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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ66位 富豪刑事 筒井康隆

     ←日本ミステリ65位 ナポレオン狂 阿刀田高 
     小学生の頃に、父親が買ってきた本、桜井一「名探偵100人紳士録」。これが全ての間違いの始まりであった。この本がなければ、いかにミステリファンであったにせよ、今のような生活はしていなかったのではないかと思う。なんというか、いたいけな小学生にこんな本を与えるなんて、「ミステリマニア養成ギプス」をはめるのと同じことだろう。この本ではマニア好みのいろいろな名探偵の名前を知った。ラビのスモール、怪盗ニック、悪党パーカー、ミッチ・トビンなど。その中で、著者の桜井一が「当たり前に世界の名探偵100人を選んだら絶対入らないが、本書は独断と偏見に基づくので入れる」と断ったうえで一章を割いていたのが、この富豪刑事、神戸大助である。それ以来、どれだけ神戸大助の冒険譚を読みたいと思ったことか。しかし、わが家庭において「筒井康隆」の名前は禁句であった。すでにほとんどの人が忘れているだろうが、16歳の少年が祖母を殺してから飛び降り自殺した「朝倉泉事件」というものがあり、その母親の手記「還らぬ息子 泉へ」を読んだわが母は、手記中で諸悪の根源のように描かれていた筒井康隆像に衝撃を受け、筒井作品を読むことまかりならぬとの厳命を下したのである。

     むろん、読むなといわれれば読みたくなるのが人情というものである。そして、そのチャンスは中学生の時にやって来た。通っていた中学の、高校と共用していた図書室に、筒井康隆全集全24巻が、どさっと入ってきたのである。

     ミステリファンだけでなくSFファンにもなりかけていた中学生が借りないわけがない。第20巻「富豪刑事 関節話法」を借りて、徹夜で読みふけった。「富豪刑事」は、面白かった。メチャクチャ面白かった。「ホテルの富豪刑事」なんて、わたしは腹筋がこむら返りするかというくらい笑った。それよりも面白かったのは、「関節話法」に収録されていた短編SFだった。たぶん、翌朝のわたしの腹筋は、二、三カ所は断裂していたのではないかと思う。そのくらい笑った。全盛期の筒井康隆のギャグ小説の最良の(最悪の、かもしれない)部分にファーストコンタクトしてしまったのである。

     かくて、中学生活の半ばに達する前に、わたしはこの全集の完全読破を誓った。一巻から順に、短編も長編もエッセイも評論も、とにかく読んでいくのだ。効果はてきめん、気が付くとどうしようもないミステリマニアのSFマニアが出来上がっていた。わたしは芸術至上主義者になり、あたら大事な人生を誤ってしまうのであった。

     そんな感慨を覚えながら、ひさしぶりに再読した「富豪刑事」は、やっぱり面白かった。次から次への奇想、ミステリの限界に挑む冒険に次ぐ冒険。とはいえ「筒井康隆にしてはおとなしい」と思ってしまうのだから、時の流れというものは恐ろしいものである。
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    ~ Comment ~

    Re: LandMさん

    たぶん気の利いた本屋へ行けば、今でも容易に入手可能だろうと思います。

    超お金持ちの刑事が、有り余る財産を湯水のように使って事件を解決する話で、その湯水のような使い方が痛快なのです。

    昭和50年代の作品ですが、破壊力は当時のままではないとしても、今でも十分面白いと思います。

    ドラマ見ようかな……。それにしてもドラマ版で、深田恭子に「たった10億円ぽっちのお金がほしくてこんな事件を起こすなんて……」といわせた脚本家、この小説のスピリットをよくわかっていらっしゃる(笑)

    NoTitle

    ふうむ・・・富豪刑事。。。
    あまり知らないですが。。。
    ・・・というか、まったく知らないのですが。。。
    ポールさんが笑えるほど面白いものなのでしょうね。
    また、手に取ってみようかな?

    Re: フラメントさん

    おっ、筒井康隆ファンですか。

    いつも首まで漬かったミステリファンにしかビビッとこない作家の話ばかりしていてすみません(^^;ゞ

    しかし、あの全集の「富豪刑事 関節話法」の巻は、小説からエッセイから評論から、傑作しか入っていない巻ですなあ。

    Re: 面白半分さん

    男子校の上に形式上は中高一貫校でしたからね。澁澤龍彦選集まであったからなあ(^^;)

    朝倉泉事件は一時センセーショナルを巻き起こしましたが、調べてみたら1979年でしたか。今から40年前のことだから、みんな忘れていても当然かもしれませんなあ。それにしても事件当時まだ小学校に上がるかどうかという息子に「筒井康隆は読むな」と厳命するんだから、うちの親もそうとう異常ですなとほほ(^^;)

    純粋に筒井康隆のファンなので

    今回の記事は楽しめました

    NoTitle

    筒井康隆全集を入れるとはなかなかさばけた学校ですね。

    「朝倉泉事件」も「還らぬ息子 泉へ」も記憶がないのですが
    そんな書かれ方をしているとは全く知りませんでした。

    私の両親は小説を読まないので
    堂々と筒井康隆の文庫本を買い集め
    件の全集までも、小遣いの75%を使用し購入してました

    Re: miriさん

    深田恭子バージョンのドラマ版富豪刑事は、気にはなっていたけど、見ないで来てしまいました(^^;) ウィキペディアで調べたら、原作者の筒井康隆自身が「小説よりも富豪らしい」と評していたと書いてあって、自分の不明を恥じる次第です。あとでレンタル屋に行ってレンタルしよう(残ってればだけど……(^^;))

    小説版の富豪刑事は、まさに「いいところのお坊ちゃんがそのまま成長して刑事になった」みたいな感じなので、ゴージャスな深田恭子とはまた違うかもしれませんね。物価も昭和50年代だし。

    手塚治虫の実験アニメ、楽しんでいただけたようで何よりです。

    「ジャンピング」と「おんぼろフィルム」は、忘れたころにまた見たくなる作品です。よくセル画アニメの時代にあんなとんでもない作品を作れたもんだ。特に、「ジャンピング」で動画を上げる羽目になったアニメーターと、「おんぼろフィルム」でセル画にあの細かい「古い映画によく飛んでいるゴミや擦り切れ」を描く羽目になった(わたしも聞いた話で確証はないですが……)アニメーターには深く同情したい(笑)

    あのビデオを手に入れたのは、大学を中退してからだからそれほど若くもないかな(笑) これはいま押さえないとなくなってしまう、と、つぶれたDVDレンタル屋の特売棚で飛びついて買ったのを覚えています(笑)

    こんにちは☆

    富豪刑事、って深田恭子のドラマでありましたよね?
    私がまだ映画を見る事を再開する前で、
    その頃はそういう軽いドラマをよく見ていました。

    筒井さんの原作だったんですね~!
    主人公が男性だと雰囲気違うかな?

    ところで手塚先生の短編集を有難うございました☆
    やっと落ち着いたので3日(月)に鑑賞させて頂きました。
    明日記事をアップしますので宜しくお願いします。

    フイルムは綺麗でした♪
    貴重な作品群だと思うのですが
    若い時に見られればもっと良かったのにって思いました。。。

    その点、ポールさんはお若い時(幼い時?)に
    鑑賞されて良かったですね!


    .
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