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    鋼鉄少女伝説

    鋼鉄少女伝説 9 テストプレイヤー

     ←アルファポリスの大賞に参加しています! →自炊日記・その78(2018年6月)
    stella white12

       9 テストプレイヤー



    「お前のところにも来てたのかよ」

     ゲームセンターの受付で処理を待ちながら、二人に向かってぼやいた。考えが及ばなかった自分がアホに見える。

     キリコはのほほんとして答えた。

    「そりゃ、順昇のパソコンでゲームをしたとき、わたしたちも認証コードを入れるわよ。そうしなくちゃゲームはできないし」

    「それでメアドにメールが来たわけか。そうだよな。そりゃそうだよな」

    「すみません、浦沢先輩。朝はほんとうにお怒りのようでしたから、あたし、なんていっていいかわからなくて」

     とほほほ。ユメちゃん、謝ってくれるのはいいが、それ以上謝られると、まるでぼくがほんとのアホみたいだ。

     店員さんが、にこやかな笑顔でライトメモリーカードを返してくれた。ライトメモリーカードというのは、主にごく簡単なデータをオフラインでやりとりするために使われる、超低容量超低価格超小型の携帯用外部記憶装置だ。OS付属のソフトを用いてごく簡単にパソコンを設定するだけで、当面の目的には使わないであろう不必要な記憶内容を自動的かつ完璧にデリートしてくれるのが特徴だ。

    「認証しました。浦沢順昇様ですね。では、まずご契約の確認を」

     店員さんは、細かな契約事項を話し始めた。いっていることはきわめて常識的に思えたので、はい、と答えて同意した。

    「ありがとうございます。つきましては、ここにサインをお願いいたします」

     いわれるがまま書類にサインをした。

    「カードをお作りいたしますので、しばらくお待ちください」

     意外と時間がかかるものだな。とはいっても、指定された午後五時からまだ五分も経っていないのだが。

     後ろを向く。

    「で、キリコ。ぼくが来なかったらどうするつもりだったんだよ?」

    「順昇は来るわよ」

    「なんでわかる」

     キリコは大きく口を開けて笑った。

    「だって、コンピュータに命を捧げているような人が、目の前に最新型のアミューズメントゲームマシンをタダで遊べる状況をぶら下げられて、抵抗できると考えられる? 現に順昇、やたらとゲーム機の歴史に詳しかったじゃない」

    「ふん」

     図星なところもあったので、横を向いた。

    「浦沢様、カードお待たせしました」

     受付の人からゲーム用のカードを受け取った。プラスチック製の薄いICカードだ。

    「カードにはゲームのデータと、チャージなされた金額が記載されております。ゲームが本格的に稼動するまでの三ヶ月間は浦沢様は自由にこのMAPをお使いになれますが、ほかのお客様がご使用になられる場合は、どうかそちらのかたにお譲りいただけるようお願いいたします」

    「はあ」

    「三ヶ月が過ぎた後もこのカードはご使用になれますが、その際には規定のチャージ料金をお支払いいただきます。またこのカードは、有償、無償を問わず、譲渡したり貸与したりすることはできません。紛失したり破損したりしても再発行はできません。これらのことはカード裏面にも書いてありますが、ご同意いただけますね?」

    「はい」

     うなずいた。こういった手続きのときはよくある契約の確認というやつだが、こういうやりとりをすると洋物の刑事ドラマに出てくるミランダ条項を思い出してしまう。あなたには黙秘する権利がありますって、あれ。

    「ありがとうございます。では、MAPの世界をお楽しみください」

     その声に送り出され、受付ブースを離れた。

     先に処理をしていたユメちゃんと合流する。

    「浦沢先輩、MAPのゲームって、どんなものなんですか?」

    「ぼくもよくは知らないよ。お金がかかりすぎてネット記事を読んだだけだもんな。それにその評からすれば、値段のわりに遊べるものではなかったらしいし。なんでも、シューティングはこれまでにもあったようなゲームのグラフィックを強化しただけの陳腐な代物。格闘ゲームは実際に殴りあうのを完全に再現したようなものだったので、やっていて非常に疲れる。RPGは、いくらか好意的だったけど、長くて三十分ではプレイ時間が物足りないということだったからね。このシミュレーションゲームが面白いかは、微妙だな」

     MAPの壁面に貼られた「ANCIENT ART OF WAR FOR MAP」と大書されたポスターを見てつぶやいた。

    「だいたいシミュレーションゲームなんか、傍から見ていて楽しいのかな? それも三十分も。こんなでかい外部モニターがついているけどさ」

     三つほど取り付けられている、バカみたいに大きなモニターを指差す。そこでは、隊列を組んだ無数の兵士たちの戦闘シーンの映像がかかっていた。思わず本物の映像と見まごうほどのリアルさがあったが、現代じゃ、モニターでのこの程度のグラフィックはありふれている。というか当たり前。ETではそうでもないけど。

    「まったく、ゲーム会社もなにを考えているんだか」

    「といいながら、どきどきしているんでしょ、順昇?」

     手続きを終えたキリコがやってきて、わかったような言葉を吐いた。

    「そんなどきどきしてはいないよ」

    「どうだか」

     ふふん、と笑う。やな女だ。

    「手続きは済んだんだし、やるんでしょう、順昇? MAPという機械のETグラフィック能力をフルに使う代物だそうだから興味あるわよね。これだけで他のゲームソフトを入れる余裕がまったくなくなってしまったそうだし」

    「時間しだいだな」

     時計を見た。五時十五分。

    「ここまで来ちゃった以上、やって行こうか。ユメちゃんは?」

     ユメちゃんは、二、三秒、悩むような表情を見せた。

    「どうする、やめとく?」

     キリコがそういうと、ユメちゃんは首を横に振った。

    「いえ、会長、やります」

    「決まりね。どのみち二人じゃできなかったけど」

    「やれやれ。でも、どうして三人と限定されてるんだろう」

    「さてね。MAPで一度にゲームできるのが三人までだからか、チームプレイを楽しませるためか。面白ければどうでもいいけどね」

     キリコは、ずいずいと歩いていくと、チェッカーにカードをかざした。ドアにランプがつき、妙な間とスピードで重々しく開く。

     中は暗かったが、扉の奥に設けられている三つの個室の扉の右端の一つが、オレンジ色にぴかっと光って開いた。キリコは「じゃ」といってその中に入った。

     ユメちゃんをちらっと見ると、ユメちゃんは手を伸ばして「どうぞお先に」と目で合図した。

     ありがたくお言葉に甘える。

     外の扉が開いているうちにチェッカーにカードをかざす。奥の、今度は真ん中の扉が光った。自動扉が素早く開く。

     三歩歩んで、開いたばかりの奥の扉に入った。と思った瞬間、空気の音を立てて扉は閉じた。

     部屋の中にあったのは、椅子とスクリーン、それに荷物置きかなにかのテーブルだった。

     スクリーンには黒をバックに白い字で「席におつきになって、ベルトをお締めになってください」と、日本語と英語と、どうやら中国語でも書かれている。同時にハングルでなにかが書かれていたが、たぶん同じことが書いてあるのだろう。

     ぼくはおとなしく椅子に座ってベルトを締めた。動きもしないゲーム機なのにベルトをしろだなんて、スーパーロボットでも操縦させるつもりなのだろうか。

     表示が変わる。

    「ブレスを認証させてください。済みましたら、ETが発動いたします。電脳空間に没入なさってください」

     そうした。といっても、やることは目をつぶるだけ。

     ゲームの遊び方のデモが始まった。なんということもなしに見る。だって、だいたいの操作方法はパソコン版と同じだもんな。ETを使って部隊を指定して動かすだけ。地図の見かたや部隊の行動の切り替えかたも同様。ちょっと違うのは、他の部屋にいる二人と連絡を取り合うには、一度コンピュータに伝言を吹き込んで「伝令」を移動させる必要があるということだ。ゲームの最初にある状況説明のときは、画面を操作することで自由にほかの二人と話せるそうだが。

    『順昇? 聞こえる?』

     説明を割ってキリコの声がした。ぼくは、先程の説明の通りに視界を操作し、返事をした。

    「なんだよ。説明を聞いていたのに」

     ふふん、と笑う声。

    『説明? そんなものは終わっているわよ。今は対戦相手を待つ時間ね。ほら、SGSのゲームの広告がかかっているでしょ』

     えっと意識を改めた。そういわれればその通りだ。

    「広告の話をしにきたわけじゃないだろ。でも、あらかじめ話しておくことなんてあったっけ?」

    『総大将はわたしでいいでしょ?』

     なんだそんなことか。

    「キリコ以外の誰がいるんだよ。ぼくは恥をかきたくないし、ユメちゃんは奥ゆかしいから、相談するまでもなくキリコで決まりじゃないか」

    『確認は取っておこうと思ってね』

    「ふん」

     視界の隅にあるのアイコンが消えた。キリコが通話を切ったらしい。

     ぼくは二秒ばかり、デモを見てぼんやりしていたが、はっとした。

     これはユメちゃんと、誰にも邪魔されずに話すチャンスではないか!

     さっそくやってみよう。勇んで画面を操作しようとしたとき。

     ふいに周囲が、兵士でいっぱいになった平原と化し、ときの声がこだました。

     オンラインで対戦相手が見つかったらしい。ゲームが始まったのだ。

    「紀元前九〇年、イタリア?」

     ぼくのつぶやきを聞き逃すキリコではなかった。聞き逃すもなにも、いちいち切り替えるのもめんどくさくて通話設定を「全員と話す」にしていたのだから聞こえて当たり前といったら当たり前なのだが。

    『共和制ローマが内紛をぐちゃぐちゃやってたころよ。歴史で習ったでしょ? マリウスとスッラの時代。まあ、マリウスはこのころはもう死んでいたけど』

    『同盟者戦争っていいます、浦沢先輩』

    「やったようなやらなかったような」

     ぼくは首をひねった。

    「あ、これ以上の歴史解説はいいからな。説明があるから」

     耳をすます。

     ……紀元前九〇年、六個軍団を率い外敵を征伐しに赴いたローマ執政官コルネリウスは、帰途、ローマに対して突如反逆を宣言した。新たにローマ執政官に選ばれたフラミニヌスは、ローマで四個軍団を組織した。フラミニヌスの軍はコルネリウスの軍に比して士気こそ高かったものの、数で劣り、特に騎兵の数的劣勢はいかんともしがたかった。あなたはフラミニヌス側の将軍および軍団長となり、コルネリウスの軍と戦わねばならない……

     だめだ。意味がさっぱりわからん。

    「キリコ、これ、こっちが善玉だってことでいいのか?」

    『共和制ローマを侵略国家だっていわないんだったらね』

    「またワケのわからんことを」

    『わからなかったら勉強なさいな』

    『それはいいとして。会長、どう戦いますか? 歩兵も騎兵も、敵にはうちの一・五倍の数がいます。装備も訓練もほとんど同じで、こちらが高いのは士気だけですよ。これじゃ、普通にやったらどうやったって勝てませんが』

    『もう一度、地図を見るから待ってて。……そうね、これは「あれ」をやるしかないわね。敵がひっかかるほど愚かかどうかはバクチだけど』

    『ファルサロスですか? 危険ですよ』

    『しかたないじゃない。ここで負けると、共和制ローマがローマ王国になっちゃうんだから』

    『わかりました。会長の思う通りに』

     こちらもこちらでまた、意味がちっともわからない会話をしている。

    「聞きたいんだが、ぼくはなにをすればいいんだ?」

     ちょっとイライラしているのが、口調に出ていたかもしれない。

     キリコの答えは意外だった。

    『順昇には騎兵をやってもらうわ』

    「騎兵ってあの、馬に乗って突撃するやつ? 冗談はよしてくれよ、キリコ。騎兵はものすごく重要だっていってたじゃないか。ここはユメちゃんに任せたほうが」

    『順昇じゃないとできないことなのよ』

    『わかりました、会長。敵にこちらを、無能指揮官だと思わせるんですね!』

     ひどいやユメちゃん。


       予告

     人は、ゲーセンに何を求める。

     ある者は、ただ瞬間の楽しみのため、引き金を引く。

     ある者は、理想のために百円玉を食べさせる。

     またある者は、実りなき野心のために、1コインクリアを狙って屍となる。

     思いは汚れた大地を禊ぎ、流れとなり、川となって常に大海を目指す。

     次回、『凱旋』

     人は流れに逆らい、そして誰かが岸に這い上がる。

     (ナレーション:銀河万丈)
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    Re: 椿さん

    ユメちゃんはこういう人ですから(笑)

    戦闘は、その筋に詳しい人はよく知っている「あれ」をモデルにしているです。……ってすでに書いたけど(笑)

    あーシミュレーションゲームがやりたい。ちなみに今夜もTRPGにうつつを抜かすことになっています。いったいいつわたしは小説を書くんでしょう(笑)

    NoTitle

    待ってました! いよいよテストプレイが始まりましたね。
    古代ローマの戦い、どうなっていくのか楽しみです。
    ユメちゃんそれはハッキリ言っちゃダメなやつだ(笑)
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