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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ61位 焦茶色のパステル 岡嶋二人

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     江戸川乱歩賞は数多くの作家を輩出してきたが、長年にわたり、受賞者の中でも「作品はいいのに売れない作家」の代名詞的存在だったのがこの岡嶋二人である。青年二人の合作ペンネームということで話題性もあったはずなのだが、売れなかったそうだ。作者の岡嶋自身、編集者と飲んでいる時、「先生のようなこういう作品が売れなくてはいけないんですよねえ」と愚痴をこぼされたという伝説の持ち主である。そういうわけで、中学高校と、完全にアウトオブ眼中の作家であった。超難解で知られたゲームブック「ツァラトゥストラの翼」をものしても、ゲームファンだったわたしでさえも「どうせつまらないんだろうな」と思い込んで読まず嫌いしていたのだからそのカリスマ性のなさは傑出している。

     評価が変わったのは、大学に入り、図書館に講談社文庫が揃っていたので、基礎教養をつけるつもりでいやいやこの「焦茶色のパステル」を読んだところメチャクチャ面白く、次に「あした天気にしておくれ」を読んだらさらにメチャクチャ面白かったときからである。後はもうのめり込むことシャブやコカインのごとく、大学の図書館にあった講談社文庫を全部読み、それだけでは収まらず、歩ける範囲の図書館と古本屋を回れるだけ回って、見事大学三年時までに、岡嶋二人の全巻制覇を成し遂げたのであった。そのくらい面白いのだ。

     売れなかった原因はなんとなくわかる。まずは扱うネタのニッチさである。デビュー作の本書は「競馬ミステリー」である。草分け的存在といっちゃ聞こえはいいが、あまりにもミステリ読者の興味から外れすぎている。文章は明晰で読みやすく嫌味がない、まさにスマートなものであり、これから小説を書こうとする人には文章の模範として研究をおすすめしたくなるものなのだが、ものには限度があり、岡嶋二人の小説では、何をネタにしても、どんなドロドロのドラマを作っても、スマートになってしまうのであった。アクだけで勝負しているような島田荘司と対照的である。なにせ、地方のドロドロの閉鎖性がからんでくる陰惨な話に「珊瑚色ラプソディ」、狂気の殺人犯が襲ってくる血も凍るようなホラー小説にすら「クリスマス・イヴ」とタイトルをつけてしまうスマートさなのだから徹底している。

     20年ぶりに「焦茶色のパステル」を再読し、その圧倒的なリーダビリティと老獪にもほどがあるプロット、二重三重のミスディレクション、生き生きとした登場人物に引き込まれ、鮮やかな背負い投げが待っているエンディングまで一気読みしてしまった。ほんと、この作家を食わず嫌いしている人は、ぜひとも偏見を捨てて一読してほしい。コンビを解消して井上夢人名義になっても、相変わらず野心作を発表しているが、その着想の非凡さと明晰な文体が織りなす世界の醍醐味は、岡嶋二人名義の作品でなくしては味わえない。その裏側での確執と破綻は井上夢人の本に赤裸々に描かれているが、それすら「おかしな二人 岡嶋二人盛衰記」というタイトルである。スマートにも限度ってもんが……。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    出てきた時からカルト作家を運命づけられていた中町信先生ほどではないけれど、岡嶋先生には、ブレイクする前の大沢在昌や東野圭吾クラスの「カリスマ性のなさ」はあると思う(笑) 大沢先生も東野先生も岡嶋先生も、要求される要素を全部「無難に」クリアしてしまうため、かえって印象に残りにくいのであります。

    売る方針としてその真逆を行ったのが新本格の綾辻、法月、我孫子、麻耶といった面々だとわたしは思ってます。「とんでもないケレンと素人すれすれな文章、破綻している構成に作中でしか通用しない論理」に幻惑されて、もしかしたら次はもっとすごい刺激が、と考えてついついまた読んでしまう、という激辛料理みたいな商売のやりかたですな。仕掛けた創元と講談社はその点だけはマジですごい。(ほめ言葉)

    NoTitle

    何冊かたまたま読んでこの作者の安定感は納得しているのに
    何故かわざわざ読むという事をしてこなかった作家です。

    これは”カリスマ性のなさ”なんでしょうかね?
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