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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ26位 匣の中の失楽 竹本健治

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     この本は、再読するのが楽しみでもあり怖くもあった。なにせ分厚い。しかも、衒学が山ほど詰め込まれているうえ、本の仕組みが、前衛的なSF小説でもここまで前衛的なものは書けないだろう、というような、あっと驚くシステムになっているのだ。日本ミステリにおける本格的な仕掛け本の最初の成功例ではないだろうか。

     というわけで、覚悟を決めて読んでみることにした。覚えているところと覚えていないところがあったが、なんと、ミステリとして堅牢にまとまっているではないか。とても竹本健治の作品とは思えない。(いいのかこんなこと書いて)

     さかしまの密室、遡行する謎解き、次から次へと提示されては破壊されていく仮説、本格ファンの心をわしづかみにして離さない、軽佻浮薄と見えて、実はまことに堅牢な作品である。なるほど、これなら26位もわからないではない。

     ……と読み終えて、今、深刻な疑念に捉われている。おそらく、85年版の「東西ミステリーベスト100」において、そこでコメントを書いた担当者にとっては、きちんと作品を読んだうえで、フィクションと現実を峻別したのだろう。しかし、この本において、それは大きな間違いではないのか?

     フィクションと現実は、常識的に考えれば、この小説においては完全に逆転しているのではないだろうか。われわれは最後まで、フィクションを現実と、現実をフィクションと思いながら読んでいるのではないのか。

     ……だって、そうではないか。

     考えてもみたまえ。この現実のどこに、「きちんと首尾一貫した説明のつく事件」の存在できる余地があるのだ。パズルのピースがきちんと収まり、論理的な解決がつく、そんな事件は、「小説やドラマの中でしか起こり得ないもの」ではないか。ここには顕教としての「堅牢なミステリ」に対し、密教としての「拡散していく何か不気味なもの、それこそが現実なのだ!」という裏メッセージがあるように思える。作者である竹本健治は、新本格ムーブメントの祖として持ち上げられながら、誰にも理解してもらえないそれを訴えるために「ウロボロスの偽書」を書かざるを得なかったのではないか、わたしはそうとまで考えている。

     まあそんなことはどうでもいいわけで。モラトリアム人間ばかりが揃ったひとつのぬるま湯的な共同体が崩壊していく、青春ミステリの傑作でもあります。読むべし。
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    ~ Comment ~

    Re: 百物語ガールさん

    まあいいんじゃないのかな。少なくともわたしは、「~すべし」なんてことを書かないと満足にストレス解消もできぬたちなので(笑)

    ブックガイドといえば内藤陳先生だけど、「陳メ平伏」というあの言葉の破壊力といったらなかったなあ。あの人も亡くなって何年たつやら……。

    NoTitle

    読んだことないから、ぜ~んぜ~んわからん(^^;

    > 読むべし
    読むべし。うん。「読むべし」はいいな。許せる(笑)
    いや。最近、ネットとかによくある、何かっというと「○○すべき」っていう上から目線な表現にすんごいムカついてて(笑)
    ネットでコピペ記事書いてるようなアホバカライターに、「○○すべき」なんてエラソーに言われたくねーよ!なんて(^^;

    いやはや。
    人間って、齢とるとだいたいこうなりますよね(爆)

    Re: 面白半分さん

    ありましたねえ。

    「それをいうためだけにこんな長々とわけのわからんことをいったのか?」って。

    もしかしたら竹本先生、

    「じゃあわけがわかることってなんだ」と我々に詰問しているのかもしれません。

    本職の学者からすれば、

    「プルキニエ現象でそんなことが起こるわけがないだろう」でしょうが、

    作品の中で完結していればいい、というのが、ミステリ読みにとっての快感であるし、ミステリにおける衒学はそれでいいのだと思います。

    NoTitle

    何度も読みました。
    衒学趣味というものもこの本から知りました。
    プルキニエ現象、ありましたよね。

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