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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ28位 白昼の死角 高木彬光

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     「刺青殺人事件」「人形はなぜ殺される」にハマって高木彬光ファンにはなってはいたが、角川文庫の解説目録を読んで、「なんだ名探偵ものじゃないのか」と読書対象から外していた作品だった。「東西ミステリーベスト100」を読んだときも、「なんでこんなものが入っているんだ」というのが正直なところだった。しかもこの小説、分厚いのである。あまり読む気はしなかったが、図書室に入っていたので、あきらめて借りて読んでみた。そうしたらこの小説が、もう、「頭がしびれるくらいに面白い」作品だったのである。高校受験の勉強なんて放り出し、徹夜してむさぼるように読んでしまった。読んだ後、「うん、法学部は自分には無理だ」と納得して、次の日の授業ではぐっすりと寝た。ひどい中学生もあったものである。

     さて、この小説であるが、もう堂々たる「悪漢小説」である。ピカレスクロマンなのである。それでありながら、作中で主人公である鶴岡七郎が企む詐欺とパクリの数々は、そのどれもがミステリ的な創意工夫に富んでおり、心理の盲点をついてきて楽しい。高木彬光の筆は、そうしたひとつひとつのトリックを小気味よく描いており、読者は被害者に同情するよりも、大金を詐取する鶴岡に拍手を送りたくなってしまう。乱歩の「二銭銅貨」における「紳士泥棒」というやつで、騙し取る金が億の単位だと、感覚がマヒして、徹底的に「絵空事」として楽しめるのである。この小説を読むには、「昭和36年の四千万円は現在の四億円以上」などと「アカギ」ふうに脳内で注釈をつけるとより面白く読めるだろう。

     作中で松本清張「眼の壁」のパクリを「児戯に類するもの」とこき下ろしているが、これはやっぱり、高木先生、松本清張に自作「邪馬台国の秘密」を批判されたのがよほど悔しかったんだろうなあ。「太陽クラブ事件」を起こした東大生をモデルにした鶴岡たちに次から次へと手形詐取をやらせたのは、松本清張が正義感から「無名の市民」を権力にぶつけた「社会派推理小説」を、同じ「社会派推理小説」の手法でもってパロディ化したかったからなのではないか、などとも考えている。

     まあそんな堅いことはおいといても、本書は痛快無比な犯罪小説である。法律が苦手でも、トリックのひとつひとつは中学生のわたしが理解し面白く思ったくらいにわかりやすいものなので、心配することはない。たぶん、「ミナミの帝王」や「ナニワ金融道」を読むよりは身につまされることもなく気楽に読めるんじゃないかな。コンピュータもなければATMもない、クレジットカードも一般的でなければニクソンショックもまだな世界で、鶴岡たちといっしょに、恐るべき経済犯罪の世界をちょっと覗いてみるのも、食後や就寝前の楽しみとしてはいいのではないだろうか。ほんと、後世に残すべき面白い社会派ミステリって、「白昼の死角」と大岡昇平「事件」の二冊くらいしかないのではないか、と……。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    この本についてだけは、未読は心の底から「勿体ない」と思います。悪漢小説としてもコン・ゲーム小説としても、実に痛快で読んでいてスカッとします。

    「ナニワ金融道」や「ミナミの帝王」のご先祖さまみたいな作品ですが、時代を超えて普遍性のある「古典」と呼ぶべき名作だと思います。

    NoTitle

    未読です。
    勿体ないことをしていた気になってきました。

    大岡昇平「事件」もまだ見つけられず未読。

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