ゲーマー!(長編小説・連載中)

    1984年(15)

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     いくらクリスマスだからとはいえ、テストは翌月に控えていた。当然のごとく、本は預けなければならなかった。

     修也はあの本の面白さをぼんやりと考えていた。あんな興奮はしたことがなかった。

     修也は部屋にこもると、ノートのページを一枚破いた。

     自分でもあんなペーパーアドベンチャーを作ってみたい!

     修也は一心に、破いたノートの紙に、細かい字で行番号を打ち、選択肢を書いて行った。内容はもちろん、先ほど読んだあのファンタジーの世界である。勉強もせずに黙々と作業を続けた修也は、その日のうちに、最終的に100を少し超えるぐらいのパラグラフのあるペーパーアドベンチャーを書き上げた。

     ちょっとした満足感。

     修也は自分で作ったそのペーパーアドベンチャーをためしにやってみた。つながりにおかしなところは特に見つからなかった。

     さらなる満足感。

     それで……。

     後は、このゲームをやらせる人間を探すだけである。

     翌日、修也はNの家に遊びに行った。

     Nの前で、修也は自分が作ったペーパーアドベンチャーを取り出した。

    「なんだよそれ」

    「とりあえず読んでみてよ」

     Nは疑い深そうに修也からその苦心の作を受け取ったが、やがて修也に返してきた。

    「字が小さい上にかすんでいて、よく読めないよ」

     修也は自分の字の小ささと汚さと、鉛筆で書いたことによる手での黒鉛のこすれにまでは気が回らなかった。

    「じゃあぼくが読むから」

     修也はペーパーアドベンチャーの最初の項目を読んだ。

    「1。分かれ道。右へ行く? 左へ行く?」

    「左」

    「石が落ちている。拾う? 拾わない?」

    「拾わない」

    「先に進む? 戻る?」

    「先に進む」

    「あっ! 大蛇が現れた! 逃げる? 戦う?」

     などとやっていたが、Nは疲れたようだった。

    「やめようよ、これ」

    「なんでさ」

    「だって、逃げても戦っても、大蛇に食べられてゲームオーバーになっちゃうじゃないか。つまらないよ、これ」

    「ふっふっふっ」

     修也は勝ち誇った笑みを浮かべた。

    「ヒントをあげよう。たしかに、素手では大蛇にかなわないけれど、石を拾ってぶつければいいのさ」

    「あっ……!」

     その時のNの反応に、修也は背筋にぞくぞくするものを感じた。

     結局のところ、このペーパーアドベンチャーは、Nに対しても、他のクラスメートに対しても、大成功だった。

     修也は、自分の作りだした作品が「受ける」という快感に酔いしれた。それまでの、マンガの話や、テレビの話などをするのとは違う、この脳髄にしみわたるような名状しがたい快感。

     芸術の神というものは気まぐれにその姿を現す。わずかこれだけのことで、修也の一生の方向性は定まってしまった。このゲームという芸術以外に、人間の価値は存在しない、少なくとも自分にとっての価値は存在しない、と、そこまで思い詰めてしまったのだ。

     すべての神々のうちで、芸術の神ほど残酷なものはいない。修也がそれに気づくまでの間に、事態は取り返しようがなくなるのであるが、それはまた後の話である。
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    ~ Comment ~

    Re: 風月時雨さん

    その不安はまさに的中します(笑)

    芸術に見込まれてしまった人間はたいへんで(笑)


    今週のプリキュア、チャラリートさんの「机がなくなっていた」のは笑ったけど怖かったですな(^^;) あれで幼稚園児が会社組織やサラリーマンというものを恐怖しなければいいのですけど(^^;)

    NoTitle

    こんばんは。ペーパーアドベンチャーについてはこちらの
    お話で初めて知りました。書き上げた修也君、すごいです!
    やはり自分の作りだした作品が「受ける」のは脳髄に
    しみわたるような名伏しがたい快感がありますよね…!
    それで一生の方向性も決まってしまうとは…!でも時に
    芸術の神は残酷…最後は修也君の未来がなんだか
    不安になってしまいましたね。

    先日はコメントありがとうございました!
    プリキュアの敵組織はいろんな意味で怖いですよね(苦笑)
    チャラリートは命ごと処分…だと絶望的ですが、降格人事だと
    自分の中では生きててくれてよかった…!と思います。
    だったらルールーが昇格するのかも…?と思っちゃいましたね。
    または浄化→「ヤメサセテモライマース」でクライアス社
    退職…はそれはそれで平和裏に解決!でしょうね!ではお返事
    お気になさらずのコメント読んでくださりありがとでした!

    Re: 椿さん

    この小説はかなり事実を歪曲してあります。

    わたしが芸術の神に取っ捕まったのは、小学4年生の4月に、進研ゼミに初めて書いた読者投稿のデタラメギャグ文章が、5か月を経て9月号の読者コーナーに掲載された時です。10月号にも採用され、そのときの脳味噌のとろけるような雲の上を行く心地よさといったら、人生でも比較できるものがありません。

    ……闇はもっと深いのであった(笑)。小さな子持ちの皆様には、お子さんに進研ゼミなんかさせるとこうなる可能性があるから、クソ真面目なZ会をおすすめいたします(笑)。

    NoTitle

    あっ……捕まってしまいましたね芸術の神に(笑)
    そこが入り口だったのか。
    芸術の神の陥穽はあらゆる場所にある……(^-^;
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