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    鋼鉄少女伝説

    鋼鉄少女伝説 11 ワンマンアーミー17:00

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    第三部 六月 イェルサレム編

     イェルサレム攻囲戦
     日時/七〇年五月~九月二六日
     場所/イスラエル・イェルサレム市

     紀元六六年、ユダヤ民族は、ローマ帝国の支配に抗してユダヤ戦争を起こした。だが各地で敗北を重ね、追い詰められたユダヤ人は聖地イェルサレムに立てこもった。ローマの内乱もあって、ローマ軍の攻撃は一時ストップしたものの、ヴェスパシアヌス帝の即位とともに、帝の息子ティトゥスが総司令官となって紀元七〇年に戦いが再開、イェルサレムは五ヶ月間の激しい戦闘の末に陥落した。攻囲戦の間に、イェルサレム内部は疫病と飢餓により地獄のようになっていたという。

       11 ワンマンアーミー17:00

    「午後五時の女、だそうだ」

     平穏な昼休み。

     ぼくは「シミュレーションボードゲーム同好会」の部室で、隅に重ねてある椅子を勝手に引っ張り出すと腰を下ろした。汚れでべたべたするんじゃないかなと思ったが、きちんと雑巾はかけているらしい。

     部屋の主でこの同好会の会長である霧村早智子通称キリコは、手に持っていたカードを伏せた。分厚く大きな眼鏡と、ポニーテールと呼ぶにはあまりにも乱暴にまとめられた髪型が特徴の色気のない女だ。やつはいくつもの紙の駒が乗ったゲーム盤から目を上げるとこちらを向き、乾燥梅干しの袋に手をやって、こうのたまった。

    「誰? その、都市伝説とかによく出てきそうな二つ名の人は」

     ぼくは腕を組んだ。

    「わかっているだろう。お前だよ」

    「わたし?」

    「そうだよ!」

     キリコと向かい合うようにして机を囲んでいたユメちゃんも顔を上げた。目がどことなく輝いている。

    「午後五時の女……かっこいいですね!」

     ぼくにはそうは思えなかった。

    「かっこいいかよくないかは別にして、どうやらけっこうな噂になっているらしいぞ、ぼくたち」

     キリコは笑って、袋から取り出した乾燥梅干しをひとつ口の中に放り込んだ。

    「そんなのギャラリーの数を見ていればわかるわよ」

     そういやそうだな。ぼくは昨日のゲームセンターの様子を思い出した。

     MAPを主な戦いの舞台としてからもキリコは連戦連勝だった。たまには混戦になることもあるが、キリコはそんな状況下からもユメちゃんとともに粘り強い戦いぶりを見せては勝利をもぎ取って行くのだった。

     そういう戦い方に妙に人気が出てきたらしい。このところギャラリーの数がどんどん増えてきたのだ。

     ぼくたちにはなんであれ受験勉強だの塾だのがあるので、必然的にゲームセンターに行くのは午後五時からの三十分ということになってしまったのだが、それがかえって興味を呼んだらしい。いつの間にか、戦えば必ず勝つ総大将の謎の女子高生「CUBISM」についた名前が、「午後五時の女」。

     そんな中ぼくがなにをしていたのかというと、キリコにいわれるがままに部隊をただ移動させたり、後方で逃げ帰ってくる部隊を再編したりすることにとどまっていた。囮部隊をやらされたことも一度や二度ではない。

     はっきりいわせてもらおう。ちっとも面白くない。

     シミュレーションゲームでもアクションゲームでも、要は戦って勝ってなんぼのものであろう。目立たない裏方ばかりやるというのは、ストレスだけが溜まって発散されるものがなにもなかった。

     なんでゲームセンターでこんな思いをしなければならないんだ。

     総大将をキリコと交代してもらうというのが話にならないこともわかっていた。ぼくが指揮なんか執ったら最後、ゲームはボロ負けしてユメちゃんが悲しい顔をすることになるに決まっているからだ。ゲームに負けるのはどうでもいいが、ユメちゃんを悲しい思いにすることだけは天地がひっくり返ってもぼくにできることではなかった。

     だけどもう我慢の限界だ。

    「なあ」

     ぼくはキリコに切り出した。

    「しばらくゲームを休まないか?」

    「いつまでよ」

    「噂が消えるまでだよ。ほんのしばらくの間だ」

     キリコは一蹴した。

    「無理ね」

    「なぜだよ」

    「テストプレイの期間は三ヶ月よ。今やめたとして、残っている期間は二ヶ月。ひるがえって、噂が消えるまでは七十五日。どっちが長いかさあ考えてみよう」

    「煙に巻くのはやめてくれ」

     ぼくはいった。

    「キリコ、君も受験生じゃないか。第一志望は国立だろう? こんなことをしている余裕なんて、ないはずじゃないのか」

    「こないだの中間テスト」

     キリコは指を立てて振って見せた。

    「どっちが上だったっけ?」

     ぼくはぐっと詰まった。

    「数学はぼくが勝ってた。化学もぼくが勝ってた。僅差だったけど」

    「数学と化学を持ち出すんなら、英語と国語と歴史はどうだったのかしらと聞きたいわね、順昇?」

     つくづく嫌味な女だ。

    「浦沢先輩、会長と英語力を競うのはあきらめたほうがいいです。会長は、海外から個人輸入で戦史の専門誌を取り寄せ、それを辞書抜きであらかたは読み下すことができる人ですから」

     ユメちゃんが解説した。

    「それに、浦沢先輩。ここにあるボードゲームの大半は、ルールブックが英語で書かれていますし」

     ぼくは壁際の棚にずらっと並んだ箱に目をやった。よく見ると、ほとんどがアルファベットのタイトルだ。

     でも、それをいうならぼくだって、アメリカのパソコン関係のウェブサイトには目を通しているぞ。

     そう抗弁するとユメちゃんは首を振った。

    「語彙の量が全然違うのではと思います。歴史文献を当たるには、文学作品などにも目を通しておく必要があります。会長は、ばら戦争のゲームをやるためだけに、シェークスピアを原語でまるまる一冊通して読まれたそうですから」

     ちょっとの沈黙。

     そんな化け物に勝てるか!

    「中間テストなんてどうだっていいんだ」

    「開き直ったわね順昇」

     キリコとぼくはにらみ合った。

    「とにかく」

     ぼくはキリコに指を突きつけた。

    「休ませてもらうからな。今後しばらくゲームには出ない。やりたかったら、ギャラリーから、誰でもいいから適当に見つくろってこき使えよ。進んで君の奴隷になるってやつはけっこういるんじゃないのか? でも、ぼくはごめんだよ」

     ぼくは椅子を蹴たてて立ち上がると、キリコに背を向けた。

     部室を出て教室へ戻ったときには、気分はすっきりしていた。

     ひさびさにいいたいことをいったので。



         予告

     逃げる男。待ち伏せる女。

     正面から向かってくる言葉の槍に、

     男はただ突き刺されるよりほかはない。

     離れることを決断したはずの戦場に、

     やはり再び戻っていく宿命なのか。

     次回「流速」

     キリコはいったい、何を夢見る。

    (ナレーション:銀河万丈)
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    ここで順昇くんを逃がしたら話が終わってしまうではないですか。

    彼女たちはまだ伝説のとば口にも立っていないので、ここで終わらせるわけにはいきません(笑)

    ここまで再録してきて、「うん、これは第一次選考を通らないわけだ」ということを納得している僕がいる(笑)

    NoTitle

    今度はエルサレム攻略戦か…… ちらっと紹介されただけでキリコちゃんがどう戦うか楽しみですね。

    キリコちゃんの快進撃は確実に順昇くんの稀有な才能があってのものですから(ユメちゃんもですが)、そう簡単に逃がしてはもらえないでしょうねー。次回予告で既にあやしい予感が(笑)
    離れるつもりの戦場に、順昇くんがどうやって連れ戻されるのか楽しみにしております!
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