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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ69位 蝶々殺人事件 横溝正史

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     小学生の時に押入れより発見。名探偵が金田一耕助でないのが気になったが、とにかく読んでみよう……として玉砕。ちょっと小学生には横溝正史の文章は敷居が高すぎた。もっとも、この「蝶々殺人事件」は、日頃の金田一ものの地方の旧家のドロドロの人間関係、というやつの一切ない、スマートで遊び心たっぷりの作品であるのだが、コントラバスが何だかもわからない小学生に、オペラ界の小道具がぞろぞろ出てくる小説を楽しめといっても困難であろう。

     実に30年ぶりに再読である。筋もトリックもそれなりにわかっている以上、楽しめないかな、と思ったら、意外と道具立てが地味だったのに驚いた。平成の新本格軍団の洗礼はすさまじく、この小説くらいの道具立てでは「豪勢」と思えなくなっているのだ。世の中は進歩するものである。

     そんな感慨にふけりながら読んだが、あまりのスマートさに、たしかに、これなら金田一耕助もののほうが人気が出るなあ、と思えた。名探偵の由利麟太郎先生やワトスン役の三津木俊助は好感が持てる人物なのだが、アクというものが弱すぎて、金田一耕助のほうが圧倒的にキャラクターとして面白いからである。スター性、というものがあるのだろうなあ。名前からしてすでに、面白さが違う。

     アリバイ崩し、暗号の謎、密室殺人、読者への挑戦と、やっていることは盛りだくさんなのであるが、そのひとつひとつも上品すぎるし。そもそも、コントラバスのケースを開けたら、その中に死体が、というショッキングなはずの冒頭が、それほどショッキングとも思えないあたりからして、横溝正史らしくない。

     横溝正史作品としてではなく、鮎川哲也作品だったら、本書は「りら荘事件」を抜いてこの手のベストの上位の常連になっていたんじゃないかな、と思わないでもない。特に、戦後間もなくの混乱期に書かれたとも思えぬフェアプレイ精神に満ちた作品なので、その手のゲーム的な小説が好きな人にはたまらないだろう。

     今調べたところ、由利先生シリーズでは、戦前に書かれた作品のほうが地方の旧家のドロドロの人間模様と怪奇趣味が色濃く出ているそうな。うーむ、これは、読んでみないとダメかな。映画になってベストセラーにもなった金田一耕助ものと違い、由利先生ものはそれほど図書館でも見ないのだが。今後の宿題ということにしておこう。読んだ友人の話だと、長編「真珠郎」なんて美少年と耽美系が大好きなかたがたには超おすすめ、だそうなのだが……。
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    ~ Comment ~

    Re: 部分日っひゃくさん

    少なくとも風邪を治すまでは文春の海外ミステリ一冊として読み切れぬのだ……ゲホゲホ(汗)

    あ、でも去年出たミステリではジョン・ロードの「代診医の死」が面白かったな。(1936年度英国作品)

    NoTitle

    >変格ミステリ
    それ、よく聞くけど、特に気にも留めてませんでした。
    特徴はそのブリッツさんの説明でなんとなくわかったんだけど、イマイチ具体的にわからないんで代表的な小説を教えてくださいませ(^^)/

    本格ミステリーって、決してキライじゃないんだけど、ほら、やたら偏狭なファンがいるじゃない(笑)
    あれはダメ、それはイイって、要はその人が自分の好みで枠作ってるだけじゃん!とか思っちゃうのね(^^;
    もちろん、そういう傍から見るとどーでもいいじゃん!的コダワリがイノベーションを生んできたっていうのはあるにはあるんでしょうーけどね。
    ただ、今の世になんとなくある「本格こそが正しい!」みたいな風潮を見ていると、人をコロすのにわざわざ変な館を作るヤツいねーよ!って茶化したくなっちゃうというのは、そういう星の元に生まれたからなんですかねぇ…(*^^)v

    >80年代までに売れていたミステリが面白くて
    最近のものって、本格好きが高じて、それこそ「ヒトヲコロスノニソンナメンドウクサイコトスルヤツ、イネーヨ」になっているのも多いけど、反面、昔のものをいい風にブラッシュアップしているものもあると思いますけどね。
    あ、ただ、今のものは、読者に至れり尽くせりすぎる!っていう面はあるのかな?
    そいうとこは、ブリッツさんは鼻白んじゃうかもしれませんね(^^;
    私としては、ブリッツさんが三津田信三の刀城シリーズとか、京極夏彦の京極堂シリーズをどう評価するのか?とっても興味あるんだけどな(^_-)-☆
    • #19812 部分日っひゃく 
    • URL 
    • 2019.01/06 18:18 
    •  ▲EntryTop 

    Re: miss.keyさん

    ちなみにここまで読んできた170冊、全部、ミステリファンにとっては「基礎教養」のレベルね(笑)

    Re: 椿さん

    「蝶々殺人事件」は、古き良き戦前のオペラ界を舞台としていて、横溝正史とは思えぬスマートさです。

    試し読みには、「獄門島」とか「悪魔の手毬唄」よりも向いてるんじゃないかな。

    ちなみにサリエリの曲はありません(笑)

    Re: ひゃ暮れさん

    >コントラバス

    児童の折に使っていた教科書には「チェンバロ」と書かれていて……。

    >本格

    それを語り出すと、戦前の「本格ミステリ派」と「変格ミステリ派」の対立から説明せんとあかんのです。要するに、戦前には乱歩が範とした欧米のクイーンやヴァン・ダインのような犯人当て謎解きミステリの長編を書ける人が少なかったんですな。それでもミステリファンはそういった作品を求めたのです。それに対して、ほかの文学からミステリに入ってきたような人が、犯罪者の心理とか、異常なシチュエーションとかにこだわったようなミステリを書いた。次第に前者を「本格探偵小説」後者を「変格探偵小説」と呼ぶようになっていきました。そこまでいったところで治安維持法によるエログロナンセンス取り締まりで戦前の探偵小説は壊滅し、長い雌伏の時を過ごすことになるのであります。

    >三津田信三

    80年代までに売れていたミステリが面白くて、そこまで手が回せません(笑)

    あんたいったい

    ミステリー何冊読んでるのや。知らんもんばっかりやないかーい。

    NoTitle

    こんばんは。
    そういえば横溝正史は金田一ものしか読んでいないなということに気が付きました。
    今、自分内オペラブームなのでちょっと読んでみたいかもです。

    NoTitle

    >コントラバスが何だかもわからない小学生

    なんと!子供の頃から海外ミステリーを読んでいた、ませガキ少年のブリッツさんとも思いないご発言('ω')ノ
    コントラバスって、音楽の授業で習うじゃん。
    さては、音楽の授業の時は、教科書を机に立てて、その陰で海外ミステリー読んでたな口だなぁ~(笑)

    >平成の新本格軍団

    個人的に、あれらはT書房の実話怪談本レベルと思ってるんですけど、それを言うと結構みんなイヤがりますよね(爆)

    >アクというものが弱すぎて、金田一耕助のほうが圧倒的にキャラクターとして面白い

    あ、そうなんだ。
    今更、読みたいと思ったんだけど、もう絶版でアマ古(アマゾンの古本ねw)でも結構な値段ついてるんですよね。
    てことは、読まなくてもいいか!(^^♪
    横溝正史といえば、こないだ「犬神家」のドラマやってましたけど、みました?
    ま、見ないか。グノーシスの方で忙しそうだから(笑)
    (ていうか、あーいうクダラナイTVを見れば、たぶん眠れるよw)
    なんていうか、「犬神家の話」じゃないんですよ、作りが。「金田一耕助の話」になっちゃってたんです。つまり、天才的でカッコいい探偵の話。
    とはいえ、それが今求めらている「ミステリー」なんだなーと思っちゃったと(笑)

    そういえば、「本格モノ」って、なんで「本格」って言うんです?
    「本格」とか、いかにもそれが正当って感じの名称がついてるから、それこそが正当で、他は亜流みたいな錯覚をもっちゃうんじゃないのかな?特に今みたいにみんなネットで頭でっかちになっている時代は(^^;
    別に「本格モノ」が嫌いってわけじゃないんだけど、今の世の中のどこかにある、本格こそがミステリー小説で正しい存在で、あとは一段劣るみたいな論調(読者の)を見てると、ついイチャモンつけたくなるんですよね~(笑)

    >それほどショッキングとも思えない

    そうそう。
    横溝正史に最初凝ったのは、高校生の時だったんだけど。
    その時点でなんか地味だなーと思って、読まなかったんですよね。

    >「真珠郎」

    それ、今年の春くらいかな?
    ジュンク堂や丸善、あと大盛堂だったかな?といった本屋限定で再発したんですよ。あの角川文庫の表紙で。
    いや、もちろん買いましたよ。
    でも、たまたま別の本を読んでいて。
    つい、積読になっちゃったのを、今思い出したという(^^;
    だからって、あげません(爆)

    >地方の旧家のドロドロの人間模様と怪奇趣味が色濃く出ているそうな

    最近のそれっぽいモノとして、三津田信三の刀城モノなんて、ブリッツさんとしてはどう評価するの?

    Re: 面白半分さん

    あの表紙絵を見たときはびっくりしました。こんなホラーみたいな作品だったっけ、と(笑)

    華やかなオペラの世界でケレン味たっぷりの事件が起きるという、金田一耕助みたいな泥臭いやつが出てきたらダメなタイプの作品ですね。由利先生ものにしたのは間違いじゃないと思います。

    むしろ高木彬光の神津恭介が解決すべき作品じゃないかな(笑)

    NoTitle

    角川文庫のカバー絵は杉本一文さんの作品で
    楽器ケース(コントラバスだったのか)の中に
    死体らしきものが入っているものだった記憶があります。

    いつもながらのおどろおどろしい作品のイメージでしたが
    実は遊び心たっぷりの作品だったんですね。

    読んではいるがまったく覚えていませんでした
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