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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ55位 一本の鉛 佐野洋

     ←不眠の夜を讃す →日本ミステリ58位 猿丸幻視行 井沢元彦
     高校生の頃に古本屋で買って読んだ。皮肉なまでに皮肉なラストの一行が非常に気に入ったのを覚えている。問題は、覚えているのはそこだけだった、ということだろうか。美浦村中央公民館から相互貸借で取り寄せて、実に三十年ぶりに再読。

     細部を完全に忘れていてよかった、と思った。この巧妙精緻を極めた謎解きミステリは、大ネタをひとつ知っていたくらいではびくともしない面白さを持っていたのである。いやはや、犯人探しと手がかり探しだけにはとどまらず、証人探しのほかに探偵を捜すことまでしなくてはならない。そして謎を解くのは意外な人物なのである。しびれるねえ。ミステリファンでもなきゃ味わえない至福の知的興奮である。

     佐野洋を語るのに「典型的な中距離ヒッター」という言葉があるが、それはどうだろう、と思わないでもない。この「一本の鉛」なんて、中距離どころか場外ホームランではないか。佐野洋に問題があるとしたら、その場外ホームランを、往年の長嶋みたいに天才的なひらめきと圧倒的パワーでもっていくのではなく、往年の阪急の選手のようにあくまでも地味ないぶし銀の技として渋く場外に運ぶ、というスタイルにあるだろう。この「一本の鉛」というミステリを再読して、どこを切ってもにじみ出てくる「渋い」技巧の前ににやにやせざるを得なかったのだが、こういうのは今は見向きもされないのだろうか。それだとしたらよほどに哀しいのではないか、と思えてならない。

     本書を読んで「感動」する人はまずいないだろう。「人間ドラマに涙」するのとはまさに対蹠的な位置にあるのだ。佐野洋を読むからにはそんなところには目もくれず、ひたすら作り込まれた技巧を楽しむべきである。第一章から読者をだましにかかるその超絶技巧……いや、読者はたぶんその前からすでにだまされているのだ。夜中に一杯の酒などをなめながら、そんなところを読み返してにひにひ笑う、そういう読み方がぴったりくるミステリである。

     前に何かで書いていたが、佐野洋自身はフレッチャーの影響を強く受けていたそうである。だが、フレッチャーかなあ、と思うのも事実。これはもう、この長編第一作から、佐野洋のミステリは「佐野洋のスタイル」であったのではないかと思わざるを得ない。

     とにかく全編、だましと遊び心の連打。都筑道夫からよけいなケレンをすべてそぎ落としたというような、超絶技巧のカタマリだ。ものづくり日本の精髄のようなミステリである。新刊書店で手に入らないのは残念だが、もし古本などで読まれる時は、どうか眉に唾をつけて、だまされる快感を味わっていただきたい。にひにひ。
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    ~ Comment ~

    Re: blackoutさん

    そこまで悲観することもないと思いますけど、「いぶし銀」の技を褒めるのがマニアばかりという状況もなんですなあ……。

    せめて自分はいぶし銀の技がわかる男になりたいものであります。

    ♪ダバダー (違いのわかる男(笑))

    NoTitle

    ええ、全員が65点をつけて、且つわかりやすい、よく見るとチープだけど、それを擬態を凝らしてそうでないように見せかけるものばかりが市民権を得るような現代では、いぶし銀は見向きもされないと思いますです

    だから、この島国は色々なものがどんどん衰退してゆくのかなと

    はい、自分は残念どころか危惧さえしてます

    Re: 面白半分さん

    そのほかにも、構成から何から、実に凝った作りで、再読してええっこんなに凝ったミステリだったっけ、とびっくりしました。

    ぜひご再読を。その価値は十分にあります。

    NoTitle

    ラスト1行が良かった、というところしか覚えていないんですが
    ここらへんがおっしゃるところの”往年の阪急”云々の地味ないぶし銀
    というところなんでしょうね。

    超絶技巧を味わうために再読してみたいです
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