東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
日本ミステリ22位 乱れからくり 泡坂妻夫
初読は高校生の時。どきどきしながら読んだが、あまり感心はしなかった覚えがある。ひとつひとつのトリックはよく覚えているのだが、それがどれも薄味に思えて仕方なかったのだ。全体を貫く趣向も覚えているのだが。
四半世紀ぶりに再読。読んでみたところ、この小説の印象が弱いのは、主人公の勝に原因があるのではないだろうかという結論に達した。あまりにも常識人すぎるのである。このからくりと趣向に満ち満ちた事件に絡ませるには、あまりにもまとも。もし、この事件の探偵役が亜愛一郎やヨギ・ガンジーだったらばと思わずにはいられない。
そんなことを考えたくもなるほど、この事件は変で奇妙で奇天烈である。なにしろ真相自体が、作者そこまでやっていいのかといいたくなるようなとんでもないものだからだ。
松田優作主演の映画版ではどうだったのか、と思ったら、映画版では筋を大きく変更してあるそうで、まあそうだよな。
裏を返せば、この過剰ともいえる趣向の連打を気持ちよく感じる人には、この小説はたまらないものがあるだろう。これだけからくりにこだわったうえに、中盤からこの妙な事件はさらに加速し、手に汗握る追跡シーンまで出てくるのだ。泡坂先生、サービス過剰もいいところである。
しかし、この作品が作品内でのリアリティを保っていられるのは、「日本」という風土と、「幻影城」という雑誌があってこそだよなあ。日本推理作家協会賞を獲った時も……と思って調べてみたら、同時受賞が大岡昇平「事件」だったのか。あれもあれで重厚な法廷ミステリだったけど、まったく対極にある作品だよなあ。
うーむ、こう書いてきて、この作品を諸手を挙げてほめたたえることができていない自分に困惑している。現に、夢中になって読みふけるほど面白いし、わたしが好きなタイプのネタが惜しげもなくぶち込まれているし、狡猾極まりない犯人の正体を明かされた時のビックリ感はいまだにヴィヴィッドに思い出すことができるにもかかわらず、どうもわたしが好きな泡坂妻夫作品とは違うのだ。二十年経って読んでもこうなのだ。やっぱり人には向き不向きな作品というものがあるのだろうか。それともこの作品を貫いている、『時代錯誤とでもいえるようなロマンティシズム』のせいなのだろうか。これは、泡坂妻夫作品をもう一度腰を据えて読み直すべきなのかもしれない。「ゆきなだれ」とか、連城三紀彦作品と見まごうほどの恋愛小説仕立ての短編とかも書く人だからなあ。
四半世紀ぶりに再読。読んでみたところ、この小説の印象が弱いのは、主人公の勝に原因があるのではないだろうかという結論に達した。あまりにも常識人すぎるのである。このからくりと趣向に満ち満ちた事件に絡ませるには、あまりにもまとも。もし、この事件の探偵役が亜愛一郎やヨギ・ガンジーだったらばと思わずにはいられない。
そんなことを考えたくもなるほど、この事件は変で奇妙で奇天烈である。なにしろ真相自体が、作者そこまでやっていいのかといいたくなるようなとんでもないものだからだ。
松田優作主演の映画版ではどうだったのか、と思ったら、映画版では筋を大きく変更してあるそうで、まあそうだよな。
裏を返せば、この過剰ともいえる趣向の連打を気持ちよく感じる人には、この小説はたまらないものがあるだろう。これだけからくりにこだわったうえに、中盤からこの妙な事件はさらに加速し、手に汗握る追跡シーンまで出てくるのだ。泡坂先生、サービス過剰もいいところである。
しかし、この作品が作品内でのリアリティを保っていられるのは、「日本」という風土と、「幻影城」という雑誌があってこそだよなあ。日本推理作家協会賞を獲った時も……と思って調べてみたら、同時受賞が大岡昇平「事件」だったのか。あれもあれで重厚な法廷ミステリだったけど、まったく対極にある作品だよなあ。
うーむ、こう書いてきて、この作品を諸手を挙げてほめたたえることができていない自分に困惑している。現に、夢中になって読みふけるほど面白いし、わたしが好きなタイプのネタが惜しげもなくぶち込まれているし、狡猾極まりない犯人の正体を明かされた時のビックリ感はいまだにヴィヴィッドに思い出すことができるにもかかわらず、どうもわたしが好きな泡坂妻夫作品とは違うのだ。二十年経って読んでもこうなのだ。やっぱり人には向き不向きな作品というものがあるのだろうか。それともこの作品を貫いている、『時代錯誤とでもいえるようなロマンティシズム』のせいなのだろうか。これは、泡坂妻夫作品をもう一度腰を据えて読み直すべきなのかもしれない。「ゆきなだれ」とか、連城三紀彦作品と見まごうほどの恋愛小説仕立ての短編とかも書く人だからなあ。
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~ Comment ~
NoTitle
懐かしー!
松田優作の表紙のヤツを読みましたね(^^;
とはいえ、いまや内容は全く憶えてない。
> 時代錯誤とでもいえるようなロマンティシズム
『乱れからくり』は内容を全く憶えてないんですけど、同じ頃読んだ『湖底のまつり』はなんとなーくですけど、なぜかあらすじを言えるくらい憶えてるんですよね。
その理由をブリッツさんの言う、その「ロマンティシズム」という言葉でとらえると、あー、なんとなくわかるかもと思えるのが面白かったです。
つまり、今の時代は、それこそ嫌悪でしかない「ロマンティシズム」という言葉が当時(松田優作がその映画に出てた頃)はお話とか今で言うコンテンツに重要な要素だったからなんじゃないかと。
ゆえにその「ロマンティシズム」の要素がより強い『湖底のまつり』は今でもなんとなく憶えているんじゃないかと思ったわけです(^^;
しかし、ロマンティシズムっていう要素、意外と面白そうですよね。
いや。それこそ今の若い世代(~30代後半まで。いや、ヘタしたら40代前半まで?)からすると唾棄したい要素なんですけど。
でも、そのくせ(私の世代なんかから見ちゃうと)やたら安っぽい(というか、“甘えた”といった方がしっくりくるか?)「ロマンティシズム」…、とは絶対言わないロマンティシズムは今の世の中大流行りじゃないですか(笑)
そんな時代に、それこそネオロマンティシズムみたいなお話って、80年代リバイバルも早、通り過ぎて、バブル期リバイバルになっちゃった今なら、意外に新鮮で大ウケだったりりするのかもしれませんね(^^)/
松田優作の表紙のヤツを読みましたね(^^;
とはいえ、いまや内容は全く憶えてない。
> 時代錯誤とでもいえるようなロマンティシズム
『乱れからくり』は内容を全く憶えてないんですけど、同じ頃読んだ『湖底のまつり』はなんとなーくですけど、なぜかあらすじを言えるくらい憶えてるんですよね。
その理由をブリッツさんの言う、その「ロマンティシズム」という言葉でとらえると、あー、なんとなくわかるかもと思えるのが面白かったです。
つまり、今の時代は、それこそ嫌悪でしかない「ロマンティシズム」という言葉が当時(松田優作がその映画に出てた頃)はお話とか今で言うコンテンツに重要な要素だったからなんじゃないかと。
ゆえにその「ロマンティシズム」の要素がより強い『湖底のまつり』は今でもなんとなく憶えているんじゃないかと思ったわけです(^^;
しかし、ロマンティシズムっていう要素、意外と面白そうですよね。
いや。それこそ今の若い世代(~30代後半まで。いや、ヘタしたら40代前半まで?)からすると唾棄したい要素なんですけど。
でも、そのくせ(私の世代なんかから見ちゃうと)やたら安っぽい(というか、“甘えた”といった方がしっくりくるか?)「ロマンティシズム」…、とは絶対言わないロマンティシズムは今の世の中大流行りじゃないですか(笑)
そんな時代に、それこそネオロマンティシズムみたいなお話って、80年代リバイバルも早、通り過ぎて、バブル期リバイバルになっちゃった今なら、意外に新鮮で大ウケだったりりするのかもしれませんね(^^)/
- #19203 ひゃく
- URL
- 2018.02/04 20:06
- ▲EntryTop
Re: 面白半分さん
トリックが強烈だから、ページめくったら全部思い出すと思います。げんにわたしがそうでしたしね(笑)
むしろ覚えていなかったのはディテールのほうで、泡坂先生、よくもこうこだわるなあと。そしてそれらに全部「意味」があることに再読しながら気づいてにやにや。
けれど泡坂先生の作品でエキセントリックな名探偵が出てこないと何となく物足りないのも事実なので困ったもので……。
むしろ覚えていなかったのはディテールのほうで、泡坂先生、よくもこうこだわるなあと。そしてそれらに全部「意味」があることに再読しながら気づいてにやにや。
けれど泡坂先生の作品でエキセントリックな名探偵が出てこないと何となく物足りないのも事実なので困ったもので……。
NoTitle
2回は読んでいる筈です。
という事は私がすきなタイプの作品で
それは”過剰ともいえる趣向の連打”がなんだろうなあ。
内容は忘れていたので
今このレビューのおかげでまた気になってきましたが
本がどこに紛れてしまったかもうわかりません
また買うしかないのか
という事は私がすきなタイプの作品で
それは”過剰ともいえる趣向の連打”がなんだろうなあ。
内容は忘れていたので
今このレビューのおかげでまた気になってきましたが
本がどこに紛れてしまったかもうわかりません
また買うしかないのか
- #19201 面白半分
- URL
- 2018.02/03 11:05
- ▲EntryTop
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Re: ひゃくさん
よほど好きじゃなきゃああいう作品は書けない。連城三紀彦のそれとは完全に方向が違う。ちょっと人と微妙なところで感性がz軸方面に違うんでありましょうなあ。