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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ50位 枯草の根 陳舜臣

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     浪人中に古本屋で買って読んだ。当時の感想としては、「地味な作品だし、まあこんなものか」だった。それから25年ぶりに再読。

     面白かった。最初はストーリーがあまりにもスローモーに進むので正直かったるいのだが、中盤からそのかったるさが「いい味」になっていることに気がつく。その「いい味」をわかるには、やはり浪人生では無理なのだ。陶展文は、「名探偵」というよりも「賢人」である。新本格の名探偵たちの軽佻浮薄さに対する、どっしりとした巌のような重厚な感触が、この探偵にはある。それは社会派によく見られるような「頑固一徹の刑事」ともまた違うのだ。陶展文の周りだけ、時間の流れ方が違うのではないか、そんな感触を覚える。

     ロジックの進め方はアガサ・クリスティーを参考にしたんだろうな、と思える、心理的なロジックを重んじるものだし、謎自体も、けっこうな大ネタを振ってはいるが、当時の水準で評価しても「使い古された」感は否めない。だが、この小説に限ってはそれでいいのだ。もし、この小説のトリックやロジックが、あのこのまえ物故した作家の「シーラカンス殺人事件」レベルのものであったとしても、この小説については「かまわない」といってしまっていいと思う。陶展文の落ち着きと、抑え目なユーモア感覚は、作者の乾いた文体により、使いこまれた木彫家具のような「安心」と「安定感」を読むものに与えてくれる。これがこの作者である陳舜臣のデビュー作というのだから恐ろしいものである。三十七歳の作品とは思えない。

     本籍が台湾である在日中国人として、中国人コミュニティの中で生活していたせいか、たしかにこの小説には「大人(たいじん)」とはこういうものなのだろうな、と思わせられる風格がある。それでいながら文章は非常に読みやすい。人間の描写も見事だ。

     これはもう、ミステリとしてどうこう、というよりも、純粋に「小説がうまい」のであろう。タイトル「枯草の根」の意味が明かされる終章では、一度読んでその内容がわかっているはずなのに、また泣かされてしまった。陳舜臣、ズルい。

     1985年版の「50位」というランクはあまりにも評価しすぎだと思うが、噛めば噛むほど味の出る一作として記憶しておきたい作品。たしかにこの文体だったら、歴史小説のほうに流れて行ってもしかたがあるまい。今度、「阿片戦争」読んでみようかな。あまりにも分厚いのでちょっと敬遠していたが、この文体の本領は、やはりミステリ作家というよりも、歴史作家としてのそれだろうからなあ。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    最初にこの作家を読んだのが短編「引きずった縄」ですから、理知的でスマートなミステリを書く人、と思ってしまったんですよね。

    実際は、いろいろと複雑な様相をもつ多面的な作家みたいで、それだから「阿片戦争」みたいな長編の群像劇が書けるんでしょうねえ。

    NoTitle

    本作は読んでいないですが
    日本推理作家協会賞受賞作の2長編をよんでいます。
    たぶん雰囲気は同じようなものなのではないかと想像します。

    あとアンソロジーで短編を(題は覚えていません)よんでいますが
    現代ものでトリッキーな作品でした。



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