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    東西ミステリーベスト100挑戦記(ミステリ感想・やや毎週土曜日更新)

    日本ミステリ77位 団十郎切腹事件 戸板康二

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     戸板康二と歌舞伎役者の名探偵・中村雅楽の名前を知ったのは、小学生のおり、押入れから、父が買った当時のアンソロジーを見つけたときのことである。今思い出してもすごい顔ぶれの探偵たちであった。横溝正史「女怪」の金田一耕助はいいとして、覚えているだけでも、角田喜久雄「青い雌蕊」の明石良輔記者、陳舜臣「引きずった縄」の陶展文、仁木悦子「弾丸は飛び出した」の仁木雄太郎・悦子兄妹、山田風太郎「お女郎村」の荊木歓喜医師、とそうそうたるメンバーだった。そんな中に、「奈落殺人事件」の中村雅楽も入っていたのである。普通だったら、こういう濃すぎるメンツを見たら放り出すだけだろうが、「名探偵」という言葉に目がくらんでいる小学生はものともせずに読むのであった。短編であったこともあり、彼らの活躍ぶりは脳裏に深く刻み込まれたのであった。

     とはいえ、小学生には、どこで「陶展文」や「仁木兄妹」や「荊木歓喜」や「中村雅楽」の冒険譚を探せばいいのかすらわからなかった。陶展文の活躍する「枯草の根」や、仁木兄妹の活躍する「猫は知っていた」「林の中の家」を読めたのは高校生の時であり、中村雅楽は大学近くの市立図書館で短編集「団十郎切腹事件」「グリーン車の子供」をようやく読むことができた。荊木歓喜に至っては、読むことすらあきらめていたが、大学を中退して実家に戻ってきてから起こったのがミステリ作家山田風太郎のブームである。「十三角関係」夢中で読んだ。最近では、よほどマニアックな作品でもない限り、図書館同士の相互貸借でいくらでも読める、という時代になっていて、ありがたい限りである。

     まあ、でも、中村雅楽も、本がまとまっていないんじゃ「団十郎切腹事件」と「グリーン車の子供」の二冊しか読めないだろうな、とあきらめていたが、なんということか、創元推理文庫が、「中村雅楽全集」全五巻を出そうとはこの海のリハクの目をもってしてもわからなかった。買いましたとも。読みましたとも。読み終えたときにはもう中村雅楽と歌舞伎の話はおなかいっぱい、という気分になっていたのだから、贅沢な話ではある。

     「団十郎切腹事件」は、作者の戸板康二が、「がんばってミステリを書こう」と努力していたころの初々しさが残る作品集であり、わたしはここらへんの中村雅楽が一番好きだ。「グリーン車の子供」あたりからは、どんどん文章が「枯淡の境地」に近づいて行って、いい意味での「俗気」がなくなってしまううらみがあるのだ。

     戸板康二が亡くなって何年たつか忘れたが、こういうミステリを書ける人が二度と出てくるとは思えない。2012年度版の「東西ミステリーベスト100」では完全圏外だったが、創元の全集の発売で、次回は必ず復活するだろう。戸板康二こそ日本ミステリ界にしか存在しえないユニークなミステリ作家だ。もっと読まれてもいいと思う。
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    ~ Comment ~

    Re: さいもん・ひゃーくの事件簿さん

    戸板康二先生は、歌舞伎のことを語らせたらこの人しかいない、というような人でしたが、亡くなられたのはずいぶん前ですので、まあ、忘れられても仕方がないそんざいかもしれませんね。

    調べてみたら、1993年に亡くなられてますから、大正生まれとしては、生きるだけ生きた、という感じかな。こういう人は二度と現れないでしょうねえ……。

    Re: 面白半分さん

    たしかに「うっちゃっても構わない」とは言いすぎでしたが、あの人のミステリ、どんどんミステリとしての「野暮さ」からは離れて、「枯淡の境地」に近づいて行くんですよ(^^;) 後期作品は、なんか「随筆」を読んでるみたいな感じになるんですね。面白いことは面白いんだけど、個人的には、「団十郎切腹事件」や「グリーン車の子供」に入っているような、からくりと趣向が充溢している作品のほうが好きです。

    創元の第一短編集は力作ぞろいで面白いですよ。歌舞伎の勉強にもなりますし、一種の情報小説としても一級ですな。

    NoTitle

    >「奈落殺人事件」の中村雅楽も入っていた
    「俺たちの旅」の中村雅俊は入ってないの?(^^;

    >戸板康二が亡くなって何年たつか忘れたが
    忘れるっていうか、そもそもそんな人知らんぞぇー。
    戸板返しで死んでた人なら知ってるんだけどなぁー(^^)/

    • #19955 さいもん・ひゃーくの事件簿 
    • URL 
    • 2019.03/10 15:59 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    以前、こんな本を買ったといった記事の中で
    「中村雅楽全集」全巻買ったという事を書きました。
    その時、
    「団十郎切腹事件」と「グリーン車の子供」は必読だが
    あとはうっちゃってもかまわないです、
    なんてコメントいただきました。

    そのせいなのかどうかはわかりませんがまだ1冊も読んでないのであります。
    やはり正直”あとはうっちゃってもかまわないです”ですかねえ?!
    まずは必読2冊を読むのが先なんですけどね。
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