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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ70位 殺人鬼 浜尾四郎

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     大学を中退してから、古本屋で創元の「浜尾四郎集」を買って読んだ。悔しいことに面白かった。さらに悔しいことには、「東西ミステリーベスト100」のうんちく欄では「犯人が簡単に分かる」と書いてあったにもかかわらず、わたしは見事に騙されてしまったのである。ミステリ読みとしてはまさに士道不覚悟、いいわけのしようがない屈辱であった。素直に考えればよかったのだが……。

     それから長いこと読んでいなかったが、この企画のために再読した。さてどうか。

     結論として、ちょっとミステリ慣れした人間には、本書の犯人は、簡単に分かる。浜尾四郎は処女長編として気張りすぎたのだろう、一生懸命伏線を張ってはそれを隠そうと努力しているのだが、その努力の跡が見事に目立ってしまっており、初々しいのはいいが、これが横溝正史ならもっとうまく隠すだろう、としか思えないのがなんともである。

     だが、本書は面白い。戦前の長編ミステリでは、「ドグラ・マグラ」や「黒死館殺人事件」といった変態作家の奇書を除くと、きちんと探偵小説している作品で今も読むに堪えるものは乱歩と横溝正史を除けば、本書くらいのものである。木々高太郎の「人生の阿呆」より、この「殺人鬼」のほうがはるかに遊び心に富んで、面白く、ついページを繰りたくなるのだ。ネタ元にしているのはヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」なのだが、小道具といい盛り上げ方といい、浜尾四郎、堂に入ったものだ。もと法曹畑出身の上、貴族院議員も務めただけあって、学識も教養も充分で、読んでいてもその人柄が伝わってくる上品さである。

     まあ、たしかにテーマの深さや衝撃度では、浜尾四郎は「殺された天一坊」という場外ホームラン級の傑作をはじめとする法律をネタにした短編群のほうが重要だろうが、「殺人鬼」と続編「鉄鎖殺人事件」といった名探偵藤枝慎太郎の活躍する長編は、エンターテインメントの可能性としてのミステリを考える上で、外すことができない。「可能性」に終わってしまったのが残念だ。浜尾四郎は、この遊び心に富んで、上品で、大人が読む娯楽小説としての第三長編に取り掛かろうとしていたところで、急逝してしまうのである。第二次大戦がなく、浜尾四郎が存命だったら、どれだけ彼に続くスマートなミステリが登場したことか、と考えると本当に残念だ。

     長いこと浜尾四郎の作品は入手困難が続いており、正直生きている間に「鉄鎖殺人事件」が読めるとは思わなかったのだが、沖積舎から二冊の分厚いハードカバーの完全本が出た上、青空文庫でも普通に読める時代になった。長生きというのはするものである。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    「鉄鎖殺人事件」は、「殺人鬼」の続編で、また名探偵藤枝慎太郎が大活躍します。
    今回はコメディ・リリーフがさらにもう一人増えて、話の明るさが事件の猟奇性ともどもパワーアップしてます。

    彼がもっと長生きしていたら、明るく楽しい大人の探偵小説が市民権を得るまでに仁木悦子や天藤真を待つこともなかったかもしれません。面白いよ~。

    NoTitle

    創元の「浜尾四郎集」で読みましたが
    面白かったです。
    たしか新聞連載小説でしたね。メリハリがついていて読みやすかった。
    「鉄鎖殺人事件」のほうはその存在も知りませんでしたが
    気になります

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