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    哲学者になれなかった男の語る哲学夜話

    タレス

     ←日本ミステリ18位 飢餓海峡 水上勉 →日本ミステリ18位 ゴメスの名はゴメス 結城昌治
     ミレトスの人タレス。紀元前7世紀生まれの人である。

     西洋哲学史を語ったどんな本でも、この人を「哲学の祖」としている。

     で、タレスが何を語ったか、であるが、

     「万物の根源は水である」

     というのがその主張である。

     なんなんだこれは。これのどこが「哲学」なんだ。ここに「人間はどう生きるべきか」という考えが詰まっているのか。人間は水みたいに生きろといっているのか。どうやれというんだ。

     と文句をいった人は、哲学に対してとてもピュアな人だ。

     大方の誤解に反して、哲学という学問は、「人間はどう生きるべきか」を問う学問ではない。むろん、「人間はどう生きるべきか」について考えもするが、それは副次的なものだ。

     哲学とは、「この世界ってどうなってるのか」について考える学問だ。大概の学問はそれに行きつく。ではあるが科学者には哲学者は評判が悪い。同じものを求めているのに……。

     理由はいろいろあるが、科学者のやっていることを哲学者がどう見ているのかを示すのが手っ取り早いだろう。

     科学者だったら、サンプルを取り、データを収集し、それに基づいて仮説を立て、検証し、都合が悪いことが出てきたら修正して、「この世界」についての像をはっきりとさせようと考えるだろう。だが、哲学者はそんな科学者が「大事なこと」をいくつも見落としている気がして仕方がない。サンプルを取り、データを収集するのは、最終的には人間である。ということは、サンプルもデータも、「人間」のところがおかしかったら、サンプルもデータもおかしくしか解釈できないのではないか? 仮説を立て、検証し、都合が悪いことが出てきたら修正して、というプロセスについても、「仮説を立て、検証し云々」という方法論で、「この世界」についての像に接近できるという保証がどこにあるのか?

     ……いや、哲学者もそれが「いちゃもん」だということはわかっている。だが、「いちゃもん」がつけられるということは、そのプロセスにおいて不備ないし防御できていない弱点が存在するということだ。哲学者にとっては、その弱点のひとつひとつが気になる。もしかしたら、その弱点の中に、「致命的なもの」が隠れているのではないか? 

     かくして哲学者は、「科学する」ということにおいて科学者という人間」は「科学する」というプロセスの中でどういうシステムのもとどういう機能をしているのか、とか、「科学する」ということは、いったいどういうことを意味しているのかを、議論に議論を重ねて解き明かそうとする。いずれにしても、それが「科学者」にとっては、よけいなことに変わりはない。現に科学は、科学者が「科学」と認識している方法論で問題なく進んでいるわけだから、今さらなんでどうでもいいところでそんな詮索をされねばならんのか? まあ嫌われるのも当然だ。

     失礼。ミレトスの人タレスの話だった。

     この人は、いわゆる「自然学者」であって、哲学と科学の区別がない時代に裏付けのない妄言を吐いた人物、にしか、科学の教育を受けた人間には思えないんじゃないかな。

     だが、タレスは、「万物の根源は水である」と発言することで、すさまじいことをやってのけたのだ。

     当時、世界の心理を握っていたのは、「神様」だった。人間は、自分が理解できる範囲のもの以外のものを、すべて「神様」によるものだとして、人間が考えても仕方のないものだ、とみなしていた。

     タレスはそんな考えに風穴を開けた。「万物の根源は水だ」といったとき、タレスには、「万物の根源、という、世界の仕組みは、神様でしかわからないものではなく、人間に理解可能なものであり、それを言葉で表現可能だ」という洞察があったのだ。

     この洞察は大きい。もし、宇宙の神秘が全て、考えてもわからないものだったとしたら、誰が哲学とか科学なんてやるものか。

     そして、哲学とは「この世界のことは考えたらわかる」という認識は合っているのか間違っているのかという疑問そのものを学問にしたようなものである。タレスが発言したときに、その扉は開いたのだ。西洋哲学3000年の歴史はタレスから始まることに間違いはない。

     タレスについて続けると、正直、あまりにも文献が少なすぎて、タレスがどういう意味で「万物の根源は水である」と発言したのかはわからない。いろいろと説はある。水は人間の生活に必要不可欠なものであったからだとか、海には水が無限にあるように見えたから、だとか。

     わたしは、タレスが、北の国では冬になると水が凍って氷になる、と旅人から聞いたのではないかと思う。氷は解かすと水になり、水はさらに暖めると湯気になる。タレスは、そこに土と水と空気の根源を見たのではないか。金貨の鋳造のときに金を溶かして液体にして型に流し込む、というのも見たであろう。もし、金をもっと思い切り熱すれば……と考えたときに、「万物の根源は水だ!」とひらめいたのではないか。

     そして、現代世界の理科の授業でも、教師が「固体は熱を加えると液体になり、さらに熱を加えると気体になります」と説明しているのを見たときに、「万物の根源は、やっぱり水のようなものだったんだよ、タレス先生」と、彼の勝利をたたえるのにやぶさかではないのである。
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    ~ Comment ~

    Re: miss.keyさん

    現代の自称学者ポール・ブリッツは、

    「万物の根源は『ミジメ』である」

    と唱えて学界を追われました。

    つるかめつるかめ(笑)

    万物の根源は紐である

     と言うか干物進藤である。って何処の乾物屋だって。もとい、紐の振動である。周波数の違いによって物質はうんちゃらかんちゃら。
     何も無い空間であったはずの真空はひっぐす粒子でびっしりで、空間は際限なく広がっているってことは、ヒッグス粒子は何もないところからドンドコ涌いてきてるって事で、星雲同士が離れて行っているにもかかわらず、星雲同士の衝突があって・・・もう何がなにやら。
     万物の根源はクウネルアソブではあきまへんかー> <)ノ

    Re: ihiroppiさん

    高校倫理の教科書は面白くてたまりませんでしたねえ。要点がぴしりぴしりと書いてあり、読むと頭が良くなったような気分になれました。

    しかし倫理を教えてくれた教師が、日本思想偏重にもほどがある最悪なやつで(以下ボロクソに長々と(笑))

    もしかしてあれは人文系などには進むなという教師の親心だったのかもしれぬ(笑)

    Re: 椿さん

    これはわたしはこう考える、という意味で「小説」ですから、実際にタレスがこんなことを考えていたかどうかについては、かなり間違っていると思います。

    たぶん正確さについては、ネルーの「父が子に語る世界歴史」などとは比べ物にならないほど間違っているでしょうね(^^;) あいにくと子供がいないもので、聞かされて間違える子供がいないのが唯一の救いで(笑)

    Re: blackoutさん

    タレスが本当の意味で何を考えていたのかは実はいまだに謎で、わずかな断片から推察するしかありません。

    古代のギリシア人は、自然というものは草木が実をつけるように「なる」「成長する」ものだと考えていたそうですから、「無から」という発想はなかったのではないでしょうか。

    その「無」と「有」について、考えに考え、行きつくところまでいってしまったソクラテス以前の古代ギリシア思想家のビッグネームがエレアのパルメニデスですが、この話はまた後で。

    NoTitle

    わたくし目もいまさらですがあけましておめでとうございますm(__)m

    考えすぎるたちなのでいろいろ考えてきましたが、水と人間生活は
    切り離せない気がします。

    高校倫理はちょっと自分の今までの中では珍しく、深く考えるのを
    少し嫌ってしまってた時期でありました。

    何が書きたいのかわからなくなったのでこれにて失礼いたします(汗)
    すいません(爆)

    NoTitle

    高校時代、倫理の授業で古代ギリシアに差し掛かった時にタレスの思想を一番に習いました。
    その理由が今回の記事で納得いきました。ありがとうございます。
    哲学から科学を見る目というのも面白いですね。

    NoTitle

    そういえば、今更ですが、あけましておめでとうございますw

    2018年は、1月1日早々からシステム故障でまる1日何もできないっていう体たらくから始まり、8日にも故障があり、その対応に追われるみたいな波乱いっぱいの感じでした(汗)

    そういえば、哲学でこの世の始まりを表現すると、以下のどちらになるみたいですね

    ・全ては無から始まった
    ・無からは何も生まれない

    おそらく、タレスは後者の人なんではないかと
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