「ショートショート」
    その他

    サンタと哲学の徒

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    「昨日はクリスマスだったね」

    「ああ」

    「ねえ、あなたのところにはサンタさん、来た?」

    「サンタが来るというのは物質的なものなのか非物質的なものなのか」

    「え? ……プレゼントくれるんだから、物質的なんじゃないのかな……」

    「プレゼントが完全に非物質的なものだとしても、物質的といえるのかい?」

    「ごめんいってることがよくわかんない」

    「たとえば、朝目が覚める。とてもいい気持ちだ。この『いい気持ち』という感覚がプレゼントだった場合、それは物質的なものといえるのか。また、詰まっていた数学の難問で、新しい定理がパッと頭に浮かぶ。これがプレゼントだった場合、それは物質的なものといえるのか」

    「じゃあ、物質的でもあるし、非物質的でもある、で、いいよ」

    「それは物質的でありながら非物質的であるといっているのか、それとも物質的な領域と非物質的な領域とにまたがって存在するといっているのか、どっちなんだい?」

    「またがって存在する、かなあ?」

    「オーケー。僕たちの議論はひとつステップが上がった」

    「なによステップって」

    「さて、サンタと呼べる存在があるとすれば、それは物質的な領域と非物質的な領域にまたがるものであるとした場合、サンタがやってくるというのは、いったい何を意味するのか?」

    「え……」

    「サンタを物質的なものであるとしよう。それは、サンタの実在の事実性をいっているのか、それともサンタの実在の存在可能性をいっているのか、どっちなんだい?」

    「事実性ってあなた」

    「つまり、サンタという存在は、実際にこの世界に存在するのか、それとも存在するという『可能性』のみが存在するのか」

    「可能性……じゃないかなあ……そんなにサンタを信じている人でもないと、サンタなんて……」

    「サンタが可能性でしかないとすると、可能性がどうやって現実世界に影響を及ぼすことができるというんだい?」

    「ど、どうやってって、可能性っていったのは、そっちじゃ……」

    「僕は可能性として存在する、だなんていっていないよ。選んだのはきみじゃないか。僕は、もしサンタが可能性としてしか存在しないのだったら、論理的に考えて、それがどうしてこの世界に影響を与えることができるかわからないと指摘したまでだ」

    「じゃあ、実際にこの世界に存在する、と考えたほうがいいのかなあ……」

    「そう考えたとしても、問題は残る。たとえばこういう可能性だ。もし、ある存在、『サンタの存在をまったく信じていない』存在がいたとして、それが例の赤い服を着て、全世界の子供たちにプレゼントを配って回ったとしよう。このとき、僕たちは『サンタは実在しない』と考えていいのだろうか」

    「…………」

    「どうだい?」

    「うーん、サンタは実在しないけど、子供たちにとってはサンタは実在する、ということになるんでしょうね」

    「存在しないものがどうして存在するんだい? もし、サンタが子供たちの間で実在するのなら、サンタは実在するんだし、サンタが存在しないなら、子供たちがどう考えても、サンタは実在しないことになるぜ」

    「うーん、サンタは、『考え』としては実在するんじゃないかしら。サンタそのものは実在しなくても、『サンタとはこういうものだ』という考えは存在する」

    「つまり、サンタは『観念』なんだ。こういうことだね? では、サンタが『観念』だとして、『観念』がやってくる、というのは、どういうことなんだい? 観念とはやってくるものなのか?」

    「え? えーっと、えーっと、観念はそれ自体としてはやってこないけど……」

    「では、僕がサンタのことを知らない子供だとして、そういう人間が『サンタ』という概念を理解するのは、どうやってなんだい?」

    「え? 『サンタのことをひとから聞いて』……」

    「とすると、サンタは実在しなくても、サンタの概念を共有する人間の集団は実在するわけだ」

    「そりゃそうでしょ! あなたも、あたしも、サンタについてそれがどんなものだか、知ってるじゃない!」

    「では、サンタというものをわれわれは、単に知識として、観念としてのみ理解するのか。理解だけだったら、サンタがやってくる、ということがどういうことなのか、わからなくなるぜ」

    「うーん、うーん、なにかによって、サンタの存在を実感するというか……」

    「これでまたステップが上がった。サンタがやってくるとは、何らかの現象によってわれわれの中にあるサンタの概念が刺激されることを意味するんだね」

    「それでいいわよ……」

    「よくはないよ。その現象があったとして、それは『サンタ』と呼べるのかい?」

    「またわけのわからないことをいい出して!」

    「さっきのたとえ話を思い出してみろよ。もし、サンタの実在を信じることはおろか、サンタというものに何の知識もない存在が、例の赤い服を着て、子供たちにプレゼントを配って歩いたとする。そのとき、そこに『サンタ』は存在するのだろうか」

    「あんたねえ!」

    「答えるのはきみだぜ」

    「サンタ自体は存在しないかもしれないけれど、サンタを信じる人たちは存在するでしょうね! これでいいの?」

    「つまり、こういうことだ。サンタの観念を共有する集団が、サンタの存在を確信するだけの刺激を受ける、いわば『サンタ空間』というものがこの世界に形成されるということになる。サンタ空間はもちろんサンタそのものではないが、サンタがあらわれるということを、ひとつの『現象』として考えれば、それは『サンタ空間』にサンタの概念を有する人間が接触する、その『接触』それ自体を指すのではないか」

    「それで、あんたには、そういう接触があったの?」

    「それを考えるには、その接触は、接触した人間にとって自覚されているものであるか、自覚されていないかについて考えなければならず」

    「もおええわ」
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    ~ Comment ~

    Re: miss.keyさん

    「サンタと聖ニコラウスの同一性は照明可能なのかという問いは意味を持たない。サンタも聖ニコラウスも、その言葉の中に無限の意味を内包している……われわれは、それが重なり合うのを、しかも不定形に揺らめき変動しながら重なり合うのを見ながら、ある種の空間という形でそれを認識する……それこそがウィトゲンシュタインの語る「家族的類似性」だ。あれは静的な不確定性ではなく、動的なそれなのだ」

    「なにいってるかわかってるの?」

    サンタさんは犬年生まれです

    産多・・・。

    Re: 野津征亨さん

    疑問を持つことが哲学の始まりです。だからわからなくていいのです(そうか?(^^;))

    来年もよろしくお願いします。(^^)

    NoTitle

    こんばんは。年末で回らない頭で読ませていただきました(ますます混乱しました…理解力がなくてすみません汗)
    本年もお世話になりました。どうぞよいお年をお迎えくださいませ。

    Re: ムイミさん

    「サンタの事実性として、「非在」を証明するのは不可能だ。しかし、ある現象を、「サンタ」という概念を支点として解釈することにより明晰判明になるのなら、「現象としてのサンタ」を分析するのが意味がないことだとは僕は思わない。それは「現象としての神」を分析することと共通している。そして「神学」にまだ可能性があるのなら、そこにしかない……」

    「この哲学かぶれどもはチェリオでも飲んでなさい!」(怒)

    Re: blackoutさん

    「これは当たり前で細かいことだからスルーしてもかまわない」と考えなかった人間たちのおかげで、人間は文明というものをこしらえることができたのだから、文明の安定した操縦のためにも、人間はこの手のことを考え続けなくてはならないのである、って、ファラデー先生が言ってました(ウソです(笑))

    NoTitle

    「サンタが存在するか?」という問いは「トナカイがひく空飛ぶそりで移動し、プレゼントを配る赤い服のおじいさんがこの世界に存在するか?」でありサンタの存在の可能性、もしくはサンタという概念の存在を問うてはいないと考えます。

    サンタに限らず、すべての事柄について存在の可能性は0ではなく存在しますし、また、サンタという概念はクリスマスに世間を見渡せば一般的意味においては存在することは明らかで、それを疑うとすればやはりサンタに限定する必要はないからです。

    あえて「サンタ」だけを取り上げて聞く以上、この世界に実在するかという意味にとらえるのが自然です。
    そしてサンタはおそらくは空想上の産物に過ぎないため、存在しないが正しいと思われます。

    ただ最初の「サンタが来た?」という質問は比喩等も考えられるため、様々な答えができる自由度があると思います。

    NoTitle

    哲学って、やっぱり突き詰めていくと、ただの屁理屈かなって思ったりしますw

    多くの人たちがスルーするようなことを、この世の最重要時みたいなノリで小難しい言葉で意味付けしてくってことなんかなと

    Re: 矢端想さん

    「おかげで彼女ひとり出来たことがない」

    「春風亭昇太か!」

    こういうことをごちゃごちゃごちゃごちゃ考えることが好きな人間でなかったら、今ごろは地方公務員にでもなっていたんだろうけれど……。

    Re: 椿さん

    この議論は「サンタ」の「サンタ性」とはなにか、それは「普遍」なのか、という「普遍論争」にまで発展するのであった。

    ちなみにみんな誤解しているが、「普遍論争」は現代にいたるまで哲学的には未解決問題(笑)

    NoTitle

    物質的なものか非物質的なものか、と問われれば、この世はすべて色即是空、粒子にして波動であることがすでにわかっているので「物質的であり非物質的である、チャンチャン♪」「存在はすべて可能性でしかない」とでもなるのでしょうが、彼の言うことを理解しようと一生懸命読みました。…が、頭の悪い私はついてゆけず読めば読むほど「結局中身のないただの言葉遊びなんじゃねえの?」と思ってしまいましたw
    にしても、男の屁理屈(ゴメン哲学だった)にここまで付き合う彼女(?)は大したものだなあ…と感心してたら、最後はやっぱり投げちゃったw。どんな帰結になるか楽しみに読んだのに…。この論理の展開、多くの女子が一番敬遠するタイプの男だよね。

    NoTitle

    「サンタクロースっているんでしょうか?」を読みましょう……と言いたいところですが、哲学の徒の方がチャーチさんの説明をひとつずつ丁寧に検証していく姿しか思い浮かびませんでした(^▽^;)
    検証の上、結論にたどり着けると良いですね。(どこが終着点なんだろう?)
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