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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ74位 顎十郎捕物帳 久生十蘭

     ←日本ミステリ73位 黒い画集 松本清張 →自炊日記・その85(2019年1月)
     最初に知ったのは、桜井一の名著「名探偵100人紳士録」の「顎十郎」の頁である。まったく聞いたことがないシリーズだったのだが、何かの拍子で、小説誌の推理短編特集に再録されていた「遠島船」を読んでのけぞった。「マリー・セレスト号事件」かよ、と思えるシチュエーションが、見事に謎がすぱすぱ解けて合理的な解決を迎えるのである。捕物帳とは思えないダイナミックさだ。

     それ以来、古本屋を丹念に回っては久生十蘭の「顎十郎捕物帳」を探していたが、ある日新刊本屋で創元の「久生十蘭集」を何の気なしに開いたら、「顎十郎捕物帳」が全作収録されていて、一気にボルテージが上がってそのまま喜んで買って帰った。目の前にあると気がつかないものである。夢中で読んで、ああ面白かった、で済んだのだが、さてその感想は正しかったのか。十五年ぶりくらいに再読。

     読んでいて思ったのだが、さすがの久生十蘭先生も、このシリーズの初期の頃は、「どうやって捕物帳を書いたらいいか」がよくわからなかったのだろう。妙にアクションを入れたり、江戸情緒を入れたりしているが、途中から開き直ってくる。そして、開き直った後の方が三倍くらい面白い。作風でいえば、E・D・ホックの諸作を先取りしているのである。先ほど挙げた、「マリー・セレスト号」を江戸時代でやる「遠島船」とか、密室状態の両国の見世物小屋からクジラを一頭まるまる消し去る「両国の大鯨」など、サム・ホーソーン医師がハダシで逃げ出す不可能犯罪ぶりであり、こういう捕物帳が「戦前に」書かれていた、ということだけで嬉しくなってくる。

     だが、わたしがこの「顎十郎捕物帳」の中で一番好きな話は、「丹頂の鶴」である。なぜ、将軍の飼う「丹頂鶴」が殺されなければならなかったのか、というホワイダニットと見せかけて、これがもう、なんともよくできた「人情噺」なのだ。どうして落語家がこれを換骨奪胎して高座にかけないのか不思議なくらいである。

     というわけで、全24編、興奮して読み終えた。余は満足である。もし、「捕物帳はミステリっぽいケレンがなくてつまらん」というかたがいたら、まずこのシリーズを読むことをおすすめしたい。マニアが青空文庫にデータとして24編全部収録しているから、ケチなあなたでもお金を出さずに読むことができる。

     世の中にそう多くはないよ、北町奉行所に務める、剣の達人の捕物名人が、ある事件をきっかけに、自ら役を辞して「辻駕籠屋」になって、シリーズの終わりまで駕籠屋をまっとうして生きる捕物帳なんて……。
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    ~ Comment ~

    Re: 面白半分さん

    あの不気味な人形のイラストが描いてあるアレですw

    理知的な作風の安吾や久生十蘭や浜尾四郎までああいうイラストで売らなあかんかったいうのはちょっとかわいそうですねw

    Re: ひゃっくと豆まきさん

    ミステリでは、このあたりは、「基礎教養」に当たるところですw

    だから、わたしがこの試みでやっているのは、「基礎教養の総ざらえ」なのであります。

    いやマジでw

    NoTitle

    創元のって日本探偵小説全集ですかね。
    再読してみます。
    時代物が不得手なのでナナメ読みしてしまった気がする

    NoTitle

    ご無沙汰。

    >久生十蘭
    読めなくて、検索しちゃいました。
    なんだ。素直に読めばよかったのね(^^;

    ていうか、なんで、そんなオタッキー?
    これからは、ポール・ブリッツじゃなくて、
    ポール・オタッキーと呼んであげます(笑)
    • #19868 ひゃっくと豆まき 
    • URL 
    • 2019.02/03 16:26 
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