「ショートショート」
その他
馬鹿には似合いの結末
今日もわたしは、ショートショートをブログに載せるため、ワードの画面を立ち上げていた。タイトルだけは決まっていた。「馬鹿には似合いの結末」というのだ。タイトルとしてはなかなかいい響きの文句だ。皮肉で、残酷で、わたしの好みである。ショートショートはいつもタイトルとおおまかなプロットとオチを決めてから後は自由連想式に一気に書き上げるのだが、今日はまだ、どうするかが決まっていなかった。なに、これから考えつくだろう。
友達からのメールが来たサインが出てきた。わたしはボックスを開いた。
『あなたのこの間の言葉は腹に据えかねます。もっと真面目に生きたらどうですか。今後、あなたとは一切関係を持ちたくありません。絶交します。それじゃ』
朝の一番には出くわしたくないメールだった。
なんとかできないかと考えているとまたもメールが来た。違う友人からだ。
開ける。
『おれだ。君が連帯保証人になっているあのイカサマ野郎が逃げた。もとから逃げるつもりで君を連帯保証人にしたらしい。おれはその前になんとか保証人から名前を抜いておいたが、君だけが残ってしまった。やつの借金総額は目下計算中だが、莫大な額にのぼる。とりあえず話し合おう。ではまた』
逃げやがったのかあの男……!
煮えたぎるような頭を静めようと、テレビのリモコンを入れた。
経済ニュースがやっていた。
『……これまで好調を維持していた新興諸国通貨の一部が、連鎖的に記録的な大暴落を……FX取引への影響は必至……』
わたしがFXで二十倍のレバレッジをかけて取引している通貨だった。
リモコンを片手に凍り付いていたら、携帯が鳴った。電話番号によれば、会社の同僚だった。取る。
「もしも……」
「ぼくだ! そっちに警察が向かっている!」
「警察? わたしはそんなことに覚えは……」
「そんなことをいっている場合じゃない。背任と巨額の使い込みが見つかったんだ。会社は、上を下への大騒ぎだぞ」
「使い込みなんて、わたしがやれるわけがないだろう! だいいち……」
「わかってる。君はそんなことできるほど頭はよくない。だが、もっと頭の働く誰かが、なにかの事情で出てきた損失を君に全部おっかぶせたらしいんだ。君が使い込んだという証拠書類が、次から次へと出てきている。問題は、警察が誰の言葉を信じるかだが……もしもし、もしもし!」
頭が真っ白になってなにも考えられなくなっていた。わたしはなにかをぶつぶついって電話を切った。
切ったと思ったらまた鳴り出した。
わたしは通話スイッチを入れた。
「……だから、その話はよしてくれ! 考える時間が……」
「あたしよ! 父さんが、父さんが……」
「……なんだ、母さんか。落ち着いてくれよ。どうしたんだ、そんな声出して」
「たった今、お父さんが、事故を起こして……今そこからかけてるんだけど……人をはねてしまって……お父さんも大怪我を……」
「なんでまた!」
「それが、タイヤらしくて……昨日、お前が交換してくれたやつだけど、取り付けが悪かったらしく、走行中に急に外れて、コントロールを失って……これからタクシーでそっちへ行くけど、入院費と賠償金が……。もしもし、もしもし?」
わたしは携帯を切って、電源を切った。
台所に行って、包丁を取ってくる。
玄関のインターホンが鳴った。
「警察ですが、任意同行を求めたいので、扉を開けてください……」
服を脱いで上半身裸になってから、包丁を逆手に握り、深呼吸する。
パソコンのモニターを見た。
「馬鹿には似合いの結末」
遺書としてはなかなかいい響きの文句だ。皮肉で、残酷で、わたしの好みである。
友達からのメールが来たサインが出てきた。わたしはボックスを開いた。
『あなたのこの間の言葉は腹に据えかねます。もっと真面目に生きたらどうですか。今後、あなたとは一切関係を持ちたくありません。絶交します。それじゃ』
朝の一番には出くわしたくないメールだった。
なんとかできないかと考えているとまたもメールが来た。違う友人からだ。
開ける。
『おれだ。君が連帯保証人になっているあのイカサマ野郎が逃げた。もとから逃げるつもりで君を連帯保証人にしたらしい。おれはその前になんとか保証人から名前を抜いておいたが、君だけが残ってしまった。やつの借金総額は目下計算中だが、莫大な額にのぼる。とりあえず話し合おう。ではまた』
逃げやがったのかあの男……!
煮えたぎるような頭を静めようと、テレビのリモコンを入れた。
経済ニュースがやっていた。
『……これまで好調を維持していた新興諸国通貨の一部が、連鎖的に記録的な大暴落を……FX取引への影響は必至……』
わたしがFXで二十倍のレバレッジをかけて取引している通貨だった。
リモコンを片手に凍り付いていたら、携帯が鳴った。電話番号によれば、会社の同僚だった。取る。
「もしも……」
「ぼくだ! そっちに警察が向かっている!」
「警察? わたしはそんなことに覚えは……」
「そんなことをいっている場合じゃない。背任と巨額の使い込みが見つかったんだ。会社は、上を下への大騒ぎだぞ」
「使い込みなんて、わたしがやれるわけがないだろう! だいいち……」
「わかってる。君はそんなことできるほど頭はよくない。だが、もっと頭の働く誰かが、なにかの事情で出てきた損失を君に全部おっかぶせたらしいんだ。君が使い込んだという証拠書類が、次から次へと出てきている。問題は、警察が誰の言葉を信じるかだが……もしもし、もしもし!」
頭が真っ白になってなにも考えられなくなっていた。わたしはなにかをぶつぶついって電話を切った。
切ったと思ったらまた鳴り出した。
わたしは通話スイッチを入れた。
「……だから、その話はよしてくれ! 考える時間が……」
「あたしよ! 父さんが、父さんが……」
「……なんだ、母さんか。落ち着いてくれよ。どうしたんだ、そんな声出して」
「たった今、お父さんが、事故を起こして……今そこからかけてるんだけど……人をはねてしまって……お父さんも大怪我を……」
「なんでまた!」
「それが、タイヤらしくて……昨日、お前が交換してくれたやつだけど、取り付けが悪かったらしく、走行中に急に外れて、コントロールを失って……これからタクシーでそっちへ行くけど、入院費と賠償金が……。もしもし、もしもし?」
わたしは携帯を切って、電源を切った。
台所に行って、包丁を取ってくる。
玄関のインターホンが鳴った。
「警察ですが、任意同行を求めたいので、扉を開けてください……」
服を脱いで上半身裸になってから、包丁を逆手に握り、深呼吸する。
パソコンのモニターを見た。
「馬鹿には似合いの結末」
遺書としてはなかなかいい響きの文句だ。皮肉で、残酷で、わたしの好みである。
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NoTitle
キャハハハハ
おもろいなぁ~~
そりゃ、ヤケクソの上に
もしたくなる。
シュールで皮肉に満ち満ちていて。
ぐーーー
おもろいなぁ~~
そりゃ、ヤケクソの上に

シュールで皮肉に満ち満ちていて。
ぐーーー

- #4114 ぴゆう
- URL
- 2011.05/19 13:26
- ▲EntryTop
小説だぞ本物の遺書じゃないぞ。
断っておかないと誤解する人が出てくるからな。
でも今日はこういう気分にだったのも事実。
一日ブルー。
断っておかないと誤解する人が出てくるからな。
でも今日はこういう気分にだったのも事実。
一日ブルー。
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Re: ぴゆうさん
だからこの主人公を取り巻く絶望感は半分はわたしのものだったりします(汗汗)。
ギャグでも書かなきゃやってられん、という心境でありました……。(汗汗汗)
今はなんとか立ち直りましたが。