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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ51位 夜のオデッセイア 船戸与一

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     船戸与一の冒険小説では、人が死ぬことはよく知られた事実である。敵が死ぬだけではない。味方がばたばた死ぬ。それも「いい奴」から死んでいくのである。デビュー作「非合法員」で、普通の本なら重要登場人物のひとりとして小説を引っぱっていくようないいキャラクターが、第一章で死んでしまうことに内藤陳が驚きのレビューを「読まずに死ねるか!」に書いていたが、敵も味方もばたばた死んで、生き残るのは登場人物中でもっともどうでもいいやつ、というのが船戸与一の味なのである。

     また、船戸与一の冒険小説では、まず「善人」は登場しない。「善人」がいたら、それは善人の皮を被った悪の権化……というわけでもない。単に流れ弾に当たって死ぬだけのキャラクターである。船戸与一の冒険小説で長生きしたかったら、とにかく「小ずるく」生きなくてはならない。隙あらば小銭を狙って相手の喉首を掻き切るくらいの心構えで日々の生活を送ることが肝心である。敵も味方も小ずるいやつばかりの中、生き残りを賭けたみみっちい勝負が繰り広げられる、というのが船戸与一の味なのである。

     さらに、船戸与一の冒険小説では、「政治」が濃厚に絡んでくる。小説を動かしているのは「政治」であり、その直接的な表れである国際謀略である。国際謀略は、うたかたに浮かぶ「個人」を簡単に飲み込んで粉砕する。その波の上に載って華麗にサーフィンする人間を、船戸与一は描かない。船戸与一の冒険小説で長生きしたかったら、まずは波の下に潜ることを考えなくてはならない。荒波の下の、もっとも水流の衝撃が強いところでもまれているうちに、気がついたらとんでもないところに流されて助かっていることがあるが、船戸与一の冒険小説で生き残るのはそういうやつらだけだ。

     くわえて、船戸与一の冒険小説では、生きることに適度な未練がましさがなくてはならない。あまりに生きることに執着しすぎてもだめだし、突き放しすぎてもだめだ。腐れ縁の恋人でもあるかのように、つかず離れずさせてくれない微妙な距離感を取らねばならない。ここが非常に難しいのだが、船戸与一の味なのである。

     この「夜のオデッセイア」という小説を読み返すのは25年ぶりだ。登場人物たちの末路を知っている人間には最初はつらいが、そこを乗り切ると、いつもの船戸与一があった。いいやつもイヤなやつもばたばた死に、小悪党ばかりで、政治的な思惑はクソッタレの極みだった。そんな中で生に恋々としながらしがみついているうちに、いつの間にか小説は終わっていた。小説を読み終えていまだに生きていることに対して、神に感謝なんかしやしない。船戸与一の小説が面白いのは、小悪党としてその日を生きる、そんな読者自身の物語であるからなのだ。
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    ~ Comment ~

    Re: blackoutさん

    基本的に、船戸与一の小説の主役たちは、「陰謀をたくらんで人を陥れる」タイプとは無縁なことが多いです。それよりは、「目先のカネ(だいたいは小銭)」をつかむチャンスがあったら、道義とか倫理とか関係なく小ズルさをもってそれをつかんで、翌日の生活費に充てるタイプ。多くはそのくらいカネに縁がない生活をしている(笑)

    よーするに、いしいひさいちの『バイトくん』を不良化したみたいなやつがぞろぞろと冒険しているみたいなものだと思えばいいかと。よほどの人間でもないと、『理想』を説くやつが真っ先に流れ弾に当たって死ぬ世界なのです。それもだいたい後ろから飛んでくる弾で(^_^;)

    それが船戸与一の小説の醍醐味(笑)。

    NoTitle

    まぁ、必要になるときがありますからねぇ
    生き抜く上で、セコさとかズルさってw

    とはいえ、目先の損得だけ考えて他人を陥れてばっかだと、それは逆に自分で自分の首を絞めるようなもんなので、使い方次第かなと思ったりします

    思いがけないところで、それも一見関係なさそうなとこで、陥れたことの報復を受けたりします(汗)

    ええ、経験者は語る、ですw

    Re: 面白半分さん

    とにかく登場人物の大半が「イヤな小悪党」ですからねえ。

    人間が誰しも持っている「イヤな小悪党」の部分を拡大してデフォルメしてキャラクターを作っているとしか思えない。

    普通の作家だったら純粋な存在として描くはずの、ボクシングでチャンピオンになることを夢見る少年さえも、普通の小悪党予備軍に描きますから徹底してます船戸与一(^^;)

    そういうどうしようもないやつらが死ぬ時だけは純粋になるのを楽しむのがこの船戸与一という作家の読み方かなあ(^^;)

    NoTitle

    船戸作品は本作ではない1作しか読んでいないです。

    しかし
    善人は「単に流れ弾に当たって死ぬだけのキャラクター」とか

    「小悪党としてその日を生きる、そんな読者自身の物語」

    とかポール・ブリッツさんの紹介がツボをついてきますなあ
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