東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎日更新)
日本ミステリ54位 バイバイ・エンジェル 笠井潔
これを最初に読んだのはうら若き高校生のみぎりであった。山田正紀や半村良のSF、当時は「哲学マンガ」と呼ばれていたタイプの作品にかぶれ、わかりもせぬのにニーチェなんぞを読んで反時代的人間を気取っていたオタクの前に、図書館で遭遇した「バイバイ・エンジェル」はまさに劇薬みたいに効いたのである。「これだ」と思った。そこにはわたしが求めてやまないものが克明に記されていた。わたしは大学の文学部、特に哲学科に対して願書を書きまくり始めた。まさにアホであるが、親の要望通りに法学部を受けても事情は変わらなかっただろうと思われる。文学部以外の学部に入ったら、入学式の次の日から講義を欠席し、たぶん中核派系列か革マル派系列の新左翼にオルグされて、今ごろ富士の樹海にでも埋められていたのではあるまいか。
そのような感慨を覚えながらひさしぶりに再読。密室での首切り殺人という趣向も、多重解決も、謎解きのロジックも冴えているが、読者がこの小説に望むのはそういうものではないのである。人文系の過剰なうんちくと過剰にヒネた現代社会分析、それが笠井潔の小説を読むにあたっての最大の読みどころであり、読者がカルト化しやすいところである。生理的にそこが合わない人間にとっては、本書を読むのは苦痛のきわみだろう。
評論集「テロルの現象学」とほぼ同時期に書かれたこともあり、「バイバイ・エンジェル」での敵はテロリズムである。「サマー・アポカリプス」の頁でも書いたが、犯人が殺人に至る動機の分析が、現代のイスラム過激派のテロを分析するにも通用するところがあるので、今のフランスの様子とかをニュースでうかがっていると、何も進歩してないじゃないか人類、と、別な意味で頭を抱えることになる作品なのだ。サヨクだろうとウヨクだろうとあるいはナントカ教の信者であろうと、「なんだかよくわからないけど形のない永遠のもの」のために自分の命を捧げてしまうタイプの人間は読んでおくべきであろう。「日本民族」のために殉じる、などと平気でいっている評論家のような無責任人間とかではなく、まじめにそれを『葉隠』の佐賀藩士みたいに日夜考えている人は要注意である。「覚悟のススメ」の葉隠覚悟なんて完全アウトだ。
まあ、作者の理想の分身たる名探偵の矢吹駆本人が、ワトスン役のナディア・モガールの視点はさておき、第三者の冷静な目で見ればそうとうにヤバい人物であるため、本作のクライマックスシーンはヤバい思想とヤバい思想をぶつけあわせ、どっちがヤバいかで決着をつける、蠱毒かお前、みたいなことになってしまうのだが、それはご愛敬であろう。あまりにも考えすぎな登場人物たちが浮世離れした会話を交わす、まさにそこのところに今日も笠井潔ファンは悶絶するのである。早く読まないとなあ、積読状態でホコリかぶっているドストエフスキー……。
そのような感慨を覚えながらひさしぶりに再読。密室での首切り殺人という趣向も、多重解決も、謎解きのロジックも冴えているが、読者がこの小説に望むのはそういうものではないのである。人文系の過剰なうんちくと過剰にヒネた現代社会分析、それが笠井潔の小説を読むにあたっての最大の読みどころであり、読者がカルト化しやすいところである。生理的にそこが合わない人間にとっては、本書を読むのは苦痛のきわみだろう。
評論集「テロルの現象学」とほぼ同時期に書かれたこともあり、「バイバイ・エンジェル」での敵はテロリズムである。「サマー・アポカリプス」の頁でも書いたが、犯人が殺人に至る動機の分析が、現代のイスラム過激派のテロを分析するにも通用するところがあるので、今のフランスの様子とかをニュースでうかがっていると、何も進歩してないじゃないか人類、と、別な意味で頭を抱えることになる作品なのだ。サヨクだろうとウヨクだろうとあるいはナントカ教の信者であろうと、「なんだかよくわからないけど形のない永遠のもの」のために自分の命を捧げてしまうタイプの人間は読んでおくべきであろう。「日本民族」のために殉じる、などと平気でいっている評論家のような無責任人間とかではなく、まじめにそれを『葉隠』の佐賀藩士みたいに日夜考えている人は要注意である。「覚悟のススメ」の葉隠覚悟なんて完全アウトだ。
まあ、作者の理想の分身たる名探偵の矢吹駆本人が、ワトスン役のナディア・モガールの視点はさておき、第三者の冷静な目で見ればそうとうにヤバい人物であるため、本作のクライマックスシーンはヤバい思想とヤバい思想をぶつけあわせ、どっちがヤバいかで決着をつける、蠱毒かお前、みたいなことになってしまうのだが、それはご愛敬であろう。あまりにも考えすぎな登場人物たちが浮世離れした会話を交わす、まさにそこのところに今日も笠井潔ファンは悶絶するのである。早く読まないとなあ、積読状態でホコリかぶっているドストエフスキー……。
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