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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ36位 サマー・アポカリプス 笠井潔

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     これを読むに先立って、シリーズものであるからには読んでおかねばならんだろう、と矢吹駆シリーズ第一作「バイバイ・エンジェル」を再読したわけだが、内容に頭を抱えてしまった。実にポイントを押さえたテロリズム批判である。そして21世紀の今になってもその分析が妥当性を持つ、というのは、人類文明救いがたしというかなんというか、この三十年間、何やっとったんじゃ人類。こみいった感想は54位「バイバイ・エンジェル」で書くことにして、そんな感じで軽く鬱々としながら読んでみた。

     キリスト教の異端カタリ派や、歴史の闇に隠された秘宝などが複雑に絡み、異様な犯行現場と、繰り返されるヨハネ黙示録の四騎士のイメージなどの演出が抜群で、フランスを扱った伝奇ミステリとしてやたらと面白いのではあるが、読み終えた後の感想としては、観念小説としては失敗作ではないか、といわざるを得ない。何よりもこの作品が破綻しているのは、作中における笠井潔の思想の代弁者である矢吹駆より、彼と対峙する社会運動家のシモーヌ・リュミエール(モデルは社会活動家にして思想家のシモーヌ・ヴェイユ)のほうが、どう考えても「まっとう」なことを述べていて、生き方も筋が通った「まっとう」なものだからなのだ。思想批判を企てるはずのものが逆に批判の対象から批判されてぐうの音も出なくなっているようでは、これでは破綻としか呼べんではないか。

     読み終えた今思うと、「テロリズム批判」とは、そのまま「ニヒリズム批判」なのではないだろうか。現実の世界が完全に「無意味」だという認識から、「無意味なものを破壊して、同じ無意味でももうちょっとマシなものを作ろう」という発想が生まれるのだ。キーワードは、「同じ無意味でも」「もうちょっとマシ」というところである。テロリストは、無意味な世界を破壊することによって、この世がいくらかでも有意味なものになる、ということを「信じていない」。それでいながら、「破壊」によって、「助かる命」があることを「知っている」。この異常なダブルスタンダードが、テロリストを自らの生命を賭しての破壊活動に駆り立てさせるのだ。この小説の犯人も、矢吹駆も、シモーヌも、大なり小なり同じこのレベルで話しているのである。どこまでも広がるニヒリズムの荒野に、それでいて現れる「悪」としか呼べないものとどう向き合うか。何のことはない、全員がニーチェの掌の上で踊っているようなものである。

     この小説を再読して、わたしはシモーヌ・ヴェイユという思想家についてもっと知りたくなった。もし、まっとうな考え方によってニーチェのアポリアを克服する可能性があるとしたら、それはシモーヌ・ヴェイユの洞察の中にこそあるのかもしれない。その生き方を踏襲するのは絶対に無理ではあるが、非キリスト教的な思考の果てにキリスト教的な「神」に至る背理にこそ哲学の未来はあるのかもしれない。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    笠井潔、「テロルの現象学」まで読みましたからねえ(笑)

    若いからできたことですな(笑)

    でも「サマー・アポカリプス」は面白くていい作品ですよ。

    NoTitle

    うーむ
    読んでいるのかどうかも思い出せない。
    「バイバイ・エンジェル」なら読んでいる筈。

    笠井潔は敷居が高いが
    これにくらいつくポール・ブリッツさんがすごいと思う。
    (シモーヌ・ヴェイユ・・・全く知らないですけどそれが普通ですよね)


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