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    鋼鉄少女伝説

    鋼鉄少女伝説 8 ゲームセンター2038

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       8 ゲームセンター2038



    「あの浦沢がねえ」

    「だから、よしてください、早川さん」

    「だって、まあ、そういうことだろ?」

    「違います」

     ぼくと早川先輩の後を、キリコとユメちゃんはくすくす笑いながらついてきていた。

    「えーと、霧村さんに、小金沢さんだったね。ここに来るのは初めて?」

    「はい」

     キリコは、いつものドスが入った声からは想像もつかないような澄んだ明るい声で答えた。

    「こういうところでのゲームは、やったことがありません」

    「じゃあ、日ごろはどんなゲームをやっているの?」

    「シミュレーションボードゲーム」

     ぼくが、横からぼそりといった。

    「日がな一日、六角形のマス目が書かれたボードの上に数百個の駒を乗せて、サイコロ振って笑っているのが趣味なんだ」

    「えっ……」

     早川先輩が、心なしか、引くのがわかった。

    「そ、それは、変わった趣味だね。SLGなんて」

    「SGです」

     キリコはきっぱりといった。

    「SG?」

    「もともとシミュレーションゲームの略号はSGでした。それを、パソコンゲームだのRPGだのに影響された軟弱なバカどもが、SLGなどという腑抜けた呼び名をいいだしたんです。日本はそこから悪くなってきたんです」

     早川先輩が、さらに一歩、引いた。

    「それって、いつの話だい?」

    「一九八〇年代終わりです」

    「それって、キリコが生まれる前だろうが!」

     ツッコんだ。誰かがやらねばならなかったので。

    「面白い人だね」

     口ではそういっていたものの、早川先輩、完全に逃げ腰だ。そりゃあそうだよな。こんな話をされちゃ。

    「ところで、MAPってどれなんですか?」

     ユメちゃんが尋ねた。視線を左右にさまよわせている。

    「あれだよ」

     ぼくは奥の一角を指し示した。巨大なモニターが据え付けられた金庫室のようなものが、そこにはあった。

    「あれですか?」

     そう、これだ。これがMAP。こけおどしの筐体だ。

    「この中でゲームをやるんですね」

     ユメちゃんが、そっと壁に手を触れてつぶやいた。

    「そうだよ」

     ぼくは答えた。

    「噂には聞いてたけど」

     キリコが、腕組みしながら値踏みするようにMAPを見る。どこか声が攻撃的になっているが、乾燥梅干しが切れたのだろうか。

    「昔から、こういうのってなかったっけ?」

    「あったよ。それで、失敗続きだったんだ」

    「失敗だなんて簡単にいうなよ、浦沢」

     早川先輩は憤然とした。

    「この機体を作るのにはだな、それはそれは多くの人間の汗と涙が」

    「失敗作には違いないじゃないですか」

     ぼくは、そらんじている、アミューズメントゲーム界の歴史を語った。

    「この手の閉鎖型インターネットゲーム機は、だいたい、ゲームセンターが本格的に追い詰められてきた二〇一二年ころから導入され始めたんだ。既存のビデオゲームやパソコン、それからコンシューマー機では味わえない、贅沢ですばらしいゲームをプレイさせるという触れ込みでね。それが」

     まず指を一本折る。

    「第一弾となる初代MAPは、採算を取ろうとメインCPUに低い能力のものを使っていたため、グラフィックとスピードがガタガタになって潰れた」

     指の二本目。

    「根本から設計を見直した二代目のMAPSは、セミ量子CPUの性能に、外部とつながっている回線の性能が追いつかず、これまた不満足なものしか提供できずにまた潰れた」

     指の三本目。

    「三代目のMAPTは、性能的にはなんとかハードルをクリアして、マニアや評論家からの評価も高かった。しかしこれには致命的な欠陥があった」

     早川先輩をちらりと見る。

    「わかりますよね」

    「ああ」

     早川先輩は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

     続けた。

    「一回のプレイにかかる費用がバカみたいに高かったんだ。その額は当時のお金でワンプレイ五千円。いかに優れた能力を持っていたとしても、これじゃあふつうの人間は誰もプレイしようとはしないよ。てなわけでこの機械も、哀れ歴史の闇の中へと姿を消した」

    「そこまでいわなくてもいいじゃないですか、浦沢先輩」

     ユメちゃんが抗議した。

    「いいんだよ、小金沢さん。ほんとうの話なんだから」

     早川先輩が後をひきとった。

    「いいとこなしね」

     キリコが短く論評した。ゲームセンターの努力に向けられたセリフか、今のぼくに向けられたセリフか。深く考えないことにした。

    「とにかく、そういった輝かしい失敗の歴史の果てが、このMAP4だよ。四代目ということになるね。新IT革命の爆発的な技術革新により、MAPTの能力をそのまま、あるいはそれ以上に引き上げることには成功したらしい。そのうえで、プレイにかかる費用も低価格で抑えたことも認めるけど。それでもねえ」

    「それでも、なによ」

    「一回のプレイ料金が」

    「料金が?」

     キリコの疑問にユメちゃんが答えた。

    「会長。ここに値段表が書いてありますよ。ええと、一ゲーム千五百円、三ゲーム四千円、回数券は五枚つづりで五千円」

     キリコは天を仰いだ。

    「なによその値段」

    「これでもぎりぎりだ」

     早川先輩がいった。

    「この機械は場所を食ううえに、一回のゲーム時間も長く取らなければ、値段に見合った感動を与えられない。そのためどうしても料金が上がってしまう。わかると思うが」

    「ゲームを一回やるのに千円も払うなんて、躊躇しちゃいます。それにゲーム時間が長いといったって、一時間もできないでしょう?」

    「長くて三十分だ」

     ユメちゃんの言葉に、早川先輩はしぶしぶ認めた。

    「それなら映画館へ行って映画を見たほうがまだマシだわね。少なくとも映画館なら、一時間半は時間が潰せるわけだし、ET式の3D映画だったらゲームなんかとは段違いの映像が楽しめるだろうし」

     キリコは淡々といった。

     早川先輩が声を荒げた。

    「やってもみないのに、なにがわかる! MAP4のシステムがもたらすあの三十分の興奮はだな、そりゃあもう……そりゃあもう……」

    「ゲームの楽しみは、言葉で語ったって届くもんじゃないです。現に順昇も、いくらシミュレーションボードゲームの楽しみを説いても説いても納得してくれなかったですから」

    「出会いが最悪だったんだ」

     と、ぼくは、吐き捨てた。

    「じゃ、出会ってくか、MAPと。お金はあるよね?」

     早川先輩は気を取り直したようだ。

    「いえ……わたしは」

     首を振ったキリコを早川先輩は不審に思ったらしい。

    「なに? だって、君たちはMAPのゲームをプレイしにここへ来たんだろう? まさか、ここに立って、ただ悪口をいうためだけに来たわけじゃないよな」

    「あまり早くてもなんですし」

    「え?」

     キリコは、鞄からメールのプリントアウトとライトメモリーカードを取り出した。ユメちゃんも、ショルダーバッグからカードを取り出す。

    「順昇も持ってきたんでしょ?」

     ぼくは、認めたくはなかったが、ポケットからライトメモリーカードを取り出した。

    「きみたち?」

     キリコはにっこりと笑った。

    「あたしたち、テストプレイヤーに選ばれたんです」



       予告

     ファウストは、メフィストフェレスに心を売って明日を得た。

     マクベスは、3人の魔女の予言に乗って地獄に落ちた。

     キリコは、ゲームに己の運命を占う。

     ここ、ゲームセンターで明日を買うのに必要なのは、招待券と少々の時間。

     次回、『テストプレイヤー』

     こんな商売に入れ込む馬鹿もいる。

     (ナレーション:銀河万丈)
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    冷静になって今読み返してみたら、ものすごく読みにくいことに気づいた(^^;)

    こりゃボツになって当然だ。出版社の人、悪くない(^^;)

    NoTitle

    キリコちゃん……せっかくかわいくしてきたのに……速攻で地が出ている……(笑)
    次回からいよいよテストプレイでしょうか。楽しみにしています!
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