東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ32位 人形はなぜ殺される 高木彬光

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     これを最初に読んだのは三十数年前である。当時、わたしは小学生のくせに「刺青殺人事件」を読んで推理小説にハマっていた。そんなある日、父親に連れられて行ったお祭りに出ていた古本の露店に、角川文庫解説目録の高木彬光の小説の中でいちばん面白そうだったこの「人形はなぜ殺される」が並んでいたのである。いや、粘った。人生で一番粘ったかもしれない。わたしは両親から二百円をこの本に割かせることに成功したのである。我ながらイヤな小学五年生である。

     で、買って家に持って帰ってから、読んだわけであるが、そのときの、脳細胞が快楽に蕩けていくような読書体験をどう伝えたらいいものか。魔術だ! 首切りだ! 人形だ! 列車だ! 黒魔術だ! 「ひひひひ」だ! 読者への挑戦だ! 意外な犯人だ! ……もうたまらんわけである。小学校で友人に「黒ミサ」だの「サバトの夜」だのといった話をしては嫌がられるという、まあこれもこれでイニシエーションではあった。

     ひさしぶりに再読。読者の想像の埒外から飛んでくるトリックもすごかったが、それよりもそこに至るまでのほとんど反則すれすれともいえるミスディレクションの連続技のほうが面白かった。高木先生、ほんとにあくどい。

     とはいえこの大技トリックも、昭和三十年という時代あってこその作品だろう。今の時代では成立しまい。「月光」も「銀河」も「はと」もなくなってしまったからなあ。特に作品中で重要な役割を果たす寝台急行「月光」と「銀河」については、鉄道に詳しくなかったので、高校の鉄研の友人に聞くまで、「架空の列車」だと信じて疑わなかったものである。

     いつだったか、この「人形はなぜ殺される」という連続殺人事件において、名探偵の神津恭介は何も推理をしとらんではないか、という意見を読んだが、作中で神津本人もいっているとおり、この事件において「消去法は役に立たない」のである。伏線は山ほどまかれているが、それらはすべて「無数の解釈が可能」な代物にすぎない。そうした意味で、本作における神津は「事件を推理」したのではなく、「手がかりを強引に読み替えて」、とある犯人を焦点とする「事件の再構成」をやっただけにすぎないともいえる。

     まあ世の本格ミステリなんてそんなものなのだろう。そのくらいの強引さがなければ面白い謎解きなんてできるわけがない。本格ミステリの謎解きは、それが唯一無二の解釈で「ない」からこそエンターテインメントとして成立しうるのだ。そこら辺を考えすぎると殊能将之の「黒い仏」になってしまうのであるが、そういうことばかり考えていたから本格ミステリは社会派に負けたのかもしれない。うむむ。
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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくさん

    >性の目覚め

    そこら辺のことを書いたらみんなドン引きしてブログから読者がいなくなってしまうのでよしておく(笑)

    >社会派推理小説

    今からでは想像もできんくらい大流行してたのよほんと。そこらへんのことを詳しく書くとまた読者がドン引きしてブログから読者がいなくなってしまうのでよしておく(笑)

    社会派推理小説は、ハードボイルドや警察小説に解体的かつ発展的に継承されて、そのスピリッツは今でも脈々と生きていると思うな。横山秀夫とか、宮部みゆきの作品とか。

    Re: miss.keyさん

    気動車つなぎ替えとか、臨時列車とかのトリックはトラベルミステリを読んでいるとけっこう遭遇することは確かである。

    それと、ここだけの話、

    誰の何という作品とは言わないが、

    「この時間では常磐線ではどうやっても茨城から福島へ行けません」

    「いや、いったん東京へ出て東北新幹線を使えば」

    というアリバイトリックの長編が実際に存在する(笑)。

    ウソや冗談ではない。(ウソや冗談だったらどれだけいいか……(^^;))

    ドラマ化もされたN村K太郎先生作品だなんてことは、口が裂けてもいえるわけがないではないか(^^;)

    NoTitle

    > 小学生のくせに「刺青殺人事件」を読んで推理小説にハマっていた
    わぁ~、不良ぉ~(笑)
    しかし、小学生の頃からそんなもん読んでたら、性の目覚めも人より早かったでしょ?(爆)

    > 小学校で友人に「黒ミサ」だの「サバトの夜」だのといった話をしては嫌がられる
    え?「エコエコアザラク」とか流行ってたじゃん(笑)

    > 昭和三十年という時代あってこそ
    でしょうねー。
    いや。読んでないんですけどね(笑)
    ただ、言わんとするそのニュアンスはよくわかります。

    > 架空の列車
    今となっては、夜行列車自体架空の列車になっちゃいましたね(笑)

    > そういうことばかり考えていたから
    ブリッツさんはちゃんと頭のいいヒトらしい(?)から「実話怪談」なんて、絶対読まないでしょうけど。
    でも、それを読んでる人(ただし一歩引いて)からすると、ミステリー小説もSFも、突き詰めちゃったお話は「実話怪談」と大して変わらない気がするんですよね。
    くわしい状況はわからないので想像ですけど、「社会派推理小説」は雑誌のニーズがあったがために、読者サービスをしなきゃならない面が強くて。
    そのため突き詰めがなく、広く受け入れられるように進化した面があったってことなんじゃないですかね。
    要はオタクによるオタクのための話にならなかったってことなのかと(笑)

    ただ、今は一億総オタクの時代ですからねー。
    くどいくらい突き詰めないと、逆にウケないというのもあるんでしょうね(笑)
    そう考えると、社会派オタクミステリーというジャンルは、かなり可能性あるような気がしますけど(爆)

    200円だったんですね

     ふむふむ、興味深い。
     200円。200円かぁ。やっぱり、にひゃくえん!!なんですね。うんうん。理解。
     私も鉄道ダイヤトリックをひとつ。いや、ふたつ。いや、三つ。

     この電車は上野から青森までどこの駅にも止まりません。
     実は、駅には止まってないんですが、白河で機動車の交換がありまして・・・

     この時間、名古屋から伊勢に向かう鉄道はありません。
     それが、この日は臨時列車が・・・

     山陰線では鳥取から福岡にはこの時間ではたどり着けません。
     いや、岡山に抜ければ新幹線で・・・

    Re: 椿さん

    だから古本市だってば(笑)

    角川文庫版ですが、当時だってもっとしましたよ(^^;)

    この本はおすすめです。2012年度版の東西ミステリーベスト100では「刺青殺人事件」を逆転していました。名実ともに、高木彬光先生の代表作ですな。

    Re: 面白半分さん

    露店の古本市です(^^;) 古本の200円ですから、今の古本の350円くらいの感覚かな。ちょっと高いな(^^;)

    これが自分が初めて買った古本ですね。

    どこかの市の図書館の蔵書印が押されてましたが、高校のサークルにあげてしまいました。角川版の表紙は不気味でよかったのに、惜しいことしたなあ。

    NoTitle

    これはずっと気になっていてまだ読んでいない本……
    その頃は二百円だったんですね。文庫の値段も高くなったなあ(>_<)

    NoTitle

    ああ、これは読んでいないと思います。

    ちょっと薄めの文庫ですかね。
    当時は200円程度だったんですね。

    高木先生の”あくどさ”確認してみたいです
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