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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ52位 高層の死角 森村誠一

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     新本格を中心とする謎解きミステリファンに蛇蝎のように嫌われている社会派推理小説の御大の処女長編で乱歩賞受賞作。大学に入ったころに読んだ。意外と面白かったのを覚えている。ひさしぶりに再読。

     読んでみたらたしかに面白かった。前半は密室殺人、後半は執拗なまでのアリバイ崩しと、下手な新本格よりも律儀に謎解きしているではないか。前半の密室のトリックはたしかに短編を支える程度のものでしかないが、「四つの鍵」をめぐるハッタリの利かせ方など堂に入ったものである。

     しかし、同じ森村誠一の「人間の証明」を読んだときにも思ったが、この人の小説では、刑事が怒るのであった。「嫌悪」ではなく、実際に狡猾極まる犯人に本気で怒るのである。「怒り」と「怨念」が生み出す「執念」、それがこの作品からもいやというほど感じ取れる。

     なにかしらとにかく怒っていなくては小説を書くモチベーションが保てない人なのではないだろうか。そこらへんは松本清張以上であろう。この「高層の死角」では、まだその怒りの矛先が「権力」に向いていないのでおとなしいものであるが、「悪魔の飽食」を書き続ける執念は、単なる「思想性」だとか、作家の意地だけで説明できることだとも思えない。

     その「怒り」を許容できるかどうかが、「好き」と「嫌い」の分水嶺なんだろうなあ。森村誠一自身が、「社会派推理小説ブーム」と「角川映画商法」の波にうまく乗りすぎてしまい、社会派の旗手としてベストセラー街道を突っ走ってしまったことが、「嫌い」な人の「嫌い」度を大幅に引き上げてしまったところがあるように思う。

     現代日本において「新本格」派が事実上ミステリを牽引していることを考えると、いまミステリ界のやるべきことは「社会派推理小説」とは何だったのかを分析し再評価することではないのか。そのひとつのトピックとして「森村誠一現象とはなんだったのか」が問われなくてはならないだろう。単なる時代のあだ花としてとらえるだけでは、ミステリマニアが再び結集した2012年度の「東西ミステリーベスト100」においてさえも、新本格ファンや戦前ミステリファンが嫌悪の情もあらわに語る森村誠一作品の一作「人間の証明」が、圏外とはいえ172位に滑り込んだ理由が説明しきれないのである。そのためには時間を見つけて「新幹線殺人事件」などの代表作も読んでみなくてはなるまい。今後の課題にしておきたい。
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    ~ Comment ~

    Re: blackoutさん

    怒りをそのままぶつけると確かに小説は書けませんね。

    森村誠一先生はそこら辺のコントロールもうまかったんでしょう。指向性ゼッフル粒子みたいに(^^;)

    NoTitle

    確かに、怒りは書く上での原動力になりますね

    逆に自分は、怒りの真っ只中だと書けないヤツです
    冷却して、なぜ怒ってたのか?ってのを分析できるぐらいにならないと、とても小説どころではないわけです(汗)

    ただ、自分の場合は、小説中にあまり怒りが出てくることはない気がします
    虚無感や死、絶望なんかがメインテーマだったりするからカモですが

    Re: 面白半分さん

    「人間の証明」とか面白かったですもんね。

    初期作品を無性に読みたいんですけど、図書館にも古本屋にも、古いのはないですね。

    有栖川有栖がベストに挙げている「新幹線殺人事件」、古本が手に入れやすい時に買っとくんだった(^_^;) 小泉喜美子のdisりぶりに騙された(笑)

    明らかにアマゾンで買う本ではないので古本屋をまわろう(笑)

    NoTitle

    森村誠一作品で最初に読んだのが本作かもしれません。

    かなり”本格”なので驚いた記憶があります。
    その後、”本格”といった惹句のあるものを何作か読みましたが
    面白かったのを覚えています。

    自作解説で、
    別々に起こった事件が途中から交錯して一つになるという構成は私が最初とか、広めた、とかそんなことを書いていらっしゃいましたが確かにそのパターンの作品は面白かったです
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