東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ17位 亜愛一郎の狼狽 泡坂妻夫

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     高校生のころに読みたくて探したがどうしても見つけることができず、大学の図書館でようやく読んだ。このたび電子書籍版を買って再読。何回読んでも強烈な短編集である。それは作者の徹底した「あべこべの発想」のせいでもあるが、ミステリ界で長いこと名簿のトップを飾ってきた名探偵・亜愛一郎の奇天烈極まるキャラクターに依存しているのも大きい。この探偵が好きになるかどうかで本書の評価は決まってしまうのではないか。

     名探偵は、それぞれ「その名探偵でなければ絶対に解けない事件」というものをかかえている。例えば、M・P・シールの名探偵プリンス・ザレスキーが解決した「S・S」とか、チェスタトンのブラウン神父が解決した「イズレイル・ガヴの誉れ」とか。ザレスキーやブラウン神父以外の誰が、あんなヘンテコリンな事件を解決できるのだ! そして、われらが亜愛一郎には、初登場ですでに「DL2号機事件」という、狂人の論理が支配するムチャクチャな事件が用意されているのであった。

     狂人の論理が支配、といっても、「ドグラ・マグラ」のようなものでも、「黒死館殺人事件」のようなものでもない。常識人の持つ、思考のちょっとしたクセのようなものを何百倍にも拡大し、徹底的にウルトラ化することで、「DL2号機事件」の世界は成り立っている。この事件の犯人は完全に気が狂っているが、その見ている世界と、読者の見ている世界はまさに「同じもの」であると気付いたときに、読者は驚愕し、バカバカしいまでの論理に笑いながらも恐怖するのである。

     そのほかも、ひとつひとつの短編の印象がこれまた強烈。「掘出された童話」の、延々と何ページも続く、いかにも怪しげな童話に隠された暗号文(泡坂先生はこの暗号文を書いている時、「一日にどのくらい書きますか?」という問いに「二行書くとふらふらになります」と正直に答え、「泡坂先生はたいへんな遅筆家だ」と書評誌に書かれてしまったとか)や、「ホロボの神」の仰天するような論理。「右腕山上空」や「掌上の黄金仮面」の圧倒的なビジュアル性。「黒い霧」のスラップスティック。そんな中に「G線上の鼬(いたち)」のようなミスディレクションだけで作られたといってもいいような超絶技巧の作品が混じっていたりするから嬉しくなってしまう。

     正直なところ、この短編集のこの順位には納得しかねるところがある。もっと上位でもいいように思うのだが、泡坂先生、票が割れたんだろうなあ。「11枚のとらんぷ」を読んだ後では、割れるのも当然だとしか考えられないし、泡坂先生にはもう一冊「乱れからくり」という代表作があるからなあ……。泡坂先生の本では、労力をかけるところが明らかに間違っているがゆえの大傑作「しあわせの書」という本もあるので未読の方はぜひ。
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    ~ Comment ~

    Re: えぐさん

    相当遅れてしまいましたが、あけましておめでとうございます。

    今年も何とか生きていきたいですけど、池上彰がなにをいおうが、大事な貯金をホイホイ使えるかい! とほほ。
    (テレビ番組を見ていて八つ当たり(笑))

    NoTitle

    今年もあっという間にあと数時間ですね。
    今年もお世話になりました(^^)
    来年もたくさん笑顔でいられるように
    そして健康でいられるように
    お互いに良い年にしましょうね(^_-)-☆
    来年もよろしくお願い致します<m(__)m>


    Re: ツバサさん

    電子書籍さまさまですよ。

    科学の進歩はありがたいですなあ。

    よいお年を~。

    NoTitle

    最近は電子書籍版も充実し始めたので、
    読みたいものがすぐに読めるというのは良いですね。
    今年も一年間お疲れ様でしたー。
    では、よいお年をお迎えください(´∀`)

    Re: らすさん

    朝食で食べているのは高価なケロッグではなく貧民の食らうシスコーンなのだった(笑)

    たまには食いたいなあ、「カントリーモーニング」……。

    来年もよろしくお願いします。

    NoTitle

    こんばんは('ω')

    今年も一年間お世話になりました。
    1ヶ月分の食事をUPする記事で、
    朝食のケロッグが美味しそうで自分もつい買ってしまいました(^_^;)
    来年もどうぞよろしくお願いします(^-^)

    Re: 面白半分さん

    マジシャンというより、あの人は生まれつきではないかな、と思います(笑)

    それとも、「手品の種明かしと、その手品の演じ方」を奇術雑誌に誰にでもわかるように書くのは、不合理を説明する目的で理路整然とした文章を書くという文章技術を磨くうえでめちゃくちゃ役に立つのかな。誰にでもできる方法ではないけれど……。

    NoTitle

    亜愛一郎シリーズは、読後、あっあそこが伏線であったか、と思い起こしやすかった、というイメージがあります。
    超絶技巧でありながら決して小難しくならなくエンターテインメント性が保たれているのはマジシャン気質だからでしょうか
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