウソにダマされないためにも、当時の不満分子たちが書きに書いた「社会派推理小説」を今こそ再評価して読むべきなのかもしれない。「新聞の三面記事をミステリにしたような」と揶揄される小説群ではあるが、その三面記事を当時の人間たちはどのような感覚で読んでいたのか、読者が知らねばならないのは案外そこらへんからなのかもしれない。
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    昭和三十年の段階では「貞女」が当たり前のモラルでしたから、「北陸をひとりゆく若妻」と読めたんでしょうけどねえ。

    その後の主人公を考えると、この年で結婚して未亡人ですから、雇ってくれる会社もなく、水商売に飛び込んで「けものみち」するか「黒革の手帖」するかの運命しか想像できん昭和三十年代……よく考えたらめちゃめちゃ怖いやん(^^;)

    いまこそ社会派の復権を(そうか?(^^;))

    NoTitle

    私が唯一読了している松本清張作品……(もっと本を読め)

    私は前半の、よく知りもしない人と結婚して(そしてそれが普通の社会で)そして失踪した夫を『妻だからとにかく探さなければならない』と周りに後押しされるように半ば仕方なく探すパートがすごく面白かったです。

    結果的に夫がクズだったのは別にどうでもいいんですが、中盤から主人公がほったらかしになってしまって犯人が悲劇のヒロインになってエンドというのに何だかなーと。

    年頃になったら見合いで二、三度会っただけの人と結婚するのが当たり前という社会風潮のためにクズと結婚してしまい十日(?)で未亡人になってしまった主人公がその後、事件を経てどういう人生を選ぶのかまで書いてほしかったなーと。

    まあ全体的にはサスペンスドラマのひな型になるだけのことはあって面白かったんですが。

    人情あふれる昭和が幻想というのは同意見です。今より良かったところもそれはあるかもしれませんが、ひどかったところもいくらでもあったよ昭和(^-^; 
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