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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ25位 心理試験 江戸川乱歩

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     ミスディレクションのうまさもあるが、本作は、登場する犯人・蕗谷清一郎のかっこよさと、それに対抗する名探偵・明智小五郎のかっこよさが光る、倒叙ミステリの記念碑的傑作である。個人的には「二銭銅貨」よりも上だろうと思うのだが。

     倒叙ミステリというのは、いわゆる「刑事コロンボ」風の、先に事件がいかにして行われたかを細密に描き、そして後半で、犯人のその完全犯罪がいかにして探偵により崩されるかを描くミステリの形式なのだが、この手の方式の発案者とみなされているオースチン・フリーマン自身は、自分の作り出した名探偵である科学者探偵のソーンダイク博士を活躍させるのにもっともふさわしい形式としてこのスタイルを編み出したのではなかろうか、と思う。すなわち、ソーンダイク博士がそこらへんのゴミだのなんだのを採取、分類して犯人に行き当たるには、あらかじめ、作者のほうでも、なぜそんな致命的な手がかりとなるようなゴミだのなんだのを犯人がばらまくことになったのか、を説明しておいたほうが、読者があっと驚きやすくなるだろう、という計算があったのではないか。残念なことにフリーマン自身はこのスタイルを扱いかねたのか、いくつかの短編と、少数の長編を除いては、倒叙ミステリを書くことはあまりなかった(そのかわりといってはなんだが、数十年にわたり、ソーンダイク博士が活躍するミステリをそれこそ星の数ほど書いているので、人気はあったんだろうと思われる)。倒叙ミステリ自体は、心理サスペンスの定番として、先ほども書いた通り「刑事コロンボ」「古畑任三郎」にまで脈々と受け継がれることになるのだが、心理サスペンスとも、物証のパズルとも違う、「心理的な手がかりと証拠」を追う、というユニークなものとしたのが、この「心理試験」における乱歩の最大の功績であろう。

     しかしこの小説、「キャラクター小説」としてもよくできているんだよなあ。なんといっても、犯人である蕗谷清一郎のキャラクターがいい。「怪人二十面相」を除けば、乱歩の作り出した犯人の中でいちばんスタイリッシュでカッコいいやつではなかろうか。スタイリッシュといっても、二十面相のように堂々と現れて「ふっふっふっふ、明智くん」などとは絶対にやらない。「善良な市民」の中に紛れ込んで、何食わぬ顔でひょうひょうとしている怖さがある。自分の手の出せる犯罪の限度をよく心得ており、そこから踏み出そうなどということはまったく考えないタイプの男である。おそらく、モデルは「罪と罰」のラスコーリニコフと、フリーマンの短編「計画殺人事件」に出てくる狡猾無比な犯人、ペンバリー氏であろう。ペンバリー氏のように、堅牢無比で緻密な計画を立て、それを機械のような正確さをもって実行する、同情の余地がひとかけらもないにもかかわらず、「どうか警察に捕まりませんように」などと思ってしまうタイプの男なのだ。そしてこれに対抗する名探偵明智小五郎も、「D坂の殺人事件」のあのよれよれの書生はどこへやら、ここでは警察も一目置く名探偵としてカッコいい姿を見せてくれる。短編だし、ぜひとも一読あれ。
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    ~ Comment ~

    Re: 百物語ガールさん

    まあ、戦前の小説読むときに、文体でどうしても乗れないいうのはありますよね。宿命ですな。これはこれと割り切って読むとなかなか面白いんですが。乱歩はまだ読みやすい方です。泉鏡花なんていったらあなた(笑)

    オースチン・フリーマンがわいせつだったら、水戸にある高校生がよくたまり場にしているラーメン屋「珍満」はどうするのですか!(いやどうもしない(笑))

    NoTitle

    > オースチン・フリーマン
    パッと見、やけにわいせつな名前だなーとか思っちゃいました(爆)

    江戸川乱歩は、前にもブリッツさんに刺激されて読んだんだけど、独特の時代感がキツかったような気がします。
    もっと前に読んでたら、全然違ってたのかもなーと思ったりしました。

    Re: 椿さん

    猟奇趣味のない、明智小五郎が合理的に謎を解く話ではこれが一番だと思います。

    それゆえに「乱歩らしくない」作品かもしれませんね、「陰獣」「孤島の鬼」「押絵と旅する男」あたりを読んでいくと。

    そこらへんの懐の深さはやはり巨匠でありますなあ。

    NoTitle

    これは読んだ時にとても面白かった印象がありました。
    でもすっかり内容を忘れてしまっていたのでちょっと読み直してきましたが、やっぱり面白かった^^
    乱歩ではこれが一番好きかもです。

    Re: 面白半分さん

    「二銭銅貨」とかどうしても短編1作で投票しなくちゃならん小説が乱歩には多いですからね(^^)

    「押絵と旅する男」や「パノラマ島綺談」なんかもノンシリーズの短編1作ですな。

    ポオも「モルグ街」と「盗まれた手紙」と「黄金虫」はやはり別になるでしょうしね。

    そういう意味でもやはり巨匠はすごいですな。

    NoTitle

    「東西ミステリー」は短編1作でもランキングされていたんですね。

    そういわれれば蕗谷清一郎という人物が生きていますね。

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