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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ55位 半七捕物帳 岡本綺堂

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     数年前に図書館で借りて全編読んだ。やたらと面白かった。同じ図書館で同じ本を借りて再読。やっぱり面白い。大正時代の作品なのに、去年の新作といわれても信じてしまいそうである。「モダン」とか「洗練」とかいうのはこの作品のためにあるのではないか。そんなことまで感じさせる、上品で読みやすい文章。江戸時代の光景が目に見えるような、的確で要所を押さえた描写。それでいながら扱う事件は多岐にわたり、読者を飽きさせない。誰がいったか「コメのメシにミソシル」的安定感がある。毎日食べてまだ飽きない、という驚異の安定感。

     「半七捕物帳」がコメのメシだとするのなら、「なめくじ長屋」は珍味であり、「ごちそう」だろうなあ。どちらが悪いというのではなく、同じように江戸時代を舞台にミステリを書くにあたっても、「なめくじ長屋」にはその一編一編に「作者の才気」と「読者への挑戦的態度」が見受けられるのに対して、「半七捕物帳」は、そうした才気や挑戦を、可能な限り丁寧に削り取って、読者に気付かせないようにしている。おそらく、「半七」が書かれた大正では、都筑道夫のような形で「才気」を出すことは過激にすぎたのだろう。それが「捕物帳=季の文学」というドグマになって、時代小説界にとってはともかく、ミステリ界にとっては、「捕物帳」というジャンルをみすみす失ってしまう痛恨事になったのではないだろうか。なにしろ、2012年版の「東西ミステリーベスト100」においては、江戸時代を舞台にしたミステリで100位以内にランクインしているのは、この「半七捕物帳」だけになってしまったのだから。ここまでミステリ読みが「江戸時代」を忌避するようになってしまったのは、あまりにも「いびつ」なような気がする。

     これは、ミステリファンとして「半七捕物帳」を再評価した都筑道夫の責任も大きいかもしれない。「なめくじ長屋」を書くにあたって、「岡本綺堂が『半七捕物帳』を書いたのは、江戸時代を舞台にしたミステリを書くことにあった」「捕物帳は『半七』に帰らなければならない」というテーゼをぶち上げたため、少なからぬミステリファンが、「捕物帳は『半七』だけ読んでいればOK」的な短絡思考に陥ったのであろう。これでは「季の文学」論と何も変わることがないように思うのだが。そのせいもあって、「江戸時代を舞台にしたミステリ」として捕物帳を選ぶ場合のガイドがいまだに充実していないというまことに嘆かわしい事態を招くに至った。世にネトウヨなるものがいるとすれば、絶滅寸前のサヨクばかり攻撃していないで、こうした「日本人にしかできないミステリのルーツ」を公明正大にまとめるとかの生産的なこともやってほしいのであるが。それともネトウヨにとっての日本なるものはせいぜいが明治で止まっているのか。

     ……『天皇』? 知らんわい、そんなもん。
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    ~ Comment ~

    Re: miss.keyさん

    いいにくいことだが、きみのいっているのは、半七じゃない、

    「伝七」だ。

    (^^;)

    あれもミステリーだったのか

     半七って言うとあれですよね。よよよいよよよいよよよいよい、あーめでてーなーって奴。ミステリーだったんですか。目からうろこがぽろりです。言われてみれば捕り物もミステリーなのかも知らん。時代劇って括りにしとったからミステリーという見方はした事が無かっただよ。

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    Re: 面白半分さん

    これは、岡本綺堂の文章があまりにもうますぎるということがあるでしょうね。

    もっと後になっての久生十蘭「顎十郎捕物帳」になると、江戸時代らしいというか、「古臭い」「読みづらい」文体になるのですが、どういうわけか、この大正の岡本綺堂の文章は、現行の文庫本では単に現代漢字かなづかいにしてあるだけなのに、異様なほどに読みやすいのです。

    2018年の今でも、「けさ書いた新作を時代小説雑誌に載せてみました」といって通用するレベルです。

    文章が基本的に上品だからなんでしょうね。こういうのを読むと、百年後まで読んでもらうには、上品な文章を書かないとダメなんだなあ、と思わされますね。実践するのは困難にもほどがありますが……。

    NoTitle

    大正時代、岡本綺堂
    文体って現代とそんなに変わっていなかったでしょうか。

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