ゲーマー!(長編小説・連載中)
1984年(14)
冬休みに入ってすぐのこと。修也は、何とはなしに新聞の広告欄を読んでいた。
『主人公は君だ!』
そこでは、ジャガーと戦う男の姿が。「ジャガーが襲ってきた! 君は? 聖火を使う→ 聖水を使う→」
修也は食らい付くようにしてその広告を読んだ。西東社「大統領を捜せ!」「ウォー・ゲーム」同時発売。
つまり、これは、なんだ……。
修也は沸騰しそうな頭で考えた。
本がまるまる一冊、ペーパーアドベンチャーになっているんだ!
興奮するなというほうが無理であった。即座に、修也はクリスマスのプレゼントにこの本をねだった。
そしてクリスマス当日。両親は、修也が考える以上のプレゼントをしてくれた。
中学受験を控えたところに本二冊だけではどうかと思ったのか、この二冊にくわえ、社会思想社の「火吹き山の魔法使い」までプレゼントしてくれたのである。
それは日本におけるゲームブックブームの始まりを告げる三冊であった。
「大統領を捜せ!」は、アメリカ大統領誘拐事件を、世界をまたいで走り回るスーパースパイが解決するパラグラフ小説であった。各ページには、さいとう・たかをの漫画からとってきたような劇画チックなイラストがあり、それがスピーディーさといい意味でのB級さを感じさせていた。修也は夢中になってページを繰った。
「ウォー・ゲーム」は、旧日本軍のドクトリンによる島嶼攻略作戦を扱った、本で行うシミュレーションゲームのようなものだった。ストーリー性こそないが、制海権を握り、制空権を握り、機雷を掃海して……とひとつひとつ段階を追って、敵の司令部を撃破するまでを、わかりやすく描いたもので、旧日本軍の兵器や航空機などについてのイラストやうんちくがたっぷりと書かれた、ミリタリーファンにはたまらないものである。
そして、「火吹き山の魔法使い」である。西東社の本がどちらかといえば「子供向け」なのに対し、この「火吹き山」は、大人が大人のために書いた、筋金入りの「大人のゲーム」だった。
サイコロを振って自分の分身となる戦士の各パラメータを出し、襲ってくる怪物との戦い方を覚え、金貨20枚と食料、それに剣とザックを手に、魔法使いの洞窟に乗り込む。そこでは何が待っているかわからないのだ。
修也は「冒険記録紙」を広げ、サイコロと鉛筆と消しゴムを手に挑戦してみた。
怪物と戦い、宝物を手に入れていった前半は順調だった。だがしかし、この本の後半にさしかかり、修也は軽い気持ちで挑戦したものが誰でもかかるあの罠に陥った。
迷路で迷ったのである。
この「火吹き山の魔法使い」では、前半と後半でゲームの肌合いが完全に違うのだ。前半部分はだらだらと読んでいても自動的に話は進んでいくが、後半になると迷路の双方向移動が可能になり、しかも隠し通路や記憶を失うトラップなどが二重三重に設けられていて、地図を書かないと完全に迷路の同じところをぐるぐる歩き回らせられるシステムになっているのだ。
まだ小学生の無精ものに、「地図を描け」といっても無理な話である。修也は記憶とカンだけでこの迷路を乗り切ろうとして、延々と何時間もパラグラフをいったりきたりするのであった。
ようやくダンジョンの主、魔法使いと対面したのはひと眠りした後、翌朝のことであった。詭計でもって魔法使いに勝利した修也は、どきどきしながら宝箱に向かった。
そして……。
鍵が合わない!
この本で誰もが通る道であった。
『主人公は君だ!』
そこでは、ジャガーと戦う男の姿が。「ジャガーが襲ってきた! 君は? 聖火を使う→ 聖水を使う→」
修也は食らい付くようにしてその広告を読んだ。西東社「大統領を捜せ!」「ウォー・ゲーム」同時発売。
つまり、これは、なんだ……。
修也は沸騰しそうな頭で考えた。
本がまるまる一冊、ペーパーアドベンチャーになっているんだ!
興奮するなというほうが無理であった。即座に、修也はクリスマスのプレゼントにこの本をねだった。
そしてクリスマス当日。両親は、修也が考える以上のプレゼントをしてくれた。
中学受験を控えたところに本二冊だけではどうかと思ったのか、この二冊にくわえ、社会思想社の「火吹き山の魔法使い」までプレゼントしてくれたのである。
それは日本におけるゲームブックブームの始まりを告げる三冊であった。
「大統領を捜せ!」は、アメリカ大統領誘拐事件を、世界をまたいで走り回るスーパースパイが解決するパラグラフ小説であった。各ページには、さいとう・たかをの漫画からとってきたような劇画チックなイラストがあり、それがスピーディーさといい意味でのB級さを感じさせていた。修也は夢中になってページを繰った。
「ウォー・ゲーム」は、旧日本軍のドクトリンによる島嶼攻略作戦を扱った、本で行うシミュレーションゲームのようなものだった。ストーリー性こそないが、制海権を握り、制空権を握り、機雷を掃海して……とひとつひとつ段階を追って、敵の司令部を撃破するまでを、わかりやすく描いたもので、旧日本軍の兵器や航空機などについてのイラストやうんちくがたっぷりと書かれた、ミリタリーファンにはたまらないものである。
そして、「火吹き山の魔法使い」である。西東社の本がどちらかといえば「子供向け」なのに対し、この「火吹き山」は、大人が大人のために書いた、筋金入りの「大人のゲーム」だった。
サイコロを振って自分の分身となる戦士の各パラメータを出し、襲ってくる怪物との戦い方を覚え、金貨20枚と食料、それに剣とザックを手に、魔法使いの洞窟に乗り込む。そこでは何が待っているかわからないのだ。
修也は「冒険記録紙」を広げ、サイコロと鉛筆と消しゴムを手に挑戦してみた。
怪物と戦い、宝物を手に入れていった前半は順調だった。だがしかし、この本の後半にさしかかり、修也は軽い気持ちで挑戦したものが誰でもかかるあの罠に陥った。
迷路で迷ったのである。
この「火吹き山の魔法使い」では、前半と後半でゲームの肌合いが完全に違うのだ。前半部分はだらだらと読んでいても自動的に話は進んでいくが、後半になると迷路の双方向移動が可能になり、しかも隠し通路や記憶を失うトラップなどが二重三重に設けられていて、地図を書かないと完全に迷路の同じところをぐるぐる歩き回らせられるシステムになっているのだ。
まだ小学生の無精ものに、「地図を描け」といっても無理な話である。修也は記憶とカンだけでこの迷路を乗り切ろうとして、延々と何時間もパラグラフをいったりきたりするのであった。
ようやくダンジョンの主、魔法使いと対面したのはひと眠りした後、翌朝のことであった。詭計でもって魔法使いに勝利した修也は、どきどきしながら宝箱に向かった。
そして……。
鍵が合わない!
この本で誰もが通る道であった。
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待ってました(*^▽^*)
ついにゲームブックとの出会いが!
そうそう、あのシリーズ『迷路で延々と迷う』、『前半で特定アイテムを手に入れていないとクリアできない』に悩まされるんですよね( ;∀;)
三冊買ってくれた親御さん素晴らしい。
続きもまた楽しみにしております。
ついにゲームブックとの出会いが!
そうそう、あのシリーズ『迷路で延々と迷う』、『前半で特定アイテムを手に入れていないとクリアできない』に悩まされるんですよね( ;∀;)
三冊買ってくれた親御さん素晴らしい。
続きもまた楽しみにしております。
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Re: 椿さん
とはいっても、西東社のこの2冊と、社会思想社の「火吹き山の魔法使い」が日本のゲーム史に刻んだ役割はどれだけ控えめに評価しても「甚大」としかいいようがないですな。
特に西東社の作品には、いい意味でのチープさがあって、小学生以下にそうとう浸透したみたいです。粗製乱造の気もありましたけど(笑)