東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ39位 燃える波濤 森詠

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     日本冒険小説協会が「感謝感激大長編賞」を送ったことで知られる冒険小説の雄編である。全三巻二千枚、というボリュームだったが……今ではそう目新しくもなくなってしまった。この39位の時点で発表されていたのは、日本に極右勢力のクーデターが発生する過程を大迫力で描いた第三部まで。「これからどうなってしまうのか」をみんな注視していた。そして第四部「明日のパルチザン」第五部「冬の烈日」第六部「烈日の朝」と続いていくのだが、作者は第七部を書かなかった。だからこの作品は未完なのである。第六部を読んでから、待てど暮らせど、それこそ年単位で待てど暮らせど続きが出ないことにどれだけやきもきさせられたことか……そうこうするうちに27年経った。作者の森詠も亡くなってしまい、もう記憶も完全に薄れた状態で再読。図書館にはなかったし、アマゾンで買えば第六部は2500円のプレミア付きである。しかたがないので取り寄せてもらい、2カ月かけて読了。ほとんどが取寄せ期間であった。

     感想。タイムリー過ぎて怖い。つまり読んでいると、現行憲法をクーデターでもって停止させ、自衛隊を国防軍にし、外征型の軍隊に改造した上で、核兵器保有国になってアジアの盟主として大東亜共栄圏を再興させよう、という作中の右翼勢力がやっていることを、「平和裏」に進めているのが現在の政府与党なのではないかと読めてしまうのだ。作中で出てくる悪役たちのセリフが、まんまツイッターでよく見るネトウヨさんたちのそれなのが恐ろしい。そして、いざ権力と軍隊が握られた時、亡命政府と地下組織が再び政権を奪還するのは、読んでいても「不可能じゃないのか」としか思えないのがなんともいえず辛く恐ろしい。この作品で主人公たちが身を寄せる地下抵抗組織NRFは、内部にスパイはうようよいるわ、主導権と路線の争いで内部分裂して内ゲバするわ、人も武器も国際的な支持もないわで、第四部「明日のパルチザン」なんか読んでいると、全学連のような爆弾闘争しかなすすべがなく、もういいとこなしなのである。

     というわけで、この小説、石森章太郎の漫画版「幻魔大戦」みたいに、右翼勢力の完全勝利で終わるバッドエンド作品なのだ、と思っていたのだが、再読して驚いた。森詠、第七部以降を書く気まんまんだったのではないかと思える中断のしかたなのである。作者としては全十二部くらいの作品にするつもりではなかったのか。ここでは書かないが、これで中断するのはあまりにも惜しいと思われる劇的な戦況のターニングポイントが描かれるのである。もしこれが完成していたら、小松左京「日本沈没」に比すべき近未来仮想小説の記念碑的作品になっていたのではないだろうか。「日本沈没」は谷甲州という絶妙な後継者を選んで完結できたが、森詠にはそのような人物がいなかったのが残念でならない。現在メチャクチャ興奮している。どうして続きをあきらめてしまったのですか森詠先生。ひょっとして現在の政権与党が裏から……。これが絶版だなんてうそだー。
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    ~ Comment ~

    Re: miss.keyさん

    今の日本の混乱ぶりは、どう考えても、まともな政権交代システムを作れなかったことと、自民党が強くなりすぎたことに起因するとしか思えません。

    自民党が野に下っても、野に下った自民党が今の野党の議会戦術を駆使すれば簡単に議会を停止させることができる、という状況がまずあって、それをわかりながらも今の野党は今の議会戦術を続けるよりほかにできることがない、という閉塞状態。どうしようもないですな。官僚も経済界も、それをわかっているから誰も野党に肩入れしないというありさまで、そのうえで政権与党は公文書まで書き換えまくっているわけですから、正直、どうすりゃいいの、ですな。

    民主主義社会がファシズムに陥らないまま機能不全で自壊する、という、世界史でも珍しいパターンになりそうであります。とほほ。

    ファシズムは歴史的に良識者を自認する人々から生まれている事を忘れてはならない

     今の政府が良いとか悪いとか言う積りも無いけど、本来がんばって欲しい野党の方々の輪を掛けたどーしょーも無さに、うんざりしている私です。生まれてこの方支持した事の無い与党のほうがまだましに見えるってのは悲劇としか言い様が無いのであります。
     似非フェミニズム、言葉狩り、度を超したGLBT、環境保護の名の下の銭ゲバ及び結果としての環境破壊、人道主義の仮面を被った利己団体、さて、私が生きている間に奴等の思想の支配する狂気の世界が来ない事を祈るばかりです。

    Re: blackoutさん

    全体主義に振れたがるのは、人間社会の宿痾かもしれませんなあ。エーリッヒ・フロムが面白い分析してるけど、あれはどうなんだろう。

    しかし森詠先生、最終決戦を書かないまま墓場にもってっちゃったのはずるいとしかいいようがない。リアリティがないと判断したなら別だけど……。

    NoTitle

    いますよねw

    あんた預言者か?

    っていう展開を書く人って

    内ゲバは、国に限らず会社でもフツーにありますね
    特に無駄に人数の多い会社だと、内ゲバだらけです(汗)

    自分の普段の勤務先も御多分に漏れず、です

    そして、知り合いに話聞いてみると、今は無駄に人数の多い会社は、どこもかしこもファシズム化している印象を受けます

    言論・行動・情報統制がガチガチで、無個性化が顕著な気がします

    まるで真っ白に漂白されてるような感じですね
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