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    「ショートショート」
    ミステリ

    うそ

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     彼は口先だけの男だった。
     悪いことに、本人もそれを自覚し、あろうことかそれを生計を立てる道にしていた。
     本職の詐欺師でこそなかったが、それにどこまでも近い存在だったのである。
     その日も、彼はとあるパーティーに来ていた。日本でも、ちょっとした有力者が主催するパーティーだった。彼はそこまで、嘘を嘘で塗り固めることで入り込んでいったのである。
     部屋はどちらかといえば悪趣味さに傾いていたが、よく飾られた居心地のいい空間だった。鳥の入った鳥籠が吊り下げられていたり、値は張りそうだが派手な骨董品が飾られていたり。二流の有力者というものは誰もがこういうものなのだろうか。彼はそう思った。
     金は持っていそうだが頭はちょっと足りなそうな中年女性を見つけ、言葉巧みに話しかけていたとき、彼はふと視線に気づいた。
     ちらりと振り返ると、そこには、まるまると太った小柄な男が、おもちゃの人形のような微笑を浮かべていた。
     だが、特徴的なものはその目だった。落ち窪んだ目が、まるで全てのものを見透かすかのような光を放っていたのである。
     彼はなんとなく不安を覚えた。さっきから、こちらにばかり視線を向けてきている。
     知っているのか?
     おれが嘘をついていることを。
     彼は背筋を汗が伝うのを感じた。
     落ち窪んだ目。あれは絶対に底意地の悪い人間だ。人のあらを探し出し、それを観察して楽しむようなやつだ。
     彼は、男から視線をそらして、再び中年女性との会話に集中しようとした。
     できなかった。
     気になるのは背後のあの太った男だった。
     振り返りたくなるのをこらえる。
    「どうなさったの?」
     中年女性の声に、彼は作り笑いを浮かべた。
    「あ、ああ、あの太った人、誰なのかな、と思って」
    「ああ」
     中年女性は蛙のように大きい口を歪めて微笑んだ。
    「遍教大学の、なんとかいう先生よ。心理学の研究では有名だそうね」
    「心理学!」
     彼は心臓が破裂しそうになるのを感じた。
    「心理学っていっても、そう固い人じゃなくて、小鳥が大好きな人よ。紹介してあげましょうか?」
     紹介なんてされてたまるか。
    「い、いえ、今日は遠慮しておきます。また今度会ったときに」
     彼は足元がふらつくのを感じた。
     きっとあの男は、この屋敷の主人に雇われて、パーティーにいかがわしいやつが来ていないか確かめるために呼ばれたんだ。絶対に、あいつは、この会場で、おれがひどいうそつきだということを大々的にばらしてしまう気に決まっている。
     だったら、やられる前にやるのが最善の手段ではないか?
     そうまで思った後、彼は首をぶるんぶるんと振った。
     なにを考えているんだ。あの男がおれを弾劾に来たという証拠は何もないじゃないか。おれの考えすぎかもしれん。そうだ、そう思ったほうが……。
    「教授! 教授じゃないですか!」
     眼鏡をかけた痩せた男が、太った男のそばへと歩いてきた。
    「教授、今日はどうしてこちらに?」
     痩せ眼鏡が聞いた。
     そうだ、どうしてこんなところに来たんだ。
    彼は、耳を澄ました。
    「なに、耳の楽しみのためだよ」
     太った男は耳障りな声でしゃべった。
    「ここに生きたいい実物がある」太った男は一拍おき、彼のほうを指さした。「わたしはうそが好きでね」
     それを聞いた瞬間、彼の精神の何かが、ぷつりと音を立てて切れた。
     立食パーティーという性格上、手元にはナイフがあった。
     彼は叫び声を上げて、太った男に切りかかっていった……。

    「さっぱりわからん」
     太った男は、もみ合ったときにできた服の破れをいじりながら、首をひねった。
    「快活そうな青年だったのに」
    「なにか、心当たりは……?」
     警察官が、メモを取りながら訊ねた。
    「だから、さっぱりわからんのだ。わたしは、鷽(うそ)という鳥が好きでね」男は部屋の隅の鳥籠を指差した。「今日も籠に吊るされていたのを眺めていたのだが……。さっぱりわからん。君、わかったら教えてくれんかね。わかったらでいいのだが。頼むよ……」
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    ~ Comment ~

    >トゥデイさん

    北アジアからヨーロッパまでどこにでも分布している鳥らしいですね。

    パーティーとはまったくなんの関わりもなく、ただ鳴いていたら楽しいだろうということで、館の主がインテリアがわりに置いた、というだけのことです。
    なんというか蓋を開ければバカバカしいというか……(^^;)

    >ネミエルさん

    昔は口笛のことを嘯(うそ)といいましてのう、その声が鳴き声に似ているというので、鷽(うそ)といったそうでしてのう。
    と昔読んだ学研の学習マンガに書いてありました。

    鶯や鷽といった和鳥は見て楽しむというよりももっぱら鳴き声を愛でるのが本筋らしいですね。

    ウソという鳥がいます
    ウソではありません
    ホントです
    ホントという鳥はいませんが


    パーティーは単なる鳥の愛好会か何かですかいな。

    な・・・

    なんだとっ・・・?

    鷽って鳥がいるんだと・・・?(そこかいw

    僕的には鶯をかってみたいです。
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