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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ64位 蒸発 夏樹静子

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     日本で「二時間サスペンス原作」の基礎を築いたのが松本清張と「ゼロの焦点」だとしたら、そうした「二時間サスペンス原作」を質量ともに完成形まで持って行ったのが夏樹静子だったのではないか、などとときどき思っている。1985年版の「東西ミステリーベスト100」には2作ランクインしていながら、2012年版では完全圏外に落っこちてしまった。わたしも大学時代に図書館で借りて読んだ最初の感想が、「なんだこのつまらん小説は」だったので、気持ちはわからないでもない。なにしろ当時は新本格派がムチャクチャなトリックと動機とシチュエーションで押しまくって日の出の勢いだったし、人間ドラマを読むのであれば、熱い男の血がたぎる冒険小説を読めばよかったのである。

     数年前再読して、「あれ? これはそれほど悪くないのではないか」と思った。今回で三読目である。だいたいのストーリーは頭に入っているが、さてどうなるか。

     読んだ結論としては、つかみとしての冒頭の不可能状況はやはりぞくぞくする。それからの密室事件も、アリバイ崩しも、当時を思えば頑張っている方だろう。リーダビリティは悪くないのである。そのうえでいうのだが、この小説のもっとも売りとするべき部分が、正直な話どう考えても納得いかないのだ。それが、冒頭に挙げた「2時間サスペンス原作」性であり、もっといえば「昼ドラ」性なのだ。ここで物語の縦糸になる主人公のやつが身勝手にもほどがあるひどい男であり、横糸になる謎めいた人妻が、主人公に輪をかけて身勝手にもほどがあるやつなのだ。虚心坦懐な目でこの小説を読めば、「身勝手な男と身勝手な女の不倫騒動に巻き込まれて落ち度のない善良な人たちがそろってバカを見る話」でしかないのである。

     そう思えてしまったら、もうどうしようもない。雪だるま式にどんどん大きくなっていく不幸の連鎖が、「結局てめえらが悪いんじゃねえか」で解決されてしまう以上、いかに作者が、読者にとってのネガとポジとを反転させる効果を狙ってぶつけてくる最後の捨て身のトリックにしても、「せやからなんやねん」で終わってしまう。これは一概に、わたしが古いタイプの人間だからで片づけられるものでもないだろう。

     あの恐ろしい講談社ブルーバックスの「推理小説を科学する」では、夏樹静子のデビュー作である「天使が消えていく」をべた褒めし激賞していたが、今から読んではたして面白いだろうか、とためらってしまう。もしかしたら、夏樹静子がベストから消えたのには、そうしたミステリファンの保守化が伴っているのかもしれない。夏樹静子の評価はそれでいとしても、この「蒸発」の作中に出てくる勉少年が気の毒である。幼い身でこんなトラウマ背負わされて、無事育ってくれるといいのだが……。
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