ゲーマー!(長編小説・連載中)

    1985年(1)

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    1985年



     1985年の元日は、修也にとってはピンを抜かれた手榴弾のように放り込まれた一枚の新聞の折り込み広告から始まった。

     『カシオ PV-7 先着30名様限り 9,800円』

     量販店の広告だった。9800円! 修也の心は踊った。一万円札が一枚あればパソコンのユーザーになれるのだ。

     まんじりともせずにその夜を過ごした修也は、翌朝の初売りに連れて行ってもらった。

     そこで修也が見たものは、量販店の前の無数の人垣と長い行列だった。修也の目から見ても、その数は100人ではききそうになかった。

     修也の父親には理性があった。

    「帰るか」

     そのほうがよさそうだった。

     PV-7はそれほどまでの、その年のヒット商品だった。家電を売るための「客寄せ」としてはこれ以上のものはそうなかった。

     修也にとってはいい人生勉強だった。

     一月の半ばに中学の入試があった。修也は試験に臨み、自分なりに最善を尽くした。

     試験から帰ってきたその夜、修也はこれまで買っていたベーマガを返してもらい、雑誌掲載プログラムを入力しては遊びに遊んだ。

     翌週の日曜、修也は町の本屋でパソコン雑誌の棚にいた。「マイコンBASICマガジン」「LOGIN」「テクノポリス」「PiO」「ポプコム」といったゲームとエンターテインメントの媒体ととしてのパソコン雑誌や、「マイコン」「アスキー」「I/O」といったかなりマニア向けの雑誌、一部のパソコンに特化した「MSXマガジン」「Oh!PC」「Oh!MZ」「Oh!FM」といった雑誌などが所狭しと並んでいた。

     修也がここに来たのは、もちろん、「マイコンBASICマガジン」を買うためであった。

     12月号のベーマガに載っていた「PB-PATROL」は面白いゲームだったなあ……などと修也は考えていた。ゲームセンターの「ムーンパトロール」を題材にしたそのゲームは、全24ステージというポケコンとは思えないほどの「ステージ数」を持った「スクロールゲーム」だった。ギミックも凝っていて、惑星を進むパトロール車はジャンプで穴を飛び越え、速射砲で岩を砕き、ところどころに存在するスペシャルフラグを取りながら、果て無き大地を右へ右へとひた走っていくのである。修也は毎日のように、夜遅くまでそのゲームに夢中で取り組み、とうとう前日に24ステージすべてを走り切ったところだった。

     ふと、修也の目が一冊の薄い雑誌に止まった。ベーマガと比べて明らかに貧弱な作りだった。なんとなく、という気持ちで修也はその雑誌を開いた。

     薄かったのは自社広告以外に広告がほとんどないせいだった。値段を見ると330円である。修也は割高な感じを覚えた。その雑誌にも、ベーマガと同様、無数の読者投稿のゲームプログラムが収録されていた。修也はPB-100のゲームを調べた。3本のプログラムが収録されていた。

     「THE FIGHTER」というそのゲームの紹介記事を読んだところで、修也は目を見張った。修也は雑誌をつかむと、ベーマガと重ねてレジへ持って行った。

    「こ、これください」

     修也は紙袋を抱えてバスに乗った。

     家まで待ちきれなかった。バスの座席で、修也は紙袋を開き、中の雑誌をもう一度確認した。「プログラムポシェット」というその雑誌には、確かにそのゲームが載っていた。

    「THE FIGHTER」

     それはまさしく、PB-100用のRPGだったのである。

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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    そうそう。予約というのは、たいてい、

    「金持ちのガキがカネに飽かせて」

    やることでしたからねえコロコロとかでは(笑)

    ネットがない時代だったので、予約は書類手続きがこれまた時間がかかったりして、何のためにやってるんだかわからない時代でしたなあ(笑)

    いまだに店頭現物主義が抜けないですね(笑)

    NoTitle

    昔は並んで手に入れるのが当たり前でしたからね。
    今から考えたら、非生産的なことですけどね。
    いまの情勢から考えると、限られた数を予約制で購入するのが当たり前になってますけど。
    昔を思い出しますねえ。。。

    Re: ECMさん

    機械語については、ベーマガもけっこうクローズアップしていた記憶があります。教育的記事が多かったですね。

    プログラムポシェットのほうが「攻めてる」ゲームが多かったのと、1画面プログラムなど入力数が少なくて済むプログラムが多かったので、入力して遊んだゲームはポシェットのほうが断然多いですけど、教育的記事は皆無でしたなあの雑誌(笑)

    後期の1画面プログラムなんて、「解析しよう」という気にすらならなかったです(笑)

    NoTitle

     プログラムポシェットはベーマガと違い、機械語のプログラムも載っていましたね。
     まあBASICしか使えないPB-100では関係ないですけど。

    Re: 椿さん

    >どこまで行くのか

    え? この調子で延々いきますが。

    タイトルにもあるでしょ「ゲーマー!」って。

    修也くんが自分がゲーマーだと認識するまでにはまだけっこうあって、そこからが本編であります。今はまだ序章(笑)

    NoTitle

    修也くん受験おつかれさまでした。やっと遊べますね。
    RPGのプログラムゲット。打ち込み大変そうですね……
    それにしてもどこまで行くのか修也くんのゲーマー人生。
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