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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ59位 猫の舌に釘をうて 都筑道夫

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     初期の都筑道夫を代表する怪作であり、高校の頃に古本屋を丹念に回って入手したときは本当にうれしかった。読んでみれば怪作というにはあまりにも怪作であり、謎解きミステリのお約束というお約束をひとつひとつ異様な形で処理していくのににやにや笑った。異様な形ではあるものの、その処理はことごとく完璧で、読者からの文句の一切をはねのけてしまう。「探偵で犯人で被害者」という条件のクリアのしかたでは、ジャプリゾ「シンデレラの罠」などよりよほど偏執的だ。読み終えたとき、これが本格ミステリなのか、恋愛小説なのか、たちの悪い冗談なのか、ぼんやりとしながら布団に入ったのを昨日のことのように覚えている。

     ほぼ25年ぶりに再読。再読して思ったが、偏執的で変にセンチメンタルで、言葉の選び方のひとつひとつが、まさに「都筑道夫小説」であった。ヒロインをめぐる、主人公の、妙に粘っこくてそれでいてどこか枯れていて、間に妙なウンチクを垂れてワンクッションもツークッションも置きたがるひねくれた態度が、いかにも都筑道夫なのである。

     「照れ」なのかもしれない、と思うと、この小説がクリアに読めてきた。エロ小説から講談や落語、インチキ海外作品までなんでもかんでも山のように書いてきて、「都筑道夫ひとり雑誌」などという短編集を三冊も組めてしまうほどの恐るべき才人であるこの小説家は、自分のやっている趣向に「どこか自信が持てない」のではなかろうか。誰も考えたことのない新趣向を提示するのが、なんとなく「気恥ずかしい」のであろう。彼はそれを「照れ」てごまかし、気取られないようにする。その時に使われるのが博覧強記にもほどがあるウンチクであり、誰も詳しく知らないために、誰ひとりつっ込めないような「過去の東京の原風景」である。カート・キャノンことエド・マクベインの「酔いどれ探偵街を行く」を翻訳していても、自分の訳文に自信が持てないのだろう。理屈の上では自信はあるのだが感情が納得しない。それをごまかすために、本人いうところの「浪花節」的な、やたらと読点の多い訳文をこしらえてしまう。それが日本人の感性にマッチして、都筑道夫訳でなければカート・キャノンじゃない、などというレベルになってしまうのが都筑道夫のすごいところなのだが、本人はそれでも「照れ」ていたんでしょうなあ。文庫版のあとがきが、もう言い訳だらけで、誰もそんなに責めないから安心してください、というくらいであった。

     この「猫の舌に釘をうて」は、そうした「照れ」と「自虐」と「韜晦」のうえに、アクロバティックでダイナミックで、「誰もそんなもの想像すらしない」ような趣向でもって建造物をこしらえた傑作であり怪作である。そのうえ泣かせる恋愛小説でもあるのだ。純粋にびっくりしたい人にはもちろん、青春小説ファンもぜひご一読を。
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    ~ Comment ~

    Re: blackoutさん

    うつ病のようなストーリーしか思いつかないのに、「うつ病のような小説は売れない」ということがわかっている夜はつらいです。

    本人がどういうやつかは出ますなあほんと(^^;)

    NoTitle

    自分は、おそらく以下なヤツかなと

    真人間寄りの変態
    変態寄りの真人間
    この両者をウロウロしてる謎なヤツw

    ええ、創作物には、どんなに隠しても偽っても本人がどういうヤツなのかってのが出ますよねw

    最近の自分の傾向は、文体はフツーだが、視点や発想がフツーなようで変態、これはフツーねぇだろ…、いや、でも、もしかしたらあるかも…、みたいな感じかとw

    Re: 面白半分さん

    言い訳というよりは「韜晦」ですね。真面目な反省の側面の裏で「どうだこんなところに反省できる俺は違うだろう」的な自信がうかがえて、やはり都筑道夫らしい、という。あそこまでくると、「味」ですな。

    NoTitle

    東西ミステリーベスト100で
    特に気になったのがここらへんの都筑作品です。

    文庫版のあとがきがはもう言い訳だらけですか。
    気になりますね。
    勝手なイメージとして都筑さんは強気の人、皮肉屋なので。
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