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    「ショートショート」
    ファンタジー

    ギャンブラー

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    「お前さんは、結婚なんかできないね」
     酒場でとぐろを巻いていたおれに、飲み仲間の一人がからんできた。
    「できるさ」
     おれも酔っ払った頭で答えた。
    「面白え。じゃ、賭けるか?」
     乗った、おれも乗る、という言葉が酒場中から聞こえてきた。あっという間にテーブルが銅貨で埋まり、おれは引くに引けなくなっていた。
     飲み仲間たちはにやにや笑っていた。
    「期限は三日だぞ、ギャンブラー」
    「けっ」
     おれはふらつく身体で立ち上がった。
    「いいか、おれは確かに、これまで負けていた。だがな、おれは最後には勝負に勝ち、望む全てを手に入れる、と、ガキのころに引いたおみくじには書いてあったんだ。今日がツキのつきはじめよ。見てな!」
     おれは酒場の扉を蹴飛ばして開け、外へと出ていった。

     家業の仕立て屋を継ぐことなんか、おれは考えたくもなかった。親元で修業している最中も、あんなつまらない仕事など国中を探したところでそうはないんじゃないか、とおれは考えていた。朝起きて針と糸と布。昼飯を食って針と糸と布。便所へ行って針と糸と布。もういいかげん、いやになる。
     それなら、飯より好きなギャンブルをやって、それで食っていく方がましだというものだ。おれは、幼い頃にはるばる連れられていった聖なる地にある聖なる社で引いたおみくじのことを忘れてはいなかった。あれは普通のおみくじではなく、聖別されたそれなのだから。
     おれは小銭を賭けることからはじめ、今ではどんな勝負でも受ける、いっぱしのギャンブラーになっていた。仇名でさえも「ギャンブラー」だ。勝率は、よくてとんとんかそれ以下だが、なに、将来勝つための授業料と思えば、安いもんだ。おれには、こんな町に骨を埋める気などなかったのである。
     で、今日の勝負だが、おれには勝算があった。
     相手は、町外れに住む、ベスという一人暮しの出戻りだ。出戻りといってもまだ若く、ふるいつきたくなるほどの美人というわけではないが完全におれの好みで、おれは彼女にころりと参っていた。いつしかおれは彼女の家に日参するようになっており、親しく口を利く仲になっていた。
     そして、これはやつらには隠していたことだが、昨日こっそりと話を持ちかけたときには、彼女から悪からぬ反応を得ていたのである。もうひと押し、もうひと押しでなんとかなる。ギャンブラーとして、この条件なら、乗らないわけがない。最後に一儲けした後で、手に手を取って二人でこのしけた町を抜け出すのだ。
     おれはそのまま自分の家に帰り、最後の口説き文句をあれこれ考えながら、酒を抜くためぐっすりと寝た。

     翌日、おれは持っている中でいちばん上等な衣服を着、花屋で見繕った花束を持って、ベスの家へ行った。
    「なにしに来たの?」
     ベスは、この間とは打って変わった冷たい声でおれを迎えた。
     いきなりのその態度に、おれはとまどった。
     少々どもりながら、一緒になってくれないかと告げた。
    「断るわ」
     ベスは冷淡に、おれの差し出した花束を押しのけた。
    「おい、誰かほかに……」
    「そんなんじゃないわ」
     ベスは鼻で笑った。
    「負けっぱなしのギャンブラーなんかと結婚する人がどこにいるのよ」
    「おれは最後には勝……」
     ベスはおれに最後までいわせなかった。
    「いいえ、あなたは負けるわ。負けて負けて、すってんてんになって、どこかの路地裏で凍え死ぬのがあなたに似合いの結末よ。それが証拠に、見てみなさい! あなたはわたしに、小金ほしさの結婚をもちかけようとしてるじゃないの!」
    「そんなことはない!」
     おれは叫んだ。
    「おれは本気だ。本気なんだ。本気でおれは君の……」
    「賭けられる?」
    「賭けるとも!」
    「じゃあ、わたしと勝負しましょう。わたしは、あなたが、ギャンブルから足を洗わず、かたい職にもつかないというほうに、全財産と、からだと、こころを賭けるわ。受ける?」
     おれは息を呑んだ。
    「おれは……」

     今も、おれはギャンブルを続けている。
     女房はいつになってもいい女だし、二人の子供はかわいいさかりだ。
     仕立て屋の仕事は、確かにつらいといったらつらいが、だんだんと、やりがいだとか楽しさだとかもわかってきた。
     そう、おれは最後のギャンブル、女房とのあの日の勝負を、今も続けているのだ。
     考えてみれば、あの日の酒場で飲み仲間から勝負を持ちかけられたこと自体が、作為的なものだったんじゃないかとも思えるが、そんなことはどうだっていい。
     大事なことは、おれが最後には必ず勝つ運命に生まれついており、そして勝者は望む全てのものを手に入れることになっているということ、それだけなのだ。
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    ~ Comment ~

    >トゥデイさん

    演劇お好きですか。
    見れば楽しいのでしょうけどちょっと敷居が高くて(^^;)
    でもなにかで機会ができたら行ってみようかなあ。

    トゥデイさんも創作をなされておられるのですか。
    戯曲ですか?

    知りませんでしたか。
    何となく雰囲気似てるなと思ったので。
    まあ、こういうゲームをきっかけに…みたいなのはラブストーリーの定番ですから。

    演劇、好きなんです。
    オリジナル長編をしっかり量産できるのは凄いです。
    ドラマもああいうシックな人情劇やればいいのに。
    まあ「無いなら作れ」をモットーに頑張ります。

    >トゥデイさん

    宝塚や舞台劇はあまり好きではなくまったくといっていいほど見ないので、石田昌也氏については全然知りませんでした。
    不勉強を恥じるばかり……。

    今更ですが、この作品、
    石田昌也を意識してたりしますか?

    >がたがたさん

    お楽しみいただいてありがとうございます。

    女性にツンデレ成分ですか。

    うーん、実は「ツンデレ」というのがいまいちよくわからない(^^;)

    その手のアニメも見てるしマンガも小説もちょいちょい読むんですが、だいたいそういうもの、というのはわかっても、いざツンデレとはなにか、を考えると……よくわからない、と答えるしかない(^^;)

    とはいえなにも考えずに書いた登場人物を知人に「典型的ツンデレ」と評されたりもして、うーん、わからん。ラノベ奥が深い(^^;)

    これいい。
    優しい感じが好きです。
    願わくば女性にもう少しツンデレ成分が欲しいけど
    文章の書けない私が言うことではありませんね。
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