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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ29位 逃がれの街 北方謙三

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     大学生のころに読んだ。その時の感想は「檻」よりも面白いな、であったが、さてどうなるか。再読である。

     結論としては、作品としてはたしかに「檻」のほうが面白い。しかしこの「逃がれの街」には実に卑怯な飛び道具があるのだ。主人公である水井と行動を共にする五歳児、ヒロシである。この子がまた、強烈に「守ってあげたい」キャラクターなのだ。

     ほんの些細な日常の行き違いから破滅へとひた走っていく水井はたしかに魅力的な一面がある。そんな彼が、「もしかしたら破滅から逃れられるかもしれない」とふと考えてしまうほどの、水井とヒロシのつかの間の幸福な生活。きらめくような文章でつづられたそこだけでも読む価値がある。

     もちろん、こういう時間は「つかの間」でしかない。そんなことは誰にでもわかる。それに、「つかの間」だからいいのだ。わずか数日。数日だからいいのだ。

     そこのあたりに、ロバート・B・パーカーの「初秋」との明白な断絶がある。「初秋」は、どこまでも、タフな探偵スペンサーがひ弱な少年ポールを鍛える話でしかない。そこにあるのは徹底的にインスタントかつシステマティックに進むポールの成長話である。しかし、この「逃がれの街」では、水井も、ヒロシも、目立った成長などしない。ただ、きらめくような時間を共にするだけだ。それにより水井やヒロシが成長したとしたら、それはただ「おまけ」のようなものである。

     わたしは「初秋」におけるスペンサーによるポールの教育にはどうしても「うさんくささ」を感じてしまう。スペンサーはそんなに偉い男かよ、と思えてならないのだ。それに対して水井はバカだ。愚かで不器用で破滅に向かって進んでしまうような若者である。それだけに水井の行動には「嘘」がない。見せたいものも見せたくないものも、見せるべきでないものまで幼少のヒロシに見せてしまう。それが普通の人間にできる誠実な対応というものではないのか。スペンサーは自分を完全にコントロールしているがゆえに、見せたいものと、見せるべきであるもののみをポールに見せ、後は完全にポールの目から隠し通すのだ。

     教師としてはスペンサーのほうが上だろう。ポールのほうがヒロシよりもまともな大人に育つだろう。だが、ポールの知らないものをヒロシは知っている。「逃がれの街」を読んだ読者としてのわたしは、それだけでもヒロシのほうを応援してしまうのだ。まことに泣かせる活劇小説である。読むべし。
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    ~ Comment ~

    Re: blackoutさん

    成長話はいいんですけども、「インスタントな成長話」はやっぱりうさんくさいですね。

    というかblackoutさんの小説、環境があまりにも過酷すぎw

    NoTitle

    意外かもですが、自分も成長話には胡散臭さを感じてしまう方です

    んなにうまくイクわけねぇだろ?
    当たり前のことも当たり前にできない奴ばっか、それが現実だ
    だから、この世からトラブルってもんがなくならねぇのさ

    って思ってます

    だから、どうしようもない環境で生きるどうしようもない連中ばっかりを小説で描くのかもですが(汗)
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