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    鋼鉄少女伝説

    鋼鉄少女伝説 7 強襲

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    stella white12

       7 強襲



     授業は終わったが、部室棟には寄らなかった。面倒が起きる前にまっすぐ帰るのだ。

     変にあんな部屋に立ち寄ったが最後、ユメちゃんがいるかぎり、ミイラ取りがミイラになってしまいかねないし。

     だがしかし。敵は校門で待ち構えていた。

    「浦沢せんぱーい」

     ユメちゃんが大きく手を振った。そしてその横にキリコ。

     横のお邪魔ものさえいなければ。

     こっそりとため息をついた。

    「早かったわね。いつものことだけど」

     キリコは左腕の時計を見ながらそういった。アナログの腕時計だ。やつの話だと、かつて日本の自衛隊が使っていたものとまったく同じだそうだ。アナログ時計って、いったいいつの時代の自衛隊だよ。

     二人の前で立ち止まった。観念せざるをえないようだ。

    「それで、キリコ? なんだよ、またあのゲームをやるのか? うちのパソコンで」

     このところ一週間に五回はあのゲームをやっているような気がする。うち二日はユメちゃんの塾通いの時間だそうだから、事実上毎日だ。このキリコという女は、ほんとうにぼくと同じ受験生なのかねえ。

    「今日はいいわよ」

     耳を疑った。

    「マジで?」

     思わず、死語になっているような古い言葉が飛び出す。

    「かわりに」

     キリコが続ける。安心するのはまだ早かったらしい。

    「行きましょうよ。例の場所へ」

    「例の場所?」

     頭にその場所とやらが浮かぶまでに、若干の時間があった。

    「ゲームセンターです。MAPに」

     ユメちゃんは、すまなそうに頭を下げた。



     学校の制服から着替えることには二人とも同意してくれた。「武士の情けよ」とキリコはいったが、町人の言葉で答えれば「てやんでえ」だ。

     前世紀から変化してないんじゃないかと思われるノスタルジックなブレザーを脱ぐと、シャツに薄いジャケットを羽織ってみた。鏡に映して見てみると、着替え前と後であまり雰囲気が変わっていないような。

     まあいい。たかだかゲームセンターに行くくらいのことで服にこだわるのもバカバカしい。

     自転車にまたがり、気は進まなかったものの、駅前にある大きめのゲームセンター『フォートレス』へ向かった。

     到着して自転車を止める、まだキリコもユメちゃんも来ていなかった。

     駐輪場を探す。がらがらだ。無理もない。いわゆるゲームセンターというやつのここ数年の凋落ぶりは、目を覆うようなものだと、前に授業で数学の先生が脱線ついでに話してくれたことがある。先生は、ゲーセン、といっていた。ゲームセンターの昔日の栄光がどんなものか知らないぼくも、そうだろうなと思わないでもない。

     ゲームセンターにとっての転換点は、MCR、マルチプル・カード・リーダーの開発だろうか。一見なんの変哲もないマットに見えるこの機械は、そこに置かれたカードの内容を正確に読み取る能力を持っている。これをETや携帯端末とつなぐことにより、誰でもどこででも簡単に、複雑なルールのカードゲームをプレイすることが可能となった。しかもこのマット、カードを置いておけば電磁気で駆動する平面モーターが働き、ひとりでにプレイヤーに配ってくれるのだ。カードタワーなる自動シャッフル装置を組み合わせれば、めんどうなシャッフルもいらない。一時期停滞していたトレーディング・カード・ゲームは、これで再びブームが巻き起こった。今では、子供という子供は、みんなこのゲームばかりやっている。それもそうだ。設備投資はそれほどいらないしエキサイティングだし。これと、ETを駆使した新々世代ネットゲームの登場は、ゲームセンターから客を奪いつくしてしまった。

     今では、ゲームセンターもしくはアミューズメントセンターの替わりにあるのは、たいていネットカフェかカードゲームブースかのいずれかだ。

     だからだろう。未だにゲームセンターを名乗っているような奇特なところは、たいがい家庭ではどう転んでも遊べないような凝りに凝った筐体を導入しているのだが、それが弱点になっていた。

     特にその弱点は、キリコのお目当てのMAPで顕著に見られる。

     まったく、MAPときたら……。

     自転車を入れ終えたぼくが、とりとめもないことを考えながらぼんやりと入り口に立っていると、肩を叩かれた。

     誰だろうと思うと、一年、二年の高校生活でお世話になった、今は大学生になっている早川先輩だった。

    「早川さん?」

    「どうした、浦沢。こんなところで」

    「いえ、別に」

     気恥ずかしいので、ごにょごにょと答える。

    「人を待ってるんだな。あの浦沢が。珍しい」

    「珍しくなんかないです」

     ぼくの抗弁に早川先輩は大笑いした。

    「資金を稼ぐためのバイトを除いたらほぼ人づきあいゼロ。パソコンと雑誌とウェブサイトが恋人。人がどう思おうと意に介せずして独立独歩わが道を行く浦沢順昇くんが、なにをいっているんだ」

    「早川さんとはこうして口をきいているじゃないですか」

    「例外的状況を一般に拡大するんじゃない」

     そこで、早川先輩は真面目な口調になった。

    「前からいおうと思っていたが、お前、もっと社交的になったほうがいいぞ。今のうちにそういう面で鍛えておかなくちゃ、大学生から社会人になったときに悲惨なことになりかねないからな」

     大きなお世話だと思ったが、相手は先輩だ。おとなしく頭を下げた。

    「はい」

    「よし。それで、誰を待っているんだ? オタク友達か?」

    「オタクって」

     反論しかけて口ごもった。

    「たしかにオタクかなあ」

    「そうか。たとえオタクでも心から話せる友達がいればだな」

     へきえきした。早川先輩という人は悪い人ではないのだが、時として説教に走るくせがある。

     逃げ場を探すように目をさまよわせた。

     最悪のタイミングで目が合った。

     ユメちゃんだった。浅黄色の上着にショルダーバッグをかけている。淡い色をしたブラウスに、ひだの美しいスカートも上品だ。思わず、見とれてしまった。

     ユメちゃんの隣には、友達なのか知らない顔の高校生くらいの女の子がいた。鮮やかな黄色で染められた、派手なデニムのジャンパーを着ている。普通に着ると原色がうるさすぎるが、そこをもっとおとなしめの色をしたアクセサリーを使うことでうまく補っていた。小さな鞄なんか提げちゃって、こちらもなかなかロングヘアに眼鏡が似合うかわいい娘だ。

     だが、かわいさにかけてはユメちゃんの敵ではないな。そう思いなおし、眼鏡の少女から視線を外した。まったく、ぼくときたら一瞬でもユメちゃんから目移りしてしまうとは。なんというか、修行が足りない。

    「あの、浦沢先輩……?」

     ユメちゃんが、おずおずといった。

     早川先輩の目がユメちゃんたちに向いた。驚愕で丸くなる。

    「おい、浦沢。お前の待ち人の、オタクの友達って?」

     決まり悪さを覚えつつうなずいた。

    「はい。この人です」

    「失礼ね」

     聞き覚えのある声で、ユメちゃんの隣の娘がしゃべった。

    「え?」

     この事態をどう判断したものか、自分の脳細胞が一瞬停止するのを感じた。

    「わたしたちは、オタクなんかじゃないわよ」

     脳細胞のリレーがようやくつながり、見えないものが見えるようになった。

     ぼくの顎が、かくんと落ちた。

    「キ、キリコなのか?」

    「当たり前でしょ、順昇」

     その女の子は、腰に手を当てて轟然といい放った。

     見てくれはすっかり変わっていたが、そのしゃべりかたと物腰はキリコにいささかの間違いもなかった。


       予告

     ゲームのためのゲーム。設備投資のための設備投資。

     歴史の果てから、連綿と続くこの愚かな行為。

     ある者は悩み、ある者は傷つき、ある者は自らの財布に絶望する。

     だが、営みは絶えることなく続き、また誰かが呟く。

     「たまには、火薬の臭いを嗅ぐのも悪くない」

     次回、『ゲームセンター2038』

     神も、ピリオドを打たない。

     (ナレーション:銀河万丈)
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    やはりこういうのは王道でないと(笑)

    しかしこれは新たな悲劇の前触れでしかないだった(笑)

    NoTitle

    順昇くんの知らないところでキリコちゃんもきれいになっているのですね。かわいい女の子二人を(に)連れ(られ)て、事情を知らない人たちから見たらうらやましがられるでしょうね^^
    次回も楽しみにしています。
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