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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ18位 ゴメスの名はゴメス 結城昌治

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     最初に読もうとしたのは小学生のころである。押入れから掘り出したのだが、まことに、わが父は「代表作をとりあえず押さえておこう」的な読書傾向を持つ人であった。それからウン十年して、こうして息子が「とりあえずミステリーベスト100を押さえておこう」というような読書傾向を持つようになったのだから、血は争えない。むろん、小学生にこうした大人の小説がなんたるかがわかるわけがない。よくわからないままに投げ出すことになったのは当然である。

     二回目に読む気になったのは浪人生の時だ。古本屋に行ったら、三冊百円の棚に並んでいた。だから手に取って読んでみた。すらすら読めて、やたらと面白かった。わたしは手持ちの「東西ミステリーベスト100」に撃墜マークを書いた。

     それから二十五年以上。ひさびさの再読である。長いことスパイスリラーを読んできたが、今度はどうだろうか。

     どきどきしながら読んでみたところ、これはスパイ小説といってもル・カレやデイトンのそれではない、ということがわかった。この「ゴメスの名はゴメス」では、あの「寒い国から帰ってきたスパイ」のように、意外で根性悪を煮詰めたような頭脳的作戦が明らかになることはない。かわりに、そこにあるのは、ベトナム戦争前夜の世界での、不器用な男女たちの、不器用な生き方だった。どちらかといえば、ハードボイルドな私立探偵小説のそれといったほうがしっくりくるのである。

     そもそも、語り手兼主人公である「わたし」の視線や行動自体が、私立探偵のそれである。そこには、スパイ小説の肝ともいえる、「理由はともあれ非情な組織の歯車となることを選択した人間」の姿はない。むしろ、「わたし」はそういった組織の論理から意図的にはみ出そうとする。ル・カレ以降のスパイ小説では、危険視されて、殺されはしないものの即座に組織の作業からはじき出されるタイプの人間だ。そして、スパイ小説らしからぬことに、「わたし」は真実に到達するのである。

     こう考えると、本書はやはり、「もしもスパイ組織がリュウ・アーチャーをリクルートしたらどうなるか」という設定のもとでのハードボイルド小説と考えるべきかもしれない。出てくる不器用極まりない人間たちの、どことなく哀愁を帯びた人生、それを味わうための小説であり、スパイ活動はそれを引き立たせるための舞台装置にすぎないのではないかと思えるのである。その線上に、現代的な悪辣なひねりを加えると、高村薫「リヴィエラを撃て」になるのではなかろうか、などとも考えるのだが……。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    個人的には結城昌治の「公園には誰もいない」が好きなんですよ。哀調漂う和製ハードボイルドの傑作です。

    この「ゴメスの名はゴメス」もそっち系統かな。

    もちろん、「ひげのある男たち」系統の作品も大好きですけどね(^^)

    NoTitle

    これはいまだ読んでいないのですが
    結城昌治の名だけは覚えており
    その後ハードボイルド系の作品や草原のユーモア推理ものを読んだりしました。
    ”東西ミステリー”を買った時は
    本格以外は後回しだったなあ。

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