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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ45位 紳士同盟 小林信彦

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     大学時代に図書館で読んだ。そのときは確かに面白いとは思ったが、平凡な作品だと思ったのも事実。さて、20年ぶりに再読だ。

     再読の感想であるが、さすが全盛期の小林信彦の作品である。いかにも小林信彦らしいと思わせるギャグを次々とぶつけてきてニヤニヤしてしまう。そこで槍玉に挙がっているのは、「田舎者」と「通人」である。そいつらから「江戸の庶民」が悪知恵でもって大金をせしめる。そう、このコン・ゲーム、すなわち信用詐欺を扱った「紳士同盟」という小説は「落語」なのだ。

     落語だと思って見ると、何度も何度もだまされて、こいつ歩くATMじゃないのか、というような目に遭う地方の金持ち、宮田杉作を、いささかの心配もせずに大いに笑うことができる。警察の捜査が鈍くても、当たり前なのだ。落語なのだから。

     信用詐欺がいろいろと出てくることでは、「ナニワ金融道」とか「ミナミの帝王」とかもそうであるが、この「紳士同盟」とは一線を画している。「ナニワ金融道」や「ミナミの帝王」における灰原や萬田銀次郎はあくまでも「がめつい大阪の金貸し」であり、コン・ゲームはその金貸しをも巻き込んだ「色と欲の渦巻く生命力あふれた大阪」と読者である一般人をリンクさせるために用いられているのだが、「紳士同盟」にはそのような「生命力」は希薄だ。その代わりにあるのは、ソフィスティケートとユーモアであり、ちらちら見え隠れする「過去の東京」の幽霊たちである。活性炭に通したかのように「生命力」と「泥臭さ」と「ヤボ」を完全に脱臭した世界において、「昔はよかった」を、ナマで「昔」を知っている人間たちが楽しむ、そういう小説なのである。

     そんな小説を、現代に読むとどうなるか。この小説の舞台となる1979年代の東京のテレビ局界隈、というそれ自体が、今やノスタルジー的なものになっているため、1979年がどんなものだったかを知っている人間には、二重の意味で「昔はよかった」を味わうことができるのだ。そこでは黒澤明も谷啓もまだ存命であり、「算命占星学入門」を片手に「天中殺」がどうとかいう会話ができ、金を払っても消費税が取られない世界であるのだ。石油ショックでちょっと虚無的にはなっているものの、時代はバブルの前夜で、世の中は面白いことであふれている。

     むろん、作中登場人物がいっているとおり、そんな幽霊たちのノスタルジーなど嗤うべきものにすぎない。現実は常に厳しいのだ。けれども、いいじゃないか、バブル前夜の日本で、いささかのノスタルジーに浸ったって……。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    この間、ノンケの人に「何か面白い推理小説ありませんか」といわれたので、この「紳士同盟」を貸したら、翌週ほとんど読まずに返ってきて、「『なんとか殺人事件』とかはないんですか」といわれました。

    この野郎『黒死館殺人事件』を貸してやろうか、と本気で一瞬考えました(笑)


    コン・ゲームものとしては知略を尽くしたネタを惜しげもなく使っていて、いいミステリですよ。ギャグも入れたら、ジェフリー・アーチャーの「百万ドルを取り返せ!」よりも面白いですな(^^)

    NoTitle

    小林信彦ですか
    ありましたねえ。

    今はミステリの文脈で語られていないので
    すっかり忘れていました

    読んでいますが内容は全く覚えていません。
    読んでみたくなりました

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