東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ41位 影の告発 土屋隆夫

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     この小説の存在を知ったのはあの恐怖の書「推理小説を科学する」であった。そこでもトリックがボロクソにたたかれていたような気がする。そのせいあって、長いこと読むのを敬遠していた。どうせアリバイ崩しだろ、という思いもあったことであるし。

     最初に読んだのは大学に入ってからである。古本屋をいくら探しても見つからなかったので、大学の図書館で角川文庫版を借りた。強烈に面白かった。個人的には、土屋隆夫の最高傑作は、「危険な童話」ではなく、「影の告発」だと思っている。

     それから何度か、思い出したように読んでは面白さを再確認してきた。今回も読んだ。強烈に面白かった。トリックや展開をすべて知っていても面白いというのは、作者の土屋隆夫のストーリーテリングが優れている証拠であろう。

     本格ミステリのストーリーテリングの基本は、「次から次へと現れてくる新事実」のコントロールである。多すぎても混乱するし、少な過ぎたら退屈だ。この「影の告発」では、そのチラ見せのさせかたが絶妙にうまい。そして、最終章を読み終えると、そのすべてに意味があり、すべてがいささかの余りもなく「割り切れる」ことに本格ミステリ読みは感嘆するのである。

     連城三紀彦のそれとは違った意味で、「推理小説と芸術の融合」がここでは現れている。「新青年」に土屋隆夫と連城三紀彦がいたら、木々高太郎も「探偵小説芸術論」なんてことは唱えなかったはずだ、と誰かがいっていたがまさに至言であろう。「戻り川心中」と「影の告発」はそれだけの力を持っている傑作なのである。

     だが、わたしの知るかぎりにおいて、土屋隆夫はこの「影の告発」「赤の組曲」「針の誘い」を頂点として、壮絶なる「下り坂」に入るのである。恐ろしいほどの急降下だといわざるを得ない。あの「盲目の烏」を読んだときの「コレジャナイ」感を、「不安な産声」を読んだときの「コレジャナイ」感をうまく伝えるのは難しいのだ。

     それは、「昭和の本格派」の敗北ではなかったのだろうか。笠井潔や島田荘司の出現から、怒涛の如く発生した「新本格」作家のラッシュで、一番ワリを食ったのは、「社会派」ではなく、昭和の「本格ミステリ冬の時代」を縁の下の力持ち的に支えてきた、土屋隆夫であり笹沢左保であり多岐川恭であり梶龍雄ではなかったかと思うのである。夏樹静子に至っては、「このミステリーがすごい!」で「リーグが違う」発言まで受けてしまうし。ヒネたファンとはいえ温故知新の精神だけは忘れずにいたいものである。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    あまり好みではないですが、内田康夫はじめ、あまりトリックやロジックや動機方面に重点を置かないノベルズ系統のかたがたは、このチラ見せの技術だけでミステリを書いているというか……。

    いつ読むのをやめてもいいんだけど、読むのをやめる前にどうしても続きを2ページかそこらくらい読みたくなるという気分にさせたら勝ち、という世界ですからねえ、エンタメは……。

    そこが意外と難しいので頭をひねってます。うむむ。

    NoTitle

    なるほど
    チラ見せのうまさですか

    恥ずかしながら意識したことなかったのですが
    面白いこの手の本格の面白さはここのコントロール加減だったんですね。
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