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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ53位 砂の器 松本清張

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     数年前、図書館で借りて読んでずっこけた。「なんだこれは」と思った。松本清張ともあろう人間がこんな新本格みたいなトリックを使って小説を書いていいのか。なんでこんなけったいな本がベスト100入りするのかわからん、というのが正直なところだった。

     この前、ふと図書館のDVDの棚を見たら、野村芳太郎監督の映画「砂の器」のデジタルリマスター版が並んでいたので、即座に借りて、映画を観て、それからこの本を再読した。今となっては確信を持っていえる。この本が社会に与えた影響を考えると、ベスト100に入れないわけにはいかないのだ。それは、本書が「社会派推理小説」として書かれながら、「社会派推理小説として評価するべきではない」からなのだ。本書は「ノベルズ」の元祖であり、シンボル的存在なのだ。本書がベスト100入りしているのは、「その筋」のミステリファンには一顧だにされない、あまたの「ノベルズ」の怨念を一身に背負っているからなのである。

     それを具体的に体現しているのは、いつぞやの「このミステリーがすごい!」の覆面座談会で行われた「リーグが違う発言」である。なぜ「このミス」にはベストセラーの内田康夫や西村京太郎がランクに入ってこないのか、という読者の質問に、座談会は「リーグが違う」「(それらは)『ミステリー・リーグ』じゃないんです」「そういうのが好きな人は『このノベルズがすごい!』を作ってください」と徹底的にバカにしきった返答をし、産経新聞を巻き込んだ大騒動になってしまったのだ。そして、この覆面者の発言に対するミステリファンの大方の反応は「よくぞいってくれました」だったのである。

     「砂の器」は、映像作品としてものすごく面白い。小説でも、主人公のベテラン刑事は、ひたすらローカル線に乗り、日本中を往復する。松本清張の筆の運びは、とにかく読みやすく、ページを繰る手が疲れない。刑事が目にするなにげない地方の名産品や人間の人情などに、ふと、そこはかとない旅情を覚える……。

     ミステリファンのわたしは、そんな小説が読みたくてミステリを読んでいるわけではない。しかし、この作品を推した人間の少なからぬパーセンテージは、「そんな小説もたまにはいいかな」と考えるタイプなのだ。そういった嗜好の存在そのものを、思想的に相容れぬからと全否定するのでは、本格ミステリマニアが社会派推理小説を蛇蝎のように嫌うことで、一読に値する面白い作品たちを闇に葬ってきたのと何も変わらないではないか。

     もう、ノベルズだからどうこう、社会派だからどうこう、というレッテル貼りと原理主義を唱えるのはやめにしてもいいはずだ。実際に、読むかどうかは別にして。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    こんなものを凶器に使ったのは、松本清張のほかにはたぶんドロシー・セイヤーズくらいですな(笑) 長いけどリズムに乗れればすらすら読めるので、旅行する機会なんかあったら持ってくと退屈しのぎになりますよ。(^^)

    「リーグが違う発言」は、いろいろと物議をかもしましたからねえ。ミステリファンの対応は、彼ら覆面座談会の論者に対して「自分たちのミステリ観を開陳もしないで、そんなことを一方的にいうのはやりぎだ。だけど言ってること自体は間違ってないのだが」と苦言(?)を呈した関口苑生の言葉がすべてを物語っている(^^;)

    あの狂犬のような座談会がなくなってから、「このミス」は独自性を失っていったような気がします……。

    Re: らすさん

    「砂の器」は日本の推理ドラマの定番的作品ですな。映画やテレビでいくつも作品が作られてますね。

    橋本忍の脚色をみんな参考にしていて、クライマックスのいちばんの見せ場である交響曲「宿命」の演奏シーンで使う曲の作曲に、音楽として参加した作曲家はみんな精力を注ぐのですが、

    原作にそんなシーンはない(笑)

    NoTitle

    これも読んでいない。
    避けていたわけではないですがあまり松本清張読んでこなかったです。どんだけけったいな作品なのか確認してみたい。
    「リーグが違う発言」も興味深いですね

    NoTitle

    おはようございます(*^_^*)

    「砂の器」はどこかで聞いたことがあるなと思って調べてみたら、
    15年ぐらい前に連続ドラマやってましたね。
    主役は中居正広でした。
    自分も見ていましたが内容はあまりよく覚えていません( ..)"
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