東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ42位 悪魔の手毬唄 横溝正史

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     浪人生のころに古本屋で入手して読んでから、おおよそ二十年ぶりに再読。個人的にはつのだじろうによるコミック版の印象が強い。金田一耕助がチビでヒゲでメガネで洋装、という原作のどこをどう読んでそうなったのかさっぱりわからんデザインでありながら、読んでみるとどこを切っても横溝正史だ、というすごいコミカライズだった。コミックのせいで犯人だけは覚えていたので、面白く読めるだろうかと不安だったが、杞憂であった。ものすごく面白かったのである。

     横溝正史という作家は、非常に不幸な人なのかもしれない。それとも金田一耕助が不幸なのか。これだけ端正でかっちりとしてロジックが堅牢で遊び心にあふれた童謡殺人ものミステリを書いたにもかかわらず、そのミステリが「ホラー」の棚に並ぶのだから。「八つ墓村」や「犬神家の一族」ならともかく、「獄門島」とこの「悪魔の手毬歌」をホラー棚に並べられたらさすがに気の毒というものである。

     また、探偵が乗り出してから事件の結末までに死ぬ人間の割合から「最悪防御率」だの「やっていることは突如事件の現場を離れて『因縁話』を仕入れてくることだけ」などと我々ミステリファンによく揶揄されている金田一耕助だが、きちんと名探偵がやるべきことは全部やっている、ということに気づかされたのも意外であった。特に本書の事件では、名探偵が捜査に取り掛かってから犯人がわかるまでわずか一週間。一週間で犯人を指摘できるための物的証拠を手に入れなければならないのだから、これは金田一耕助がトロかった、というよりも、犯人が殺人を犯すスピードのほうがあまりに早すぎた、というべきであろう。なにしろ毎日殺人が起きるのだ。いちおう金田一耕助は私立探偵であり、一介の民間人である。民間人が証拠もないのに自分の思いつきを警察にしゃべり、それで無実の人間が誤認逮捕されて拘束されたら、その拘束された人は精神面および社会生活面で取り返しのつかないほどの傷を負ってしまうことになる。誤認逮捕と自白の強要が日本社会においてどれだけの冤罪事件を生んできたかは想像に余りある。金田一耕助としても、自分が留守にしている「翌日」に犯人がさらなる凶行をする、とは思わなかったというのもあるだろう。いずれにせよとにかく早く行動しなければならないため、金田一耕助を責めるのは酷だ。

     しかしこう「獄門島」「本陣」「手毬唄」と読んでくると、横溝正史という作家の作品は「アガサ・クリスティーとディクソン・カーあってのもの」であることがよくわかる。純日本風の装いはまとっているものの、中身にあるのはあの海外の本格ミステリ黄金時代の傑作群を原書を貸し借りして読んでいた人間のいろいろな思いなのだろう。それは単純なあこがれだけで割り切れるとも思えない。そうした視点から横溝ミステリを再読すると……ハマりそうだなあ。かくしてその筋の夜は更けいく。
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    ~ Comment ~

    Re: miss.keyさん

    スケキヨの死にざまは、あれはもとは飯に箸を立てた葬式のあれをモデルにしていますので……。

    嘘です(笑)

    Re: 椿さん

    謎解きミステリとしての完成度では「本陣」や「獄門島」より上でしょうね。これと並ぶのは「蝶々」でしょうなあ。

    映画が怖いのはいつものことで(笑)

    Re: 面白半分さん

    わかります。(^^)

    明朗快活なジュブナイルの「怪盗X・Y・Z」まで怖い表紙だったもんなあ(笑)

    スケキヨ丼などと言う言葉がある

     スケキヨ丼が何かは此処では割愛するとして、実物を見れば納得のネーミングであるのは犬神家がどれだけ浸透しているのかを良く示す一例でありましょう。悪魔の手鞠唄もストーリーは知らなくてもその題名を聞いたことが無い人は居ないと断言出来るのではありますまいか。日本人の中にどーんと鎮座する横溝正史、恐るべし。

    NoTitle

    これは横溝さんを読みまくっていた頃(でも全冊は読破できていない)に読みましたね、すごく面白かったです。
    映画の宣伝などでイメージしていたよりおどろおどろしくなくて、正に「端正」というイメージでした。

    NoTitle

    横溝正史といえばあの杉本一文さんのイラストが印象的で
    あの絵からは『本格』はイメージできなかったですね。

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