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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ24位 檻 北方謙三

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     中学生のおり、日本の冒険小説のベストは、ということで友人と議論になった。船戸与一「山猫の夏」を推すわたしに対し、友人が推していたのが、この北方謙三の「檻」であった。「破軍の星」で転身して以来、21世紀の現代ではすっかり「歴史小説作家」になってしまった感のある北方謙三であるが、その昔は、日本のハードボイルド・冒険小説界の文字通りトップの作家として、書く本書く本ことごとくベストセラー入りしていたものである。

     というわけで、当時のわたしは古本屋で「檻」を買って読んだわけであるが、エキゾチックな舞台で見栄えのする武器を使って大殺戮を繰り広げる船戸与一に対して、日本で元ヤクザの男が戦う「檻」はなんともパッとしなく映った。

     それから二十数年。ひさかたぶりの「檻」再読である。

     鶏レバーとハツを焼肉のたれで炒めたものをもりもり食らいながら読んだ。読み終わるまで二時間かからなかったように思う。感想はひと言。『面白い!』

     もうなんというか。英国のディック・フランシスとは違った意味で、はみだし男の「血」と「肉体」を克明に描く北方謙三小説、ムチャクチャ面白いではないか。冒険小説とかハードボイルドとかではない、「北方謙三小説」としか表現しようのない世界である。主人公のみならず、敵も味方も女もビシッと決まったこの小説を読んでいた間、わたしは幸福でしかたがなかった。

     本書を評するにおいて、「男が戦わなければならないのは、『束縛』であり『檻』なのだ!」という表現がよくされるが、わたしはそれは少々ずれていると思う。本作において主人公が戦うのは、主人公が戦いたいからなのだ。ただそれだけの理由なのだ。「檻」も「束縛」も、周囲が男を理解するためにこしらえた後付けの理屈にすぎない。

     「檻」が発表されてから30年以上経つ。しかし、いまだにこれは新しくみずみずしい。わたしのような疲れかけた中年男性にとって、本書はいまだに「男のハーレクイン・ロマンス」なのだ。読み終えた後には爽快感の他には何も残らないタイプの小説であるが、北方謙三はそれでいいのだ。

     85年度版では4作ランクインしたものの、2012年度版の「東西ミステリーベスト100」では、圏外に2作というまで落ち込んでしまった北方謙三であるが、そういうものなのかもしれない。それは「檻」にとって、ある意味名誉の勲章かもしれない。
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    ~ Comment ~

    Re: blackoutさん

    個人的には、「~をするために」というアリストテレスの「目的因」というやつはどうにも信用がならん、と考えるスピノザ主義者なので、向きも不向きも「必然的な結果」だと思っております。

    すべては原因と結果の連鎖からなる必然の産物にすぎません。

    少なくともマクロの視点ではそうだと思います。

    NoTitle

    人間て、やっぱり役割というか使命を帯びてこの世に生まれてくる生き物なんですかねぇ

    向き不向きは、その縮図か?

    って思ったりします

    Re: 面白半分さん

    「檻」「逃がれの町」「友よ静かに瞑れ」「眠りなき夜」の4冊。当時は冒険小説が元気でしたからね。80年代から90年代のミステリ界はまさに冒険小説の時代でした。

    それがあっという間に「新本格」に塗り替えられ、2012年度版の「東西ミステリーベスト100」は異様なまでの新本格偏重になっており、わたしにしてみれば「社会派推理小説独裁とどこが違うんじゃワレ」と……うぬぬ。

    NoTitle

    「東西ミステリー」に入っていたとは全く覚えていませんでした。
    しかも4作とは

    私は1冊これでないのを持っているのですが読んだのか読んでいないのかも思い出せない状態です。

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