東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)
日本ミステリ20位 危険な童話 土屋隆夫
土屋隆夫に初めて出会ったのは、高校時代、古本屋で三冊百円で買った「針の誘い」である。一読して驚愕し、「こんなすごい作品がどうして東西ミステリーベスト100に入っていないんだ!」と思った。理由は簡単だった。もっとすごい作品が二作もランクインしていたからである。「危険な童話」と「影の告発」である。
「針の誘い」を読んでから、土屋隆夫作品を読むために、古本屋をさまよった。当時は、新本格が登場する直前の、本格ミステリにとってはまさに夜明け前の一番寒い時であって、この「危険な童話」を見つけるのも骨が折れた。
以来何度となく読んでいるが、土屋隆夫のすごいところは、メイントリックや解明に至るまでの割り算の美学ではなく、「額縁づくりの天才的なうまさ」にあるのではないだろうか。その額縁とは、本書における謎めいた童話であり、「影の告発」における少女のモノローグである。その絡め方と、その意味の明かし方が、絶妙なのである。
もし、この「危険な童話」において、その「童話」の部分が存在しなかったら、この小説は誰も覚えていないものとして日本の推理小説史の片隅に追いやられていただろう。土屋隆夫の堅牢な作風と、堅牢なロジックは、そうした堅牢な作風に美学を見出すマニアには好まれても、ここまで評価されることはなかったのではないか。本書におけるトリックやロジックは、あまりにも堅牢に過ぎて、今のミステリファンが読んでも、そう感銘は受けないのではないかと思われる。実際、「どれだけ間抜けだって、そのくらい警察が真っ先に調べるよ、普通!」と、レイモンド・チャンドラーならいいそうなトリックが使われているのだ。犯人を追い詰める決め手についても、単なるケアレスミスを突いただけではないかと思えてならず、カタルシスは薄い。
裏を返せば、この小説における「童話」の部分を読んで、その抒情性に涙しない人間がいたら面が見たいものである。初読の時は思わず涙ぐんでしまった。それ以来何度も読んでいるが、毎回泣かされてしまう。ロマンティシズムとヒューマニズムとが炸裂して、嫌味なくらいにうまい。
そして最後に明かされる真相が、これまた哀切を極める。犯人も、被害者も、ほんとうにどうにかならなかったのかと思える残酷な真相。もう、彼らを救うためには、死ぬしかないのではないか、そう読者に思わせた時点で、作者の完全な勝利であろう。
今回の再読でもまた泣かされてしまった。まったく卑怯な小説である。
「針の誘い」を読んでから、土屋隆夫作品を読むために、古本屋をさまよった。当時は、新本格が登場する直前の、本格ミステリにとってはまさに夜明け前の一番寒い時であって、この「危険な童話」を見つけるのも骨が折れた。
以来何度となく読んでいるが、土屋隆夫のすごいところは、メイントリックや解明に至るまでの割り算の美学ではなく、「額縁づくりの天才的なうまさ」にあるのではないだろうか。その額縁とは、本書における謎めいた童話であり、「影の告発」における少女のモノローグである。その絡め方と、その意味の明かし方が、絶妙なのである。
もし、この「危険な童話」において、その「童話」の部分が存在しなかったら、この小説は誰も覚えていないものとして日本の推理小説史の片隅に追いやられていただろう。土屋隆夫の堅牢な作風と、堅牢なロジックは、そうした堅牢な作風に美学を見出すマニアには好まれても、ここまで評価されることはなかったのではないか。本書におけるトリックやロジックは、あまりにも堅牢に過ぎて、今のミステリファンが読んでも、そう感銘は受けないのではないかと思われる。実際、「どれだけ間抜けだって、そのくらい警察が真っ先に調べるよ、普通!」と、レイモンド・チャンドラーならいいそうなトリックが使われているのだ。犯人を追い詰める決め手についても、単なるケアレスミスを突いただけではないかと思えてならず、カタルシスは薄い。
裏を返せば、この小説における「童話」の部分を読んで、その抒情性に涙しない人間がいたら面が見たいものである。初読の時は思わず涙ぐんでしまった。それ以来何度も読んでいるが、毎回泣かされてしまう。ロマンティシズムとヒューマニズムとが炸裂して、嫌味なくらいにうまい。
そして最後に明かされる真相が、これまた哀切を極める。犯人も、被害者も、ほんとうにどうにかならなかったのかと思える残酷な真相。もう、彼らを救うためには、死ぬしかないのではないか、そう読者に思わせた時点で、作者の完全な勝利であろう。
今回の再読でもまた泣かされてしまった。まったく卑怯な小説である。
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ご意見など

~ Comment ~
Re: 面白半分さん
土屋先生のすごいところは、21世紀になっても、ランクインこそしなかったものの
「このミス」に新作のタイトルを載せた、ということで証明されきっています。
キャリアと年齢考えると、そんなことができるのは山田風太郎先生くらいです。
「このミス」に新作のタイトルを載せた、ということで証明されきっています。
キャリアと年齢考えると、そんなことができるのは山田風太郎先生くらいです。
NoTitle
死=救い、っていうのは、そういえば自分も小説でよく書いてる気がします
基本テーマはニヒリズムですが、どうも、生は苦行である、愛し合って死ぬのが実は幸福では?、っていうのも含んでる気がする今日この頃
基本テーマはニヒリズムですが、どうも、生は苦行である、愛し合って死ぬのが実は幸福では?、っていうのも含んでる気がする今日この頃
NoTitle
2回ほど読んでいます。
派手さがない分、再評価もされにくい気もしますが
ぜひとも傑作群はおさえておきたい作家のひとりですね
派手さがない分、再評価もされにくい気もしますが
ぜひとも傑作群はおさえておきたい作家のひとりですね
- #19176 面白半分
- URL
- 2018.01/21 21:34
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Re: blackoutさん
物語作るのも同様ですね。死んだらなんとなくまとまるけれど、そのまとまりは思考放棄な気がします(^_^;)