東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ34位 追いつめる 生島治郎

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     直木賞受賞作にして、日本のハードボイルドの古典のひとつである。高校生のころに古本屋に日参して手に入れた。そのときは、あまり面白くなかったような記憶がある。さて今回はどうだろうか。およそ二十五年ぶりに再読。

     おお、記憶にあるのより読みやすくて面白い。なんといっても主人公、志田司郎の行動が痛快でしかたがない。警察組織からもはじかれたひとりの男である「私」が、政界にも顔の利く巨大な暴力組織相手に、もう、お前本当に元刑事か、と思えるほどの狂気とバイオレンスで暴れまくるのである。そしてこの刑事が、周囲に向ける辛辣な視線と思わず笑ってしまう辛辣な比喩。この比喩のひとつひとつを読むと、生島治郎、チャンドラーが好きなんだなあ、と思わざるを得ない。暴れ方がスピレーンのそれなのを考え合わせると、フィリップ・マーロウの皮を被ったマイク・ハマーか。

     そういった、ハードを通り越してユーモアさえ感じさせる辛辣な遊び心、というものが、生島治郎にあって大藪春彦にないものであろう。いうなれば、大藪春彦はマジメすぎるのだ。マジメに「俺TSUEEEEEE!」と銃器オタクのこだわりを書いていくのが大藪春彦だとしたら、そこにミステリマニアとしての「知性」と「教養」でワンクッションの「諧謔」を置いていなすのが、「ミステリマガジン」編集長だった生島治郎の、ハードボイルドなり冒険小説なりを書く上での「当然の常識」だったと思われる。そして、本作では、ミステリとしても意外な結末が待っていて心憎い。

     生島治郎にとっては、当時の日本の大衆小説界で「ハードボイルド」といわれている、粗いにもほどがある活劇小説について考えるたび歯がゆくてしかたがなかったのではないか。日本的な小説の土壌に、自らの理想とする、洗練された「大人の楽しめるエンターテインメント」としてのハードボイルドを根付かせようとする努力、それが本書には強く感じられる。伴侶である小泉喜美子もそんな生島治郎に惚れたのではないだろうか。もっとも、後に破綻してしまうのではあるが。

     しかしそんな日本のハードボイルド小説を牽引し、ミステリについて語るには絶対に外せない生島治郎の名前が、2012年版ではベスト100から消えてしまうのだから、時の流れというのは無常だ。最近の人が好むタイプの小説ではなくなっているんだろうな。

     ちなみに、直木賞受賞作でもあることから想像もつくと思うが、主人公である志田のキャラクターは好評を持って迎えられ、はぐれ刑事である志田司郎の冒険譚はシリーズ化されている。どれだけ志田が暴走するのか、怖くて実は第二作以降を読んでない……。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    なにせもう半世紀以上前の話ですしね(^^;)

    今はすっかりハードボイルドの大家になった大沢在昌が、中学生だったときに生島治郎あてに長文のファンレターを出し、「ハードボイルド」について激論をぶち、それに生島がまた長文の返事を送ったという逸話があります。

    大沢在昌は、その生島からきた返事をことあるごとに持ち出してはサカナにしていましたが、やられてばっかりじゃシャクだと思ったのか、生島治郎が徹底的な大掃除の末、大沢からのファンレターの原本を見つけ出し、なにかの小説誌で堂々公開して仇を取ったという(笑)

    いろいろとハードボイルドも業が深い世界らしいですね(笑)

    NoTitle

    小泉喜美子さんの伴侶だった
    ミステリマガジン編集長

    知りませんでしたね。
    何かのアンソロジー(恐怖小説だった)で読んだ以外は全く読んでいないのですがハードボイルドの人だったんですね。
    「知性」と「教養」でワンクッションの「諧謔」を置いていなす、というのが興味深いです
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