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    鋼鉄少女伝説

    鋼鉄少女伝説 6 過去

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    stella white12

       6 過去



     今でも悪夢のように思い出すことがある。

     それは小学校二年の冬のことだ。

     両親が、急な用事で二人とも三日ほど家を空けることになってしまったのが、受難の始まりだった。

     いくら家電のIT化が進んだからといって、家事オンチの小学二年生に二日のあいだ家の切り盛りをしろというのは酷な話だ。というより、できない。

     かくしてぼくは、人の家に預けられることになった。

     幼なじみの霧村家だ。もちろんそこにはキリコが住んでいた。

     霧村のおじさん、すなわちキリコの父親が、父さんの親友だったということもあり、浦沢家と霧村家は、昔はよく連れだってキャンプなんかに行ったものだから、その判断は妥当なものだったといえるだろう。

     しかし。それがあんな地獄の時間になろうとは。

     前にもいったと思うが、ぼくはパソコンが大好きだ。人の顔を見ているよりもCGの映像を見ているほうが好きなんじゃないかなんていわれたこともある。たしかに、テレビや電脳空間も嫌いじゃないけど、好きな人の顔を見つめるのはやはり現実がいい……いかん、脱線した。

     そのころキリコの家では、最新型の大画面エキストラハイビジョンモニターをパソコンと兼用で使っていた。霧村のおじさんもおばさんも、テレビは見るがパソコンはあまり使わない、といった人だったので(最近では珍しい人だ)モニターはその一台しかなかった。

     不幸なことに、ぼくが来た日、モニターはパソコンとともに突如故障してしまった。後からわかったことによれば、それはモニターの製造時における設計ミスによるものであったそうだ。そんなミスをした設計者は、呪われろ、だ。

     パソコンかテレビがなければ毎日が成り立たなかった小学二年生には、それだけでも耐えられないところだが、天はさらに試練を下した。

     キリコだ。

     ヒマを持て余していたぼくに、遊ぼう、と持ってきたのが。

    「もうしょうぱっとん?」

     なんといっても小学二年生だ。第二次世界大戦のヨーロッパ戦線の話なんてわかるはずもない。『パットン将軍』なんてとてもとても。そんなぼくにとって、キリコが持ってきたこの古いシミュレーションゲーム「猛将パットン」は。

     複雑すぎた。

     その広げた地図の大きさに、まずのけぞった。キリコは、無数の細かい駒が入った黒いケースを取り出すと、地図上に並べ始めた。

    「数字が書いてあるマスに置くのよ」

     ぼくは首をひねりながら、それでも灰色と黒の駒を並べた。パソコンに興味をもっていたせいで数字の読み方には慣れていたため、なんとか並べられたのだけど。キリコはぼくに三倍するスピードで緑色の駒を並べた。

    「順昇くんがドイツ軍。灰色の駒ね。あたしがアメリカ軍。緑色のほうよ。じゃ、あたしの番ね」

     キリコはろくに駒を見もせずに動かした。動かし終わったかと思ったら、ひとつひとつぼくが並べた駒を指差して、勝手に数字が書いてある駒を引っ張り出しては駒の下に重ねた。どうするのかと見ていると、キリコは「三対一」だの「四対一」だのとしゃべりながらサイコロを振った。そのたびに、あの女は「勝った」などといいながら、ぼくの駒を次から次へと裏返していった。

     ぼくにはなにが面白いのだかわからなかった。

     キリコのはしゃぎが一段落して「じゃ、順昇くんの番ね」ということになった。わけもわからず、ひとつ駒を動かしてみた。

     キリコは「あ、ゾックなので、そこで止まる」といって、ぼくの手を跳ね除け、途中のところで駒を置きなおした。

     それだけではない。

     キリコは「あたしが動かすね」というと、自分で勝手に駒を動かし始めたのだ。

     その後は、キリコは自分で全部の駒を動かし、自分でサイコロを振り、自分で駒を除去して、最終的には。

    「わたしの勝ちね!」

     いったいなにがどうしてなにになったんだかわからなかった。ただ単にめちゃくちゃ不愉快なだけだ。

     これだけならまだよかった。いや、これだけでもよくは全然ないのだが。

     やったことがない人には話してもわからないかもしれないが、この手のボードゲームには時間がやたらとかかるのだ。

     ゲームが終わるまでには、夕方から始めて夜中の十二時くらいまでの時間がかかった。まじめな小学二年生はそんな夜遅くまで起きていたことなどなかった。翌朝起きたときはふらふらだった。

     それが二晩続いた。

     なおも悪いことに、キリコの家に、キリコと連れ立って入って行くところをクラスメートに見られていたのだ。

     一ヶ月くらいにわたってどれほど笑いものにされたかは、ここに書くまでもないだろう。

     以来、ぼくは、シミュレーションゲームと名のつくものは一切プレイしないことを誓ったのだった。

     はずなのだが……。


       予告

     ゲーセンという穢れの海に見え隠れする、新製品という氷塊。

     どうやら水面下の業の根は深く、重い。

     人の運命は神が遊ぶ双六だとしても、上がりまでは一天地六の賽の目次第。

     鬼と出るか蛇と出るか。謎に挑む敵陣突撃。

     次回、『強襲』

     キリコ、喜んで火中の栗を拾うか。

     (ナレーション:銀河万丈)
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    ~ Comment ~

    Re: ツバサさん

    これが光栄の「信長の野望」だったらルールを理解することも遊ぶこともできただろうに……と考えると、シミュレーションボードゲームというのはどこをどうやってもいばらの道ですな(^^;)

    Re: 椿さん

    たいていの、世間ずれしていないシミュレーションゲームファンが陥るふられパターンです(笑)

    この手の自虐ネタはもう、オタクの専売特許ですな(笑)

    あだ名については、後半、悲惨なことが語られますのでよろしく(^_^;)

    NoTitle

    明けましておめでとうございます。
    今年もよろしくお願いしますm(_ _)m
    小学二年生にボードゲーム、
    しかもルールも分からないとなれば、
    もうシミュレーションゲームはこりごりになりますね(笑)

    NoTitle

    明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

    新年一発目のお年玉掲載ありがとうございます! 待ってました。
    そしてこれは……順昇くんがボードゲーム自体に苦手意識を持ってしまうのも仕方ないですね(^-^; オタクな子供あるあるで笑いました。勧誘って難しいですよね^^

    キリコちゃんと昇順君はただの幼なじみではなく、親同士も仲がいい姉弟(←勝手にキリコちゃんが姉と断言)のような付き合いだったんですね。
    子供の頃はさっちゃんと呼んでいたのかなーとか思ってちょっとほっこりしたり。

    次回はいよいよテストプレイでしょうか。
    キリコちゃんが新製品の闇に切り込む? のを楽しみにしております!
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