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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ61位 人生の阿呆 木々高太郎

     ←映画映画ベスト10 →1985年(4)
     85年版の「東西ミステリーベスト100」は実はけっこう口が悪い。当時の大学のミステリ研究会の猛者たちに総動員をかけたらしいが、この作品もボロクソである。いわく「本格としては見るべきところはない」いわく「これを代表作とされては秀作の多い木々が可哀そう」いわく「シベリヤの写真のついた戦前版を読んだものだけが、この作品を真に読んだといえるだろう」小説は写真の添え物みたいだ。というわけで、長いこと敬遠していた作品であった。数年前に読み、そして今回また再読。はたしてどうか。

     数年前の再読の時点では、この小説は「考え落ち」の作品なのではないかと思った。「読者諸君への挑戦」がついているが、その「解答編」自体がフェイクであり、小説を詳細に読むことによって、欺きの解答のその奥底にある「真実」を見抜いたとき、著者が「序文」で書いていた「人生の阿呆」の本当の正体がわかるのではないか、と読んだのである。もしこれが正しかったら、ミステリ界は激震するんじゃないかとすら思った。

     今回再読して確信した。この小説には、そういう意図はなにひとつない。もしそういう読み方をしたら、木々の理想である「探偵小説芸術論」から逸脱してしまうことは明らかだからだ。木々は探偵小説を、理路整然としていながら、人生の深奥にも触れた「大人向けの読み物」として書こうとしたのであり、この作品はそれ以上でも以下でもないのだ。作品は作品としてきれいに閉じており、余計な解釈の入り込む余地はないのである。

     そういう意味で、本書はたしかに「本格としては見るところはない」作品であろう。シチュエーションから犯人はバレバレ、というか、「こいつが怪しい」と思った人間が犯人であるし、主人公の革命運動への傾倒と転向も、教科書通りというか、埴谷雄嵩のような迫力がない。人間の深奥をえぐるという意味では、デビュー作の短編「網膜脈視症」ですらこの「人生の阿呆」より上回っており、異常心理を克明に描いた短編「睡り人形」なんて本作よりもはるかに優れた文学的境地に達している。もし、この「人生の阿呆」が第4回直木賞を受賞していなかったら、今まで読み継がれていたかどうかもわからない。いや、人の記憶に残っていたかも怪しいものである。

     それがわかったうえでいうのだが、それでもこの「東西ミステリーベスト100」での木々高太郎とこの作品の評価はあんまりではないのか、という気がしてならない。自分の理想にかなわないものは徹底的にぶちのめすというか、水に落ちた犬を打つような、「なにもそこまで」という執念深さを感じさせる。2012年版の東西ミステリーベスト100で、この解説を書いた人の名前がわかるかな、と思って調べると、案の定というかなんというか、北村薫先生だった。北村先生ェ……。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    北村先生、ご自身のエッセイ集とかで書くなら別に構わないのですし、言ってることもそれほど間違ってはいないのですが、それを辛辣極まる表現で、「東西ミステリーベスト100」という一種の「公器」を使って匿名で主張する、というのはやっぱりいかんと思うんですよ。まあ本格ミステリの鬼のような北村先生らしいといえばらしいのですが……。

    激辛料理論はわたしがいいだしたことではなく、昔からあったような気もしますが、誰が最初にいい出したのか、うまいこといいますよねえ……(^^)

    NoTitle

    東西ミステリーではそんなひどい書かれ方でしたか。
    しかもそれが北村さんとは。ちょっと驚きです。

    全く面白さは感じませんでしたが
    ”読者諸君への挑戦”があったり暗号があったりと
    本格探偵小説っぽさがありむしろそれにびっくりしました



    ところで
    新本格=激辛料理論、納得です。
    (例えが巧いですなあ。)
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