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    「ショートショート」
    ファンタジー

    詩人とクリスマスのない国の物語

     ←耳の聞こえないバイオリン弾きの昔話 →呪い
    「お祭りしようぜ」
     詩人は、友人たちを集めていいました。友人たちは、目をぱちくりさせました。
    「お祭りって……いったいなにをするんだよ」
     友人たちは、不安そうに顔を見合わせました。無理もありませんでした。有史以来、いつから始まって、いつ終わるともしれない大戦争が、この世界を覆っていました。今は何度目になるかわからない停戦が結ばれていましたが、それがつかの間のことであることはみんなが了解していました。お祭りなんて、国家の公認でもなければできない話だったのです。
     それでも、詩人の瞳は熱を帯びていました。
    「夢で見たんだ」
     詩人は足を組むと、歌うようにいいました。
    「ぼくは、ここではないどこかの世界にいた。歴史も違えば、言葉も違い、住んでいる人の衣服までまったく違う世界だ。部屋には大きな暖炉と大きなテーブルがあり、ぽかぽかと暖かかった。その隅には、ぼくたちの世界のもみの木によく似た木がかざられていて、てっぺんには星があった。テーブルの上には、見たこともないようなごちそうが並び、人々はにこにこしながらプレゼントを交換していた。言葉はまったくちんぷんかんぷんだったけど、『クリスマス』という単語と、その人たちが平和について語り合っていたことだけはよくわかった……」
    「なんだよ夢かよ」
     友人のひとりが、がっかりしたようにいいました。詩人は、憤然としてそれに答えました。
    「夢だからって、それがなんだ。ぼくは、その夢の情景が、無性にうらやましくてしかたなくなったんだ。それに、誰にだって悪いことはない話じゃないか。暖かい部屋でごちそうを食べて、プレゼントを持ち寄って平和の話をするんだぜ」
    「だけどさ」
     別な友人が、指を一本立てて反論しました。
    「暖かい部屋を作るのはたいへんだぞ。燃料の配給は決まっているし、ごちそうにしろ、用意できるのは合成パンと合成蛋白に、水だけじゃないか。おれたちの国は戦争をしているんだから」
    「戦争が怖くて、詩人なんかやってられるか」
     詩人は姿勢を正すと、テーブルをどんと叩きました。
    「君たちは、こんな状況下でも、自由な魂を失っていない人たちだ。だから、やろうぜ。いっぺん、君たちと、腹を割って平和について話してみたいと思っていたんだ」
    「……うーん」
     ひとりが、首をひねりました。
    「でも、いったいいつ、そのお祭りをやるんだい。冬至は三日も前だし、新年までには一週間ある。やっぱり、新年……」
    「今夜だよ」
     詩人は集まった面々を見渡しました。
    「思い立ったがなんとやらさ。夢を見たのがけさだから、今晩みんなで集まろうよ。それに、君たちには話していなかったけど、そこには、なんとも風変わりだけど、いかした格好の人が出てきたんだ」
    「どんな人だよ」
    「それをいっちゃ面白くない」
     詩人は、にこりと笑いました。
    「どんな人だったかは、来てみればわかるよ。楽しみじゃないか。じゃ、今晩、また来てくれ。なんてお祭りかわからないから、『クリスマス』と呼ぶことにしよう」

     友人たちを送り出した後、詩人は、さっそく今晩の準備をしました。食事については、合成パンと合成蛋白の肉と水しか用意できませんでしたが、気持ちだけでも腕によりをかけて調理器具のボタンを押すつもりでした。
     それよりも、大事な準備があります。
     まず、詩人は、植木屋に行って、小さなもみの苗木の鉢を買ってきました。戦争に供する木材を育てるということで、苗木を育てることがはやっていたのです。
     その後、詩人は、夢に出てきた人物を思い出しながら、自分の持っている服の中で、一番ゆったりとした作業着を選び出しました。海軍勤務のときに廃棄されたものをもらってきた、救命ボート用の赤色塗料を使って作業着を染め、針と糸で襟元などに白いタオルを縫い付けました。赤い帽子もほしかったのですが、さすがにあのような帽子までは手が回らなかったので、配られたヘルメットを塗料で染めて代用にすることにしました。
    「……ふん、突貫工事にしては、なかなかいい線行っているじゃないか」
     詩人は、出来上がったその代物を見て、そうひとりごちました。
     ふと、時計を見ると、そろそろ時間になるだろう、というところではありませんか。仮装用の衣装を作る作業において、時間を食ってしまったのです。
     詩人は調理器具のボタンを押し、例の衣装を身にまとうと、部屋の掃除を始めました。
     扉のブザーが鳴りました。
     詩人は、掃除機を片づけると、あたふたと扉に向かって走りました。
    「はい、はいはい、早いなずいぶん……」
     詩人は扉を開けました。
     立っていたのは、暗色のコートを着た、秘密警察の警官たちでした。

     警官たちはどやどやと部屋の中に入ってきました。
     指揮官と見られる、やせぎすの男が詩人に告げました。
    「国家反逆罪で、君を逮捕する」
     男は顔をしかめました。
    「どんないかした服かと思ったら、ただの道化か。……失望したな」
     警官たちに腕を取り押さえられながら、詩人は叫びました。
    「いったい、どうしてぼくが国家反逆罪なんだ! 国家に反逆するようなことは、なにもしていないぞ!」
     男は嘲るような目をしました。
    「……ほう、本当にそう思うかね?」
    「そりゃそうだ! 暖房用の燃料も、食事も、配給をきちんと守っているし、もみの木の苗は、ぼくが自分でお金を出して買ったものだ! 塗料にしても、きちんと手続きを踏んでもらってきている! ぼくにやましいところは……まさか! あんたらは!」
     詩人は、自分が何に向かい合っているのかを悟って真っ青になりました。
     男は、軽くうなずきました。
    「そうだ。……君は、『平和』について徒党を組んで話し合おうとした。これは、現在、国が戦時下にあることを考えれば、国家反逆罪以外のなにものでもない」
     詩人は暴れました。
    「そんな無法が! いったい、誰がそんなことを!」
     男ははぐらかすかのようにいいました。
    「善良な市民だ。……通報も、善良な市民による、といっておこう」
    「善良な市民……そうか……」
     おそらくは、あの場に集まった友人すべてが当局に密告しただろうことを思って、抵抗する気力をなくしてぐったりとなった詩人に、屈強な警官たちは手錠をかけました。
    「……連れて行け」
     連行され、詩人が部屋を一歩外へとでたときです。
     なにかすばやいものがさっとその場をよぎったかと思うと、詩人の身体は消えてしまいました。
    「いったいなにがあった!」
     男はうろたえながら、辺りを見回して叫びました。
    「……わかりません」
     警官たちはこういうのがやっとでした。

    ※ ※ ※ ※ ※

     星空の上を滑るように進むそりの上で、詩人は痛む手首をもみしだきながら、自分をあの場から連れ去り、不思議な力で手錠もはずしてくれた、かっぷくのいい老人を呆然と眺めていました。
    「……あなたは、ぼくが夢の中で見た人にそっくりだ」
    「そうじゃろうな」
     老人の答えに、詩人は驚きました。
    「ぼくたちの言葉がわかるのですか!」
     詩人とよく似た、それでいてしっかりとした仕立ての赤い服を着た老人は、振り向いてにこやかに笑いました。
    「わしは誰の言葉でもわかる。そのような存在じゃからな」
    「あなたは、どなたとお呼びすればいいのでしょうか」
     老人は目を前に戻し、そりの進む道を少し正しました。
    「わしには無限の名前がある。その中で、この服を与えてくれた世界がつけてくれた名前が、いっとう気に入っておるな」
    「教えていただけませんか」
    「いいとも。サンタクロースというのじゃ。そこでは、わしは一年に一度、クリスマスのときに仕事をすることになっておる」
    「それじゃ、ぼくが夢で見たものも?」
    「その通り。詩人としての霊感が、君に『真実』のかけら、平和なクリスマスの光景を垣間見せたのじゃ。そしてその霊感を感じて、わしもあそこを訪れた……あまり足を踏み入れたくなる世界ではないが、それでも行っただけの価値はあったな。君を救えたからな」
     詩人はしばらく、その言葉をかみしめるかのように目を閉じて黙り込んでいましたが、やがてそっと息を漏らしました。
    「あれは、あれはみんなほんとうのことだったんですね。ということは、戦争など知らない平和な世界がどこかにあるんですか。そこはどこですか!」
     老人は首を横に振りました。
    「クリスマスがある世界が、みんな平和とはかぎらんよ。わしも様々な世界を駆け抜けて、いろいろと美しいものから醜いものまで見てきたしな。落ち着ける世界が見つかるまでは、しばらくかかるじゃろう。それまで、どうしていたい? あちこちの世界を、旅して回るか?」
     詩人は、しばし考え込みました。
    「……いいえ。ぼくは、旅よりも、日常の暮らしの中で詩を作るのが好きな人間ですので。できれば、しばらくはあなたのところで、お手伝いをさせてもらうわけにはいかないでしょうか? 留守番くらいはできますが」

     こうして、詩人はサンタクロースの助手になりました。ありとあらゆる世界の人々に送るプレゼントの整理と管理を、詩人は喜んでやっています。
     もし、あなたのところに送られてきたプレゼントに、どこか胸に残るメッセージが書かれていたら、それは詩人が書いた言葉かもしれません。文章がちょっとくらいまずくても許してあげてください。よその世界から来た詩人には、まったく新しい言葉を覚えるのはたいへんなことなのですから……。
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    ~ Comment ~

    Re: ぴゆうさん

    全体主義社会が長く続くと、「裏切る」ほうが当たり前になってしまうのであります。戦時中や冷戦中のドイツ、日本、ソ連などの記録を読んでいるとつくづくそれを実感します。

    1949年に、「1984年」を書いたオーウェルは偉かったです。45年以前に書いていればもっと偉かったのですが……。

    NoTitle

    信じた者が救われた。
    いい話だ。
    しかし、こうも簡単に裏切る人達って・・・何?
    救われる事はないよ。
    詩人が楽しく仕事をしてる姿が目に浮かぶ。
    シニカルなのは好きじゃない、何といっても、ハッピーエンド。

    Re: ミズマ。さん

    この話は、毎年クリスマスに書いては友人知人に送りつけているクリスマスストーリーのひとつとして書いたものです。

    クリスマスに悲惨な話を書いてもなんですので。

    そりゃーそうだよなハッピーエンドのほうがウケるよな。

    でもなぜかショートショートのオチはシニカルになってしまう。

    そしてこの次の日書いたショートショートというのがまた……(^^;)

    NoTitle

    他の作品と比べて優しい感じがするのはですます調だからですかね^^
    風邪ひきっぱなしだったり、事業仕分けだったり、刑事がマムシだったりするSSを読んできたので、ハッピーエンドは意外でもあり嬉しかったです。

    ありがとうございました!

    >匡介さん

    こちらでははじめまして♪

    最近、自分の小説は「ですます調」で書いたほうが面白い作品ができるんじゃないかと思い始めました。

    年末年の瀬でお忙しいでしょうから、そんな中時間を割いて読みにこられたということだけでわたしはうれしくてしかたないです!

    またいらしてください!

    「ナイトメアハンター桐野」の新作は明後日からですよ~。

    遅くなってしまって申し訳ありません(汗)

    童話を思わせる文章ですね。
    ポール・ブリッツさん流のクリスマス作品を楽しませて頂きました♪

    短いですが、ちょっと長く書く余裕がないので申し訳ありません。
    だからといってこれ以上、クリスマスの作品を引き伸ばすのも気が引けるので…。

    拙い感想ですが、作品の方はしっかりと拝読しました!
    そのうち余裕が出来ましたら、また覘きに来させて頂こうと思いますのでよろしくお願いします。

    >トゥデイさん

    ここ数年、クリスマスにクリスマスエピソードを書いて知人に配るという、落語の「寝床」を地で行くようなことをやっています。
    今年からはブログができたのでメアドを知らない人にも見せられて幸せです(^^)♪
    でも来年は血も凍るようなクリスマスネタのホラーを書くかな……(爆)

    わたしのクリスマスプレゼントは、まあ、なにか自分にごほうびでも買うか……。

    遅ればせながらメリークリスマスです。
    クリスマスエピソードやってくれてありがとうございます。
    邦画にはクリスマス映画ないとか嘆くような奴なので、凄く嬉しいです。
    詩人は、絵本とかで緑色の服着た小人で表現されるあの人になった訳ですか。
    ファンタジックなのとSFチックなのといい感じに混ざって良かったです。
    あと準備の場面でジャックスケリントン思い出しました。
    ありがとうございました。

    ちなみに私が貰ったプレゼントは模試の割と良い結果と図書カードでした。
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