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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ72位 炎に絵を 陳舜臣

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     大学をもう少しで去ろうという時、精神のどん底で読んだ。とても暗い話だという印象を受けた。それ以外のことはすべて忘れた。そのうえで再読。20年ぶりだが、当時の印象は正しかったのだろうか。

     まず結論から書く。当時の印象からすると想像もできないくらい読みやすい小説だった。暗いどころか、明朗でさわやかな印象を受ける。だがしかし、同時に、読後感は非常に悪い、というのも事実。これは作者の陳舜臣のたくらみの勝利だろう。作者は、明朗快活なだけで終わる小説を書こうなどとは最初からほんのわずかも考えていないのだ。

     とにかく、この小説の読みどころは、一にも二にも周到なうえに周到に張り巡らされた伏線と、鮮やかなまでのその回収にある。結末に至って、あれにもこれにも意味があったのか、と思い知らされるのは、ミステリファンにしか味わえない至福の時間だ。だが、そこで示される真相はあまりにも苦い。抑鬱的状態になっていたわたしが読んで、「暗い」と錯覚したのもむべなるかな、というものなのだ。

     これは、作中で殺されることになる人物を、作者は「殺されて当たり前」の人物とはまったく描かなかったことにもよる。それも作者のたくらみのひとつであるわけだが、その事実が、読んだ後、猛烈に重くのしかかってくる。

     暇つぶしに軽いミステリを読みたい、というのなら、おすすめはしない。だが、日本語で書かれたミステリの傑作を読みたいのなら、本書は捨てるわけにはいかない一作だ。

     それがたとえミステリの中だろうと、人が一人死ぬということは重い。あまりにも重い。この苦い結末の後、登場人物たちはどうするのだろう、と考えてしまいたくなる。もしかしたら、陳舜臣は、そういう「その後」を書ける文学として、歴史小説のほうへ活躍の場を移したのかもしれない。

     もし、探偵役が「枯草の根」で大人(たいじん)ぶりをいかんなく示した陶展文だったら、結末もまた違ってきたのではないか、と思う。苦い結末には違いないものの、大人としての風格と人徳で、ある種の諦念とともに、この作品よりはいくらか「まっとうな」結末に持ってくることができたのではないか、と。今からではどうしようもないが、そのほうが、この小説の「犯人」にとっても、まだ、よかったのではないか。人間が生きていかなければならないことは確かだが、ある意味、「救われなければ」生きていかれないこともまた真実なのだ。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    途中までの爽快さが作者のたくらみとわかるシーンはすごいですよね。

    陳舜臣、思った以上の根性悪というか、屈折してるんだなあ。

    NoTitle

    読んだのかどうかあやふやだったので
    確認したら出版芸術社版を持っていました。
    記事にもしていましたが何がどう面白かったかはもうわかりません。

    そんなわけで再読してみたくなりました。




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