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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ27位 飢えて狼 志水辰夫

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     「裂けて海峡」は何度となく読んでいるが、この「飢えて狼」は中学生のころに初読して以来、それほど読む機会がなかった。何度か読もうと思ったのだが。四半世紀ぶりに再読。第一部はそれなりに流して読んでいたが、主人公がソ連の支配下にある択捉島に潜入してから面白くてやめられなくなってしまった。仕事の昼休みを完全につぶして激読。いやあこたえられん。話の筋や細かい陰謀を八割がた忘れていたので、読んでいて楽しくて楽しくてたまらない。結末に至った時にふとく吐息をつき、満足してまた仕事に戻る。冒険小説というのはそれでいいのだと思う。それがわからない人間が無理して読むようなものでもあるまい。教養のためになんてもってのほかだ。

     北方謙三の「檻」のときは、主人公滝野の暴れぶりを楽しんでいるだけの読み方だった。それはそれでいいのだが、志水辰夫の初期長編の場合は、完全に語り手である「わたし」に感情移入して読んでしまう。「飢えて狼」の主人公である渋谷も、「裂けて海峡」の主人公である長尾も、ひねくれ者で、妙な雑学に妙なところで詳しくて、人生をできの悪いジョークみたいな目で眺めていて、まあ根本的なところで対人コミュニケーション能力が大幅に欠けているようなやつなのだ。そんな「回避性パーソナリティ障害」みたいな連中の気持ちがわたしには痛いほどわかる。彼らどうしようもない男たちが、己の肉体を(たいていは昔のようには動いてくれない肉体を)駆使し、巨大な敵に立ち向かっていくのが読んでいて無性にカッコいいのだ。

     かくして洗脳された中学生はあの志水辰夫の小説のような主人公に冒険をさせようと、必死で原稿用紙にシャープペンシルを走らせようとするのだが、世の中そう簡単ではなく、書いても書いても原稿用紙というのは埋まらないのであった。わたしのキャラクターで現在中断の憂き目に遭っているナイトメア・ハンターの桐野俊明くんや紅探偵事務所所員の竜崎巧くんもそのころに生まれたキャラクターである。あきらめが悪い人間にとって、志水辰夫のような小説を書くことは人生の目標となり、挙句の果てには志水辰夫の小説の登場人物のような人生でないと意味はない、と思ってしまったのだから重症だ。おそらく、周囲としては、これがわたしを医者に診せて病気を予防し、正常な人生を歩ませる最後のチャンスだったのだろう。

     不幸にもわたしはセーフティネットに救われることもなく、作家を目指してしこしこと原稿を書いたもののひとつもものにならず、しまいには精神を病んで、半死人のような十数年を経て今に至るわけだが、回避性の性格をしているわたしには別にいいのだ。

     だって、四半世紀すぎた今でも面白いし、「飢えて狼」。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    冒険小説の主人公どころか、気がついたら志水辰夫のデビュー時の年齢をも超えてしまって、「やり残した感」が半端ではないわたしであります(^^;)

    やっぱり20台から30台前半を半死人みたいに過ごしてはいかんのです。とほほ。

    Re: blackoutさん

    受験勉強そっちのけでミステリばかり読んで一浪の末にMARCHなわたしがいうのもなんですが、大学程度で人間が変わるかといわれたら、そんなことはまったくありません(笑)

    むしろ病気がひどくなるのではと考えたほうがいいでしょう。わたしが偏差値70以上の大学に入っていたら、たぶん今ごろは中核派か革マル派に入って流浪と逃亡の歳月の末、富士の樹海か東京湾かで安らかに眠っていると思われます(笑)

    NoTitle

    志水辰夫をはじめ優れた冒険小説には
    主人公に感情移入していったのですが
    今となってはそれらの主人公を上回る年齢になってしまって・・・。

    何かやり残したことが多くあるような気がする昨今です。

    NoTitle

    重症といえば自分も間違いなく重症でしょうねw

    時々思うときがありますよ
    受験勉強をガチでやって偏差値70以上の高校へ入って、六大学の一角に入ってたら、人生どうなってたかって

    ただ、仮に上記のような進路を行ったとしても、形こそ違え、きっと今と同じような人生になってるだろうって

    ここ数年はそう思います
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